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第46話 選択

金曜日。

仕事は確実第一で終わらせ、終業時間になった。

片付けていると、トオルが

「10分後に下で。」

と声をかけて先に会社を出た。

10分後?

ちらりと時計を見る。

片付けを終わらせても少し時間が有るな・・・トイレに行っておくか。

下に降りるとトオルが待っていた。

手には風呂敷包みを持っている。

??

さっきは持ってなかったよね?

近付いて

「お疲れ」

と声をかけたものの、風呂敷包みに目が行ってしまう。

「お疲れ。これな。夕飯。」

風呂敷包みを少し持ち上げながら言う。

さとるの夕飯の予定が特に決まってないなら、家で一緒に食わないか?」

風呂敷包みからトオルの顔に目を移すと、微妙な表情をしていた。

照れているような・・・ちょっと不安なような?

「特に夜ご飯の予定は立ててなかったよ。

それって・・手作りのお弁当? 僕の分もあるの?

僕、コンビニ弁当買って帰ってもいいけど?」

「余裕で有る! だからコンビニ弁当は買わなくていい。

・・・母親の手作りなんだ。さっき弟が届けてくれてな。

一緒に食べないか?」

「いいの?ありがとう。手作りの料理を食べる機会なんてそうそう無いから嬉しいよ。

トオルのお母さんの手作り料理楽しみだな。」

「そうか?それなら良かった。」

ホッとしたような顔をする。

「飲み物だけ買って帰ろうか。」

「おぅ。」


ーーー


「ごちそうさまでした。美味しかったー。」

トオルのお母さんの料理はどれも美味しかった。

毎日食べられるトオルが羨ましい。

「美味かったなら良かった。ごちそうさま。」

「んじゃ、お風呂をためて二人とも入ってしまおう。

寝る準備まで済ませてから始めようか。」

「わかった。俺はここの片づけしてる。」

「じゃ、お風呂の準備してくる。」


ーーー


先にトオルにお風呂に入ってもらい、家でしていた通りにゲームを進めている間に僕が入る。

上がったら、職業選択だな。

トオルだったらどの職業かな・・・。

騎士。聖騎士。ナイト・・はナシだなー。

・・・僕と同じ戦士もいいかも?

魔法使い系は・・・んー・・ゲーム慣れしてないとチョット苦労するかな?

召喚士・・・?

トオルの希望を聞いてみないと絞れないな。

魔石を使う系統の職業は強いけど、魔石調達がなぁ・・・。

僕が持ってるのを渡すのはかまわないけど、面白さが減るだろうし・・・。

一通り説明するのが先だね。

ワクワクしながらお風呂からあがる。

部屋に行くと、トオルが頭の後ろで手を組んでのけぞるように天井を見上げていた。

疲れたのかな。

「どうしたの?」

聞くと、クルリと振り返って

「ん?あぁ。例のダンジョンで行き詰まってる。

んー・・・どうすりゃいいんだか・・・。」

あぁ。なるほど。

ただモンスターを倒して通路を進むだけじゃクリアできないダンジョンに入ったのか。

そう言うダンジョンは、ダンジョン名はメールでリストを送ったけれど、攻略方法は教えていない。

面白くなくなるからね。

「リストのダンジョンは、これが初?」

「あぁ。リスト以外を先に攻略してたから。

リスト以外のダンジョンが今の俺の実力じゃ無理そうなのばかりになったからこっちに手をつけたんだけど・・・。

んー・・・。

わからん。」

「そっかぁ・・・。」

近付いてゲーム画面を見る。

ぅえ?!いきなりココ!?

リスト送った順に行けば徐々に難易度が上がって攻略出来ただろうに・・・。

ん~・・・どうしよう?

初っ端にココに来たんじゃ攻略はまず無理。

・・・。

「なんでこのダンジョンからにしたの?」

画面からトオルに目線を移して聞くと、

「ん?イヤ特に意味は無い。フィールド進んでて目に付いたダンジョンで、リストに有った名前だったからイケるかな?と。」

チョットだけ脱力してしまう。

でも、ゲームした事無かったんだよな。

「チョットいい?」

声をかけてトオルの装備やステータスを見てみる。

装備品は問題ない。

ステータスも全く問題ない。

おぉ!レベル結構上がってるね!

「レベル上げ頑張ったんだね。ビックリするくらい上がってるよ。

・・・もしかして毎日制限時間ギリギリまでプレイしてた??」

思っていた以上にレベルが上がっていて、心配になって聞いてみた。

「イヤ。毎日そんなにプレイしてたら仕事に影響して、かえって非効率だからな。

最初の寝不足で思い知ったから、その後は、4時間から5時間って所かな。」

「そうなんだ?

その割にはレベルの上がりが良いような・・・?」

更にステータスの詳細を開いて見ながら

「今の装備とステータスならこのダンジョンクリアは大丈夫そうだね。

後は攻略方法さえ解れば。だけどね。」

軽く笑いながらトオルを見るが、視界の端に写った情報に驚いて視線を画面に戻す。

見慣れない称号だ。称号の効果を確認する。

!?

・・・なるほど。

クスリと笑みがこぼれる。

僕もあの武器のおかげで、なかなかなチートだけど・・・トオルのチートに比べればカワイイ方かも。

「トオル。この称号っていつ手に入れたの?」

「え?称号??」

僕が指さした画面をのぞき込んで目をパチクリさせている。

「イヤ。知らん。

よく画面にいろんなお知らせが出てきてて、最初は読んでいたけど理解できない内容が多かったからすぐにスルーするようになったから・・・いつ手に入れたか分からないな。」

「そうなんだ? いつどこで手に入れたのか気にはなるけどいいや。

この称号のおかげでトオルは獲得経験値に補正がかかって、レベル上げしやすくなってるみたいだよ。」

きょとんとした顔のトオルが

「へぇー・・・」

と呟いている。

ゲーム慣れしていないトオルには獲得経験値補正のありがたみがイマイチつかめないようだ。

「レベルが上がりやすくなってるから、この後のダンジョン攻略もスムーズに進められるんじゃないかな。

・・・特殊ダンジョン以外は。だけど。」

「あぁ。そうか。まぁ、攻略がしやすくなるのは嬉しいな。」

そんなに嬉しそうに聞こえないのは、あまり理解出来てないからだろう。

ま、いっか。

「どうする?このダンジョン。僕からヒントを出すか、攻略の仕方を教えるか、一旦このダンジョンを中断するか。」

選択肢には入れたけど、攻略の仕方を教えるのを選んでほしくはないかな・・・ゲームを楽しんでほしいからね。

教えるのは簡単だけど、僕が楽しみを奪ってるような気分になるしこれ以上作業ゲーになるのはイヤなんだ。

軽く腕を組んで考えたトオルが

「一旦中断するよ。この系統のダンジョンで最初からさとるに教えてもらうとこの後も甘えてしまいそうだ。」

トオルの返事にホッとする。

少し目を伏せて考えていたトオルが

「ただ、一つ教えてほしい。今の俺がこの後このダンジョンを再開したとして、攻略できる可能性はどの位だ?」

ゼロだね。初っ端なのに高難度すぎる。

出てくるモンスターの難度は高くないからリストに入れてたけれど、今のトオルのレベルと今後のレベルの上がりやすさを考えるとこのダンジョンはスルーして他の高レベルダンジョンに行った方が人見町ひとみちょうダンジョンの条件クリアに近づくだろう・・・。

「ん~・・・そうだね。現時点ではこのダンジョンのスルーを勧めたいくらい。かな。」

「マジか。んじゃスルーするワ。人見町に行けるのが最優先だからな。いずれ余裕が出来た時にでも再挑戦するかな。」

そういうとトオルはパソコンに向かい、ダンジョンから出た。

「さて。今回のメインイベントだな。

職業について教えてくれ。」

職業選択画面を開いて振り向いた。

「そうだね。まずはザッと説明するね。」

職業画面を指さしながら説明をする。

まず系統を大まかに説明して、系統で代表的な職業をいくつか挙げて説明する。

画面を見ながら頷き、途中質問をしてくるトオルに答えて一通りの説明を終える。

「大まかにはこんな感じ。」

説明を終えて、画面を見つめて考え込むトオルを急かさないようにベッドに腰掛けた。

トオルが何を選ぶのか楽しみだ。

僕と同じ戦士なら、かなり最速で強くなれる手助けが出来るし。

僕とは違う職業を選ぶなら、サポートしながら新しい発見も出来そうで楽しいし。

ワクワクする。

召喚士とか?! 格好いい召喚獣とか従えちゃったり?!

魔法使いもいいんだよね。 高レベルの攻撃魔法はエフェクトスゴくてアツくなるし。あ、でも、トオルが第一の職業にするのはやめた方がいいかな。うん。

魔石使いもいいんだよね。・・・僕が魔石を一杯持ってるからだけど・・・魔石が有りさえすればかなり良い職業なんだけど、魔石がない魔石使いはホント中級ダンジョンモンスターに瞬殺レベルでダメダメだからなー。

第1職業で魔石使いはダメだよね。

第1職業魔石使いですごいランカー居るけど、たいてい魔石使いはレベルが上がって第2第3の職業が選べるようになった時に選ぶのが良い職業だから。

・・・。

トオルベースで利点と欠点は説明してるから、トオル次第だね。

大事な選択だし、じっくり考えると良いよ。

自分もユグドラシルにログインしようとノートパソコンに手を伸ばしたタイミングで

「なぁ。聞きたいんだけど。

この中で、資源や知識が一番必要ない職業って何だ?」

顎に手をあてて考え込んだまま聞いてくるトオルの質問に

「まぁ、戦士だろうね。騎士・聖騎士・ナイトがそれに準ずる職業かな。」

「んじゃ、戦士と騎士・聖騎士・ナイトの決定的な違いって何だ?」

「レベルが上がって、第2第3の職業に魔法使い系統を選ぶ時の優位さだね。

戦士は言わばゴリマッチョ系。第2第3の職業に魔法使い系統を選ぶなら不利になる。

騎士・聖騎士・ナイトは魔法使い系統との合わせ技でかなり強くなるから。

ただ、魔法使い系統をとるつもりなら少しゲーム知識を仕入れておかないとチョット苦労するかな。」

「んじゃ、騎士と聖騎士とナイトの違いは何だ?」

「騎士は戦士プラス魔法使いに向いてる職業で、聖騎士は魔法の中で聖属性や光属性の魔法に補正が入ってる。

聖属性・光属性の魔法を主に使う予定なら、騎士より聖騎士がお勧め。

で、ナイトは・・・そうだなー・・・ほぼ騎士と同じで・・・プラス女性補正が入る。・・・」

「ジョセイ補正?」

トオルの理解できていない顔から、ジョセイの単語の漢字を女性と認識できていない事がわかる。

「女性・・・男性女性の女性・・・男の子女の子の女の子って意味の女性。」

「女性?補正? どんな補正??」

「だよね。ホント面白い補正なんだよ。

女性を守る時の魔法が効果アップって言う補正なんだよね。

攻撃でも回復でも補助でも、女性を守る・女性に対する魔法であれば効果アップするって言う・・・。

対女性で無ければ、騎士と変わらないかな。」

「へぇ・・・・。」

顎に手をあてたままじっくり考え込むトオルを見て、ユグドラシルにログインする。

いつものルーティンを終わらせて情報屋を覗いていると

「ナイト・・・かな。」

トオルの呟きに驚いて顔を上げる。

「え?」

「ナイトにしようかと。」

「マジで?」

「・・・? あぁ。」

「理由聞いても?」

「え?さとるの説明聞いてナイトが良さそうと思ったんだけど。・・・そんなに驚くことか?

基本騎士と同じで、対女性で効果アップの特典が付くって理解したんだけど・・・違ったか?」

不可解そうな顔をしながら聞かれた。

あ・・・しまった・・・説明抜けてた・・・。

「え・・とね。職業の能力的にはその理解で間違ってないよ。」

「だよな。 ? 能力的には??」

怪訝そうな顔で聞き返された。

「うん。能力的には。

それ以外の理由で、まぁ・・・一般プレイヤーはあまり選ばない職業かな。

“女性補正”がかかるって所が。ね。

なんというか・・・女性にモテることしか考えてないように見られて、悪い意味での優男やさおとこって扱いで・・・男性プレイヤーからは、なんというかチョット冷たい目を向けられる。女性プレイヤーも熱狂的大歓迎派とこだわらない派はいいんだけど、毛嫌いする派がかなり居て・・・居心地の良いポジション獲得に苦労するみたいだよ。

しかも、熱狂的大歓迎派に囲まれると・・・なんというか、“ナイトキャラ“を要求されてしまうみたいだし。

トオルはギルマスとギルド長との繋がりでフォルティスに入るし、ポジション確保に苦労はしないだろうけれど、職業だけで好意的では無い人を増やすのはマイナスかなって思う。」

「そっか。なるほど。じゃ、騎士だな。

この間のクルス達との話を考えれば、魔法は使えた方が良いみたいだし。さっき、レベルが上がりやすいって言ってたから早めに第2の職業で魔法使いをプラス出来て人見町ダンジョンで役に立てそうだしな。」

「そうだね。うん。いいんじゃないかな。

ナイトもプレイヤー間でのマイナス面が無ければゲーム仕様としては良い職業なんだけどね・・・。」

トオルに自由に選んでもらうつもりだったのに、最終的にトオルの判断にノーをつきつけたような苦い思いに冷や汗をかきながら答える。

でも・・・ナイトは勧められないよな・・・しょうがない。

「どこかにマイナス面が有るなら、避けた方が良いし。教えてくれて助かったよ。

んじゃ、騎士を選んでゲーム進めるナ。」

パソコンに向き直って操作し始めたトオルの背中をしばらく眺めて

うん。まぁ、説明が抜けてた点は反省して。切り替えよう。

途中だった情報屋の確認を終えて店を出る。

自分のステータスを開いて所持品を確認する。

・・・自分で集めた素材やお金で装備を調えていくのが醍醐味と言えば醍醐味なんだけど、それをしていると人見町ダンジョンが遠のく。

渡せる物はじゃんじゃん渡してしまおう。

ある程度準備を終えて、オーナーまで後少しのラピスダンジョンの周回を再開した。






ーーートオルーーー

金曜日になった。

今日はさとるの家に行く事になっている。

終業まで後少しというタイミングで弟からのメッセージが入った。

『来ちゃった♪エヘ(≧∇≦*)』

「はあ~~??!」

読んだ瞬間思わず声が出てしまった。

周りからの視線に、口元を押さえて返信を打とうとしたら

『母さんが、ご飯持ってけってさ。届けに来たから、下のロビーに受け取りに来て。

この後予定有るし、なるべく急いでほしい。

よろしく。』

とメッセージを受け取り、時計に目を走らせる。

大急ぎで帰る準備を整え、さとる

「10分後に下で。」

と声をかけてロビーに降りる。

行き交う人をジッと見つめている弟を見つけて走り寄る。

「待たせた。・・・どう言う事なんだ?」

ふんわりとした笑顔で

「兄貴のことが心配なんだろ。

後・・・牽制だったり? ぷふっ」

楽しそうに口元を押さえて笑う弟を見ながら

「牽制?」

意味が分からず聞き返す。

「兄貴に彼女が出来たと思ってるんじゃない?」

そう言ってクスリと笑う。

「彼女? いや違うし。」

「だろうね。

母さんがちょっとヤキモチやいてるような顔になってたから言っただけ。

ただ単に、兄貴の食事を心配してるんだと思うよ。」

からかうように目をきらめかせながら

「兄貴もイイ歳なんだから、そろそろパートナーの事にも目を向けなよ。」

と言って持っていた風呂敷包みを差し出す。

話題は肩をすくめて流し、受け取る。

「食事は助かるよ。届けてくれてありがとう。

この後の予定は大丈夫か?タクシー使うなら」

タクシー代を渡そうかと財布を出していると

「いや、いいよ。30分くらいは待つつもりで時間組んだし、余裕。

んじゃ、行くね。」

「おぅ。サンキュー。」

弟を見送り、風呂敷包みに目をやる。

けっこうな重量感。

2人で食べても明日の朝食分まで有るだろうな。

・・・さとるが食べてくれるかが問題だな。

考えている間にさとるがロビーに降りてきた。

「お疲れ」

と言いながら、風呂敷包みを見ている。

少し持ち上げながら

「お疲れ。これな。夕飯。

さとるの夕飯の予定が特に決まってないなら、家で一緒に食わないか?」

ちょっとドキドキしながらさとるの返事を待つ。

家族が絡むと相手の反応が読めないし、照れくさい。

「特に夜ご飯の予定は立ててなかったよ。

それって・・手作りのお弁当? 僕の分もあるの?

僕、コンビニ弁当買って帰ってもいいけど?」

首を傾げながら聞いてくるさとる

「余裕で有る! だからコンビニ弁当は買わなくていい。

・・・母親の手作りなんだ。さっき弟が届けてくれてな。

一緒に食べないか?」

「いいの?ありがとう。手作りの料理を食べる機会なんてそうそう無いから嬉しいよ。

トオルのお母さんの手作り料理楽しみだな。」

「そうか?それなら良かった。」

良かった。

ホッと体がほぐれて、緊張していたのがわかった。

「飲み物だけ買って帰ろうか。」

「おぅ。」


ーーー


「ごちそうさまでした。美味しかったー。」

満足そうに満面の笑顔で手を合わせるさとるに安心する。

「美味かったなら良かった。ごちそうさま。」

「んじゃ、お風呂をためて二人とも入ってしまおう。

寝る準備まで済ませてから始めようか。」

「わかった。俺はここの片づけしてる。」

「じゃ、お風呂の準備してくる。」


ーーー


風呂も入り、後は寝るだけの状態になってからパソコンでゲームを進める。

さとるが準備を終えるまでは、ダンジョン攻略だ。

今日は職業選択をする予定だ。

さとるが、更に強くなれると言っていたしワクワクする。

フィールドにダンジョンを発見して確認する。

さとるのガイドメールを確認すると、特殊ダンジョンみたいだけれど候補に入っているダンジョンだった。

「特殊ダンジョンは初めてだな。」

今までとどう違うのかドキドキしながら進んでいく。

いつも通りにモンスターを倒しながら通路を進んで行くが、特に変わった所は無さそうに思える。

倒して進んで倒して進んで・・・。

・・・。

でも、ただただ通路を進んでいるだけの手応えだ。

オープンになっているマップを確認することにした。

全景を見る。

マップが出来上がっている?

マップの中でクネクネと通路が出来上がっているが、入ってきた道しか他につながる道が無いようだ。

後少し進むと、入ってきた道に戻るんじゃないかな・・?

確認のためにダンジョン内を進む。

マップ内で唯一外につながる道の前に着いた。

通路を進むと外に出た。

「やっぱり。入り口の道だよな。」

もう一度ダンジョンに入る。

マップを丁寧に見てみたけれど、他につながったり、ボス部屋らしき物が見あたらない。

「もう一周してみるか。」

ゆっくり進みつつ壁に向かって進んでみたり、何か取っ手のような物が有ったりしないか注意深く見たりしながら進む。

現れるモンスターは余裕で倒せるので危険は無いけれど、このままではクリア出来そうにない。

2周目が終わって、また入り口の通路に着いた。

特殊ダンジョンは通路を進むだけではクリア出来ないと言っていた。

何をすればクリア出来るのか・・・。

「わからん。」

もう一周。

ダンジョン内を隈無く見ながら進んだけれど、何もわからず入り口通路に戻ってきた。

進むだけではダメだとは聞いたけれど、何をすればいいのかは聞いてない。

一度伸びをして、手を頭の後ろで組んで考え込む。

ん~・・・こういう時にゲーム未経験のハンデが出るんだろうなー。

どうすりゃいいのか全くわからん。

天井を見ながら考えていたが、いつの間にかボーッと頭が空白になっていた。

後ろに人の気配がして

「どうしたの?」

声がかかる。

ボーッとしていた頭を戻しながら振り返り

「ん?あぁ。例のダンジョンで行き詰まってる。

んー・・・どうすりゃいいんだか・・・。」

さとるに現状を説明する。

「リストのダンジョンは、これが初?」

「あぁ。リスト以外を先に攻略してたから。

リスト以外のダンジョンが今の俺の実力じゃ無理そうなのばかりになったからこっちに手をつけたんだけど・・・。

んー・・・。

わからん。」

「そっかぁ・・・。」

そう言いながら近付いて来たさとるが画面を覗き込む。

「なんでこのダンジョンからにしたの?」

と聞かれ、

「ん?イヤ特に意味は無い。フィールド進んでて目に付いたダンジョンで、リストに有った名前だったからイケるかな?と。」

上から順番に行かなきゃいけなかったのか・・・。

さとるの表情を見ながら、いきなり高難易度のダンジョンだったんだろうと判断していると

「チョットいい?」

さとるが装備やステータスを確認しだした。

「レベル上げ頑張ったんだね。ビックリするくらい上がってるよ。

・・・もしかして毎日制限時間ギリギリまでプレイしてた??」

思ってもなかった事を聞かれて驚く。

「イヤ。毎日そんなにプレイしてたら仕事に影響して、かえって非効率だからな。

最初の寝不足で思い知ったから、その後は、4時間から5時間って所かな。」

「そうなんだ?

その割にはレベルの上がりが良いような・・・?」

俺の答えに不思議そうな顔をしながら、更に詳細を確認したさとる

「今の装備とステータスならこのダンジョンクリアは大丈夫そうだね。

後は攻略方法さえ解れば。だけどね。」

軽く笑いながら俺を見る。

攻略方法がなー・・・解りそうにない。

どうすっかな・・・。

「トオル。この称号っていつ手に入れたの?」

「え?称号??」

聞かれてもわからん。

「イヤ。知らん。

よく画面にいろんなお知らせが出てきてて、最初は読んでいたけど理解できない内容が多かったからすぐにスルーするようになったから・・・いつ手に入れたか分からないな。」

「そうなんだ? いつどこで手に入れたのか気にはなるけどいいや。

この称号のおかげでトオルは獲得経験値に補正がかかって、レベル上げしやすくなってるみたいだよ。」

「へぇー・・・」

称号で獲得経験値に補正・・・?

さとるの表情からして良い事なんだろうと思うけれど・・・何がどの程度イイんだ?

「レベルが上がりやすくなってるから、この後のダンジョン攻略もスムーズに進められるんじゃないかな。

・・・特殊ダンジョン以外は。だけど。」

「あぁ。そうか。まぁ、攻略がしやすくなるのは嬉しいな。」

心の疑問に答えるようにさとるが説明してくれたけれど、今現在のダンジョン攻略には関係なさそうだ。

「どうする?このダンジョン。僕からヒントを出すか、攻略の仕方を教えるか、一旦このダンジョンを中断するか。」

さとるに聞かれ考えるが、ヒントを貰ったところで攻略出来ると思えない。

攻略の仕方を教わる・・・1個目で楽してしまうと、この先自分で頑張るのがシンドくなりそうだし・・・。

人見町ひとみちょうのダンジョンで同じ様な事が起こった時にさとる頼みなのもどうかと思う。

となると、一択か。

「一旦中断するよ。この系統のダンジョンで最初からさとるに教えてもらうとこの後も甘えてしまいそうだ。」

中断するとして。俺に攻略出来るのか?

特殊ダンジョンの上から順に攻略するのが先か・・・?

「ただ、一つ教えてほしい。今の俺がこの後このダンジョンを再開したとして、攻略できる可能性はどの位だ?」

「ん~・・・そうだね。現時点ではこのダンジョンのスルーを勧めたいくらい。かな。」

「マジか。んじゃスルーするワ。人見町に行けるのが最優先だからな。いずれ余裕が出来た時にでも再挑戦するかな。」

特殊ダンジョンは上から順にこなしていくか。

よし。んじゃぁ

「さて。今回のメインイベントだな。

職業について教えてくれ。」

職業選択画面を開いて振り向いた。

「そうだね。まずはザッと説明するね。」

そう言うと、さとるは職業画面を指さしながら説明をする。

系統を大まかに説明した後、系統で代表的な職業をいくつか挙げて説明する。

画面を見ながら頷き、途中質問をしながら一通りの説明が終わる。

「大まかにはこんな感じ。」

説明が終わったさとるは、ふぅ と息をつきながらベッドに腰掛けた。

途中質問もしながら説明を聞いたが、俺に選択できるだけのゲーム知識が足りない。

さとるは、コレがイイよ。とは言わないだろうし。

自分で選んだ方がいいんだけど・・・。

選択肢が多すぎる。

選択の為に絶対必要な最低限の情報・・・。

「なぁ。聞きたいんだけど。

この中で、資源や知識が一番必要ない職業って何だ?」

資源はさとる頼みだし、ゲーム知識は無い。

知識と資源を補えるだけの時間的余裕も無い。

となると、一番それらが必要ない職業から選ぶのがいいだろう。

どの職業を選んでも良いと選択権を与えたという事は、とんでもなく不利になる職業はないんだろうし。

「まぁ、戦士だろうね。騎士・聖騎士・ナイトがそれに準ずる職業かな。」

すぐに答えが返ってきた。

でも、複数有る。更に絞る為の情報が必要だ。

「んじゃ、戦士と騎士・聖騎士・ナイトの決定的な違いって何だ?」

「レベルが上がって、第2第3の職業に魔法使い系統を選ぶ時の優位さだね。

戦士は言わばゴリマッチョ系。第2第3の職業に魔法使い系統を選ぶなら不利になる。

騎士・聖騎士・ナイトは魔法使い系統との合わせ技でかなり強くなるから。

ただ、魔法使い系統をとるつもりなら少しゲーム知識を仕入れておかないとチョット苦労するかな。」

不利と言う言葉が出てきた時点で戦士は除外する。

クルス達とのやり取りから、魔法は使えた方が良いだろうと判断する。

「んじゃ、騎士と聖騎士とナイトの違いは何だ?」

「騎士は戦士プラス魔法使いに向いてる職業で、聖騎士は魔法の中で聖属性や光属性の魔法に補正が入ってる。

聖属性・光属性の魔法を主に使う予定なら、騎士より聖騎士がお勧め。

で、ナイトは・・・そうだなー・・・ほぼ騎士と同じで・・・プラス女性補正が入る。・・・」

何補正??

「ジョセイ補正?」

「女性・・・男性女性の女性・・・男の子女の子の女の子って意味の女性。」

「女性?補正? どんな補正??」

意味が分からない。

女性だと有利なのか?

「だよね。ホント面白い補正なんだよ。

女性を守る時の魔法が効果アップって言う補正なんだよね。

攻撃でも回復でも補助でも、女性を守る・女性に対する魔法であれば効果アップするって言う・・・。

対女性で無ければ、騎士と変わらないかな。」

「へぇ・・・・。」

女性が有利と言う訳ではなく、対女性の時に有利に働くって事か。

聖騎士は、どうなんだ?属性で有利な部分が有るようだけれど・・・特定の属性の優位さだけで選んでいいのか・・・。

何かが突出して優れているのは強みでも有るんだろうけれど・・・。あまり惹かれないな。

となると、騎士かナイト。

ナイトが、ほぼ騎士と同じで補正が入るのならばナイトが有利と言う事になるのか?

騎士にプラス対女性の特典が付くって事だとすれば、騎士よりナイトを選んだ方がいいよな?

「ナイト・・・かな。」

判断材料から考えて、ナイトかな。と呟くと。

「え?」

「ナイトにしようかと。」

「マジで?」

さとるが驚いた顔をしている。

選りに選ってそれを選ぶの?とでも言いたげな表情に戸惑う。

「・・・? あぁ。」

「理由聞いても?」

「え?さとるの説明聞いてナイトが良さそうと思ったんだけど。・・・そんなに驚くことか?

基本騎士と同じで、対女性で効果アップの特典が付くって理解したんだけど・・・違ったか?」

何か聞き間違ったか?

俺の答えを聞いたさとるが、む~んと考え込んだ後少し言いにくそうに口を開く。

「え・・とね。職業の能力的にはその理解で間違ってないよ。」

「だよな。」

間違ってないと言う言葉に納得して頷くが、すぐに疑問が浮かぶ。

「 ? 能力的には??」

能力的には間違っていないって何だ?

何的には間違ってるんだ?

「うん。能力的には。

それ以外の理由で、まぁ・・・一般プレイヤーはあまり選ばない職業かな。

“女性補正”がかかるって所が。ね。

なんというか・・・女性にモテることしか考えてないように見られて、悪い意味での優男やさおとこって扱いで・・・男性プレイヤーからは、なんというかチョット冷たい目を向けられる。女性プレイヤーも熱狂的大歓迎派とこだわらない派はいいんだけど、毛嫌いする派がかなり居て・・・居心地の良いポジション獲得に苦労するみたいだよ。

しかも、熱狂的大歓迎派に囲まれると・・・なんというか、“ナイトキャラ“を要求されてしまうみたいだし。

トオルはギルマスとギルド長との繋がりでフォルティスに入るし、ポジション確保に苦労はしないだろうけれど、職業だけで好意的では無い人を増やすのはマイナスかなって思う。」

何だそりゃ?!

理解できないが、ナイトがそう言う扱いの職業なら避けるのが良いな。

「そっか。なるほど。じゃ、騎士だな。

この間のクルス達との話を考えれば、魔法は使えた方が良いみたいだし。さっき、レベルが上がりやすいって言ってたから早めに第2の職業で魔法使いをプラス出来て人見町ダンジョンで役に立てそうだしな。」

微妙にあった選択への躊躇いがスッパリ無くなった。

「そうだね。うん。いいんじゃないかな。

ナイトもプレイヤー間でのマイナス面が無ければゲーム仕様としては良い職業なんだけどね・・・。」

俺の選択を変えさせてしまったと申し訳なさそうな顔をしている。

「どこかにマイナス面が有るなら、避けた方が良いし。教えてくれて助かったよ。

んじゃ、騎士を選んでゲーム進めるナ。」

うっかりナイトにならなくて良かった。

さとるが教えてくれなかったら、後々やっかいな事になったかもな。

今後も、大きな選択の時には相談必須だな。

そう思いながら、職業の選択を進めた。


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