第39話 ユーザー名はよく考えてから決めよう。無難なのがいいよ。ホントに。
フェーリさんとグロースさん・・じゃなかった、クルスさんとハイトさんがヨウイチと一緒に喫茶店を出ていった後、健一さんがテーブルにお盆を持って来た。
飲み終えたカップ類を片付けてテーブルを拭き、
「お疲れさま。何か軽く食べるかい?」
と笑顔で聞いてくれる。
どうしようかな・・・。
「健一さん。俺腹減ってるから“軽く”じゃなく、ガッツリでお願いします。」
僕が考えている間に、トオルが“ガッツリ”でお願いしている。
「ガッツリね。オーケー。」
健一さんは笑顔で答えて僕を見る。
んー食べなくてもいいけど、食べてもいい・・・微妙なお腹具合だなー・・・。
「僕は、軽く何か・・・」
迷いながら答えていると
「僕もちょうど休憩に入るんだ。大皿で持ってくるからそれぞれ好きなだけ食べるスタイルはどうだい?」
健一さんが提案してくれる。
それだったら、食べ残してしまう心配も無いし、ありがたい。
「ありがとうございます。お願いします。」
軽くお辞儀をしながら答えると、健一さんは笑顔で頷いて
「少々お待ちを。」
と、カウンターに戻って行った。
クルスさんとハイトさんが目の前に居る迫力から解放されて、軽く深呼吸する。
「今日はありがとう。トオルが来てくれなかったらもっと違う方向に話が流れてたかもしれない。」
そうトオルに言い、深々と頭を下げる。
トオルは、席を立ちクルスさんが座っていた正面の席に移動しながら
「どういたしまして。俺も同席できて良かったと思ってる。」
そう言って正面に座った後
「聞きたい事は何点かあるんだが・・・」
テーブルに両肘をつき、口の前で軽く手を組んで
「ところで、その・・・“ゲーム”って難しいのか?“ユグドラシル”だったか・・・?」
ためらいがちに聞いてきた。
?
どんなゲームだ?じゃなく、難しいのかどうか?
「えと・・・。難しいかどうか・・・は、どうかな・・・。
遊び方次第かな。僕にとって難しい遊び方もあるから・・・。
トオルはゲームあまりしないよね?」
あのゲームは、人によって遊び方が少々違う。難しいかどうかは遊び方次第だし、その人のゲーム歴も関わってくるし・・・一言で答えるのは難しいな・・・。
「あぁ。ゲームはしたことがない。」
トオルの返答に衝撃!したことがない?マジで?
「一回も??」
つい聞いてしまうと
「あぁ。一回も。」
深々と頷いている。
「へ・・へぇ・・・。」
親が厳しかったのかな?でも、あまりプライベートに関する突っ込んだ話は聞きにくい・・・。
「ついこの間までゲームが出来る状況じゃなかったんだ。
学生時代に友達の家で遊ばせてもらえる機会はあったが・・・何て言うか、味見だけして食べられないんじゃ不満ばかりがたまるだろうと、味見をしないことにしたんだ。」
「そうなんだ・・・。」
僕でさえ普通にゲームがそばにあったのに・・・まぁ、思い切り遊べた訳じゃないけれど・・・トオルの“ゲームが出来る状況じゃなかった”っていう環境はかなりヘビーなんじゃ・・・?
トオルのプライベートの話を知りたい気持ちもあるけれど、聞いてトオルが辛い思いをしてしまう内容だったら・・・聞いてしまったことを後悔しそうだ。
何故?は聞かないと決めて話を進めることにする。
「ゲームをしたことが無いのなら、少し難しいかもしれない。・・・でも、コマンド選択式で遊ぶならそこまで難しくはないかな・・・。
ただ、“お約束”のような物もあるから・・・どうかな・・・。」
言いよどんでいると、
「そうか・・・まぁでも、攻略本?のような物を買えば大丈夫だろ?」
あれ?これって、トオルがユグドラシルを始めるって話?
「トオル、ユグドラシルをプレイするの?」
驚いて聞くと
「ゲームのことを知っていないと分からない話が多いし、出来れば人見町から行くダンジョン?にも同行できればいいかなって思ってね。」
え?
とんでもなく驚いた!
僕が関わっちゃってるからだよね?でも、クルスさんがダンジョン内でのダメージが現実にどう影響するか分からないって事を言っていたし・・・危ないよね・・・。
「でも、現実にどう影響するのか分からないダンジョンだし危ないよ?」
「だからこそだろ。危ないかもしれない場所だから一緒に行った方がいいんじゃないかって思うんだよ。
クルスやハイトは悪い人間じゃ無さそうだけれど、イザと言う時にお前を一番に助けてくれるとはかぎらないじゃないか。
俺が一緒に行っていれば、何かの時に助けになるんじゃないかと思うんだ。
ただ、そのゲームが難しすぎたら・・・ダンジョンに入る条件?をクリアできないかもしれないけれど・・・。」
驚いて聞いていた。
危ないかもしれない場所に、わざわざ条件クリアしてまでついてきてくれる??
僕にその選択って出来るかなぁ・・・?
いつも思うけど、トオルは優しいね。
「もう一回言うけど、危ないかもしれないんだよ?」
「もう一回言うぞ。危ないかもしれないからこそだ。」
あー・・・コレはもう引かないな・・・目を見つめて言った僕に意志の強い目で答えたトオルを見て、諦めた。
たぶん、僕がここで“危ないからしない方が良いよ”と言ってゲームの事を言わないとしても、自分で調べてスタートするだろう。
一人で、ゲームの事を全く知らない状態から始めると効率良く進められないだろうから、人見町ダンジョンの条件クリアまではかなりかかる。
その光景・・時間いっぱいまで使って苦労している姿を想像して胸が苦しくなる。
僕がガイドをすれば、効率良く進められるのは分かってるのに、苦労させるなんて出来ない。
「・・ありがとう。僕が巻き込んでしまったからだよね・・・ごめん。
トオルが一緒に行ってくれるのは心強いから、すごくありがたい。」
深く頭を下げる。
「ゲームの事は全く分からない素人だから、お前を助ける事が出来るようになれるのかわからないが・・・。
ゲームに必要な物を教えてもらっても良いか?」
トオルが話を進めたので、申し訳ない気持ちを切り替える。
「基本的にはパソコンがあれば大丈夫。
この後、僕の家でスタートしてみよう。
その・・・僕がガイドして、人見町ダンジョンの条件クリアを目標に効率良く進めるって事で大丈夫なのかな・・・?ゲームを楽しむ要素が削がれてしまうと思うんだけど・・・。」
初めてのワクワクやドキドキが無くなって、作業に近づいてしまうと思うんだよね。
せっかくゲームに触れるのに、もったいない気持ちも有る。
とは言え、楽しむ要素を残しつつだと人見町ダンジョンに行けるのはかなり先の話になってしまう。
「あぁ。もちろん構わない。とにかく、了と一緒に現実世界にあるダンジョンに行ける事が最優先だ。」
「わかった。じゃぁ効率最優先で進めよう。
僕の家に行くまでに、名前・・ユーザー名を考えておいてもらってもいいかな。
8文字以上で、何個か考えててほしいんだ。
誰かがすでに使ってる名前は使えないから。
ただ、僕と同じ失敗をしないように、ユーザー名はよく考えてから決めよう。無難なのがいいよ。ホントに。」
「わかった。8文字以上だな?」
「そう。8文字以上なら長くても大丈夫。プレイヤーの中にはとんでもない長さの名前付けてる人もいるよ。」
「わかった。考えとく。」
そう言って、顎に親指をあてて少しうつむいた。
トオルの考え事をしている時のクセだ。
しばらく話しかけない方が良さそう・・・。
来週の土曜日のダンジョン行きはどうしようかな・・・。
トオルがゲームスタートするなら、そっちのサポートに集中した方がいいかな?
トオルの予定がわからないから、後で聞いてみよう。
トオルには、最初からいい武器や防具を渡すし攻略方法も教えるから・・・初級ダンジョンの条件はあっさりクリア出来ると思うんだけど、中級もたぶん大丈夫かな・・あ、でも人見町の条件。初級は50クリアだったけど、中級と上級の条件はわからないんだよな・・・僕はクリア済みになってたから・・・。
同じ50クリアが条件では無いのは確かだし、たぶん、上級が一番少ないと思うけど。
あの魔法陣や条件画面は、ゲームを始めれば見られるのかなぁ?
見られるなら助かるんだけど・・・魔法陣を見るのにも条件が有りそうだよね。例えば、クリア条件の50%クリアだったり・・とか?
何はともあれ、トオルには初級ダンジョンのクリアをサクッと済ませてもらおう。
いつの間にかうつむいて考え込んでいた。
いい匂いに顔を上げると、健一さんがテーブルに大皿に山盛りのチャーハンを置いていた。
「炒めし、冷めないうちに召し上がれ。」
取り皿をそれぞれの前に置き、カウンターに戻って行く。
美味しそう!
トオルは目を輝かせて、自分の皿に山盛り取り分けている。
僕もいい匂いに食欲を刺激されて、取り皿を手に取る。
健一さんが、両手に大皿を持って来た。
テーブルに置くと、おかずが何種類も盛りつけられている。
「健一さん。すごい量ですね・・・。」
びっくりして言うと
健一さんはウインクしながら
「でしょ?張り切って作ったから、好きなだけ食べてね。」
そう言ってまたカウンターに戻って行く。
炒めしとおかずを取り皿に取っていると健一さんが戻ってきて、それぞれの前にお冷やと、テーブルの端に湯飲みとポットを置いてトオルの横に座った。
3人で食事をする。
軽くでいいと思っていたけれど、結局普通に一人分は食べたんじゃないかな。美味しかったー。
トオルは驚くほどの食欲で食べていた。
健一さんも見た目の雰囲気とは違って、モリモリ食べる人で驚いた。
5人前は軽く越えていた量の大皿の料理は、きれいに無くなった。
「はぁ~♪美味かった~♪御馳走様でした。」
トオルが幸せそうな顔で手を合わせて軽くお辞儀をしている。
「すごく美味しかったです。御馳走様でした。」
僕も一緒に挨拶すると、
「美味しかったなら良かった。今日の出来はなかなかに良かったね。美味しかった。」
健一さんがニコニコと頷いている。
ポットのお茶を注いでそれぞれに出し、食事の皿を手際よく片付けた健一さんがテーブルに戻ってきて
「さて、お腹も落ち着いたところで話を聞こうかな。
大丈夫なのかい?」
トオルに向かって聞いている。
「とりあえず、大丈夫・・・。かな。
一通りの話を了からしてもらっていいか?」
トオルの言葉に、健一さんも僕を見る。
「え・・・と」
そうだよね。健一さんにもちゃんと説明しておかないとトオルの事が心配だよね。
「事の発端は、ヨウイチと出会ったことなんですが。
2週間ほど前にトオルとランチを終えて会社に戻る途中でヨウイチに呼び止められたんです。
僕のゲーム内ニックネームで呼びかけられて、リアルで僕のゲーム内の名前を知っている人は居ないはずだったのですが、フルネームでも呼ばれたので会社が終わってから会うことにしたんです。・・・・・・・」
それからの話を、多少かいつまんで、時々トオルからのフォローを受けながら話し終える。
健一さんは笑顔で頷きながら、ふむふむと言うようなつぶやきで相づちを打ちながら最後まで聞いてくれる。
さっきまでのクルスやハイトとの話を話し終えると、しばらくの沈黙の後
「なるほど。」
健一さんが一言つぶやいて、考え込んでいる。
考え込んでいる姿が、トオルと微妙に似ていて、微妙に違う事に注目してしまう。
トオルは、親指の爪が正面に見える形で顎を摘まむようなポーズで考え込むのがクセだ。
健一さんも顎に手を当てるが、軽く丸めた人差し指が若干前に来る感じで顎を掴むようなポーズだ。
「それで、その“人見町のダンジョン”の危険度はまだわからないんだよね?
亨はもちろん、さとるくんの事も心配だな。
年長者として、行くのを止めたい気持ちでいっぱいだよ。
まずは、その“運営”へ連絡して、返事を待ってからって事じゃダメなのかい?」
とてもとても心配しているのが伝わる表情と声で聞かれた。
トオルの事と同じように、僕のことも心配してくれていることが伝わってくる。
どうしよう・・・。
少しワクワクする気持ちも有るんだけど・・・。
僕が行くならトオルは引くつもりは無いだろうし・・・。
「そう・・ですね。健一さんが心配されるのもわかりますし・・・運営への連絡をまずしてみて、返事を待ってみます。」
運営からの返事・・・クルスさんが連絡して未だに返事が無いって話しだし、期待は出来ないけれど。健一さんを心配させてしまっているし、トオルを危険に巻き込んでしまうのは避けたいし。まずは連絡を取れるよう努力はしてみよう。
僕一人なら、危険だろうと別にいいやって思うんだけど。
巻き込んでしまった以上、僕以外の人の事をちゃんと考えないとな。
「そうだね。まずは、連絡してみてくれるかい?」
頷くと、トオルが
「連絡して返事を待つのと平行して、ゲームは進めておこう。俺が人見町ダンジョンの条件クリアまでは大変なんだろう?」
「うん。あのダンジョンの条件クリアするにはレベル上げをかなり頑張らないと無理だと思う。」
「わかった。じゃ、今から了の家でレクチャーしてもらって、家で出来る事を教えてもらっていいか。」
「うん。」
仕事の打ち合わせの時と同じ感じで、普通に段取りの話をしてくる。
すごいファンタジーな事が起こってるんだけど・・・トオル普通に受け入れちゃってるよね。
クルスさんやハイトさんも、もう現実世界の事と同じような感じだったし・・・・でも、僕もそうなのかも。
案外、ファンタジーな事って受け入れられる物なのかも?
「じゃぁ健一さん。また連絡入れます。」
「オーケー。」
トオルに返事をした後、僕をしばらく見た健一さんが
「さとるくん。もしイヤじゃなければ、グループチャットを作らないかい?」
ちょっと遠慮気味に聞いてきた。
「イヤだなんて事は全然無いです。」
手をぶんぶん振りながら慌てて答える。
「良かった。じゃぁいいかな。」
と言ってケータイを取り出す。
健一さんとトオルと僕でグループチャットを作り、喫茶店を後にした。
ーーートオルーーー
クルスとハイトがヨウイチと一緒に喫茶店を出ていった後、健一さんがテーブルに来た。
飲み終えたカップ類を片付けてテーブルを拭き、
「お疲れさま。何か軽く食べるかい?」
と声をかけられた。
「健一さん。俺腹減ってるから“軽く”じゃなく、ガッツリでお願いします。」
腹が減った・・・。
「ガッツリね。オーケー。」
健一さんが了の返事を待つ。
「僕は、軽く何か・・・」
ためらいがちに言う了に
「僕もちょうど休憩に入るんだ。大皿で持ってくるからそれぞれ好きなだけ食べるスタイルはどうだい?」
健一さんが提案している。
「ありがとうございます。お願いします。」
軽くお辞儀をしながら了が答え
「少々お待ちを。」
と、健一さんがカウンターに戻って行った。
話しやすいように了の正面の席に移動する。
「今日はありがとう。トオルが来てくれなかったらもっと違う方向に話が流れてたかもしれない。」
了が深々と頭を下げる。
「どういたしまして。俺も同席できて良かったと思ってる。」
席に座り
「聞きたい事は何点かあるんだが・・・」
ここからが本題だ。
「ところで、その・・・“ゲーム”って難しいのか?“ユグドラシル”だったか・・・?」
了がしているというゲーム。
それをしないと、人見町に出現したというダンジョンに行けないらしい。
出来れば、危険だというそのダンジョンにも同行して何かの時には手助け出来る状況になっておきたい。
まぁ、了の事だから断ってきそうだけど・・・俺の意志は堅い!
「えと・・・。難しいかどうか・・・は、どうかな・・・。
遊び方次第かな。僕にとって難しい遊び方もあるから・・・。
トオルはゲームあまりしないよね?」
「あぁ。ゲームはしたことがない。」
「一回も??」
「あぁ。一回も。」
「へ・・へぇ・・・。」
奇妙な生き物を見るのに似た目で見つめられた。
そうだよな。
今の時代ゲームをした事が無いだなんて、希少生物みたいなものだよな。
「ついこの間までゲームが出来る状況じゃなかったんだ。
学生時代に友達の家で遊ばせてもらえる機会はあったが・・・何て言うか、味見だけして食べられないんじゃ不満ばかりがたまるだろうと、味見をしないことにしたんだ。」
「そうなんだ・・・。
ゲームをしたことが無いのなら、少し難しいかもしれない。・・・でも、コマンド選択式で遊ぶならそこまで難しくはないかな・・・。
ただ、“お約束”のような物もあるから・・・どうかな・・・。」
言いにくそうに言うところを見ると、難しいゲームなのかもしれない。
気合い入れないとクリアは難しいかもな・・・。
でも、確か・・・ゲームって攻略本が有るんだよな・・・?
「そうか・・・まぁでも、攻略本?のような物を買えば大丈夫だろ?」
「トオル、ユグドラシルをプレイするの?」
驚いた顔で聞かれた。
「ゲームのことを知っていないと分からない話が多いし、出来れば人見町から行くダンジョン?にも同行できればいいかなって思ってね。」
了が更に驚いた顔をする。
「でも、現実にどう影響するのか分からないダンジョンだし危ないよ?」
「だからこそだろ。危ないかもしれない場所だから一緒に行った方がいいんじゃないかって思うんだよ。
クルスやハイトは悪い人間じゃ無さそうだけれど、イザと言う時にお前を一番に助けてくれるとはかぎらないじゃないか。
俺が一緒に行っていれば、何かの時に助けになるんじゃないかと思うんだ。
ただ、そのゲームが難しすぎたら・・・ダンジョンに入る条件?をクリアできないかもしれないけれど・・・。」
しばらくフリーズした了が口を開く。
「もう一回言うけど、危ないかもしれないんだよ?」
「もう一回言うぞ。危ないかもしれないからこそだ。」
いつもよりゆっくり目の口調で言い切ると
「・・ありがとう。僕が巻き込んでしまったからだよね・・・ごめん。
トオルが一緒に行ってくれるのは心強いから、すごくありがたい。」
深く頭を下げられてしまった。
そうされるとちょっと慌てる・・・ちゃんとサポート出来るくらいまで成長できるのか・・・。
「ゲームの事は全く分からない素人だから、お前を助ける事が出来るようになれるのかわからないが・・・。
ゲームに必要な物を教えてもらっても良いか?」
まず、何が必要かもわかっていない素人だ。
「基本的にはパソコンがあれば大丈夫。
この後、僕の家でスタートしてみよう。
その・・・僕がガイドして、人見町ダンジョンの条件クリアを目標に効率良く進めるって事で大丈夫なのかな・・・?ゲームを楽しむ要素が削がれてしまうと思うんだけど・・・。」
ゲームを楽しむ要素が削がれることを気にするあたりが、了らしい。いや、ゲーム好きだと言う事だろうか?
「あぁ。もちろん構わない。とにかく、了と一緒に現実世界にあるダンジョンに行ける事が最優先だ。」
「わかった。じゃぁ効率最優先で進めよう。
僕の家に行くまでに、名前・・ユーザー名を考えておいてもらってもいいかな。
8文字以上で、何個か考えててほしいんだ。
誰かがすでに使ってる名前は使えないから。
ただ、僕と同じ失敗をしないように、ユーザー名はよく考えてから決めよう。無難なのがいいよ。ホントに。」
「わかった。8文字以上だな?」
「そう。8文字以上なら長くても大丈夫。プレイヤーの中にはとんでもない長さの名前付けてる人もいるよ。」
「わかった。考えとく。」
8文字以上の名前か・・・。
何がいいかな。
しばらく考え込んでいると
「炒めし、冷めないうちに召し上がれ。」
目の前に大皿に山盛りの健一さん特製の炒めしが置かれ、取り皿が置かれた。
相変わらず美味しそうだ。
早速取り分ける。
3人分以上の量だし、遠慮なく大盛に皿に盛る。
健一さんが、更に運んできたおかずの大皿を置くと
「健一さん。すごい量ですね・・・。」
了が目を丸くして言っている。
「でしょ?張り切って作ったから、好きなだけ食べてね。」
健一さんはもう一度カウンターに戻って行った。
次にお冷やと温かいお茶のポットを置くと、隣に座り料理を取り分けて食べ始める。
3人共お腹が空いていたようで、モリモリと食べる。
3人分には多いと思っていた大皿の料理はキレイに無くなった。
食べた~。
「はぁ~♪美味かった~♪御馳走様でした。」
「すごく美味しかったです。御馳走様でした。」
俺と了が満足した声で言うと、健一さんは嬉しそうな笑顔になる。
「美味しかったなら良かった。今日の出来はなかなかに良かったね。美味しかった。」
そう言うと、温かいお茶を注いでそれぞれの前においてから皿を片付けてくれた。
お皿を下げて戻って来た健一さんは、一口温かいお茶を飲んでから
「さて、お腹も落ち着いたところで話を聞こうかな。
大丈夫なのかい?」
心配そうに聞かれた。
「とりあえず、大丈夫・・・。かな。」
現実世界でのトラブルではないし、今すぐどうこうという話でもない。
正直、大丈夫なのかどうかもわからない状態だと言うのが現状だろうか。
「一通りの話を了からしてもらっていいか?」
まずは話を聞いてもらった方が良いだろうと思うが、俺からじゃ分かりにくい話になるだろうし、ここは了に話してもらおう。
「え・・・と
事の発端は、ヨウイチと出会ったことなんですが。
2週間ほど前にトオルとランチを終えて会社に戻る途中でヨウイチに呼び止められたんです。
僕のゲーム内ニックネームで呼びかけられて、リアルで僕のゲーム内の名前を知っている人は居ないはずだったのですが、フルネームでも呼ばれたので会社が終わってから会うことにしたんです。・・・・・・・」
了がかいつまんで話す。
省略しすぎている所はフォローを入れながら、一通り話し終える。
頷きながら最後まで聞いた健一さんは、しばらくの沈黙の後
「なるほど。」
とつぶやき、考え込む。
「それで、その“人見町のダンジョン”の危険度はまだわからないんだよね?
亨はもちろん、さとるくんの事も心配だな。
年長者として、行くのを止めたい気持ちでいっぱいだよ。
まずは、その“運営”へ連絡して、返事を待ってからって事じゃダメなのかい?」
ここまで心配そうな様子の健一さんは初めて見る。
そうだよな。
信じられないような話な上に、危険かもしれない・・・もしかしたら怪我。最悪死ぬかも、なんて聞いて心配しない訳ないよな。
「そう・・ですね。健一さんが心配されるのもわかりますし・・・運営への連絡をまずしてみて、返事を待ってみます。」
了も健一さんが心配しているのを感じて、健一さんの提案を受け入れる事にしたようだ。
「そうだね。まずは、連絡してみてくれるかい?」
健一さんの言葉に了が頷いている。
でも、運営からの返事か・・・対応が遅いようだし、どうかな・・・。
ゲームをスタートさせたら、俺からもメールをしてみよう。
複数から情報が上がれば対応を急ぐだろう。
「連絡して返事を待つのと平行して、ゲームは進めておこう。俺が人見町ダンジョンの条件クリアまでは大変なんだろう?」
確認すると
「うん。あのダンジョンの条件クリアするにはレベル上げをかなり頑張らないと無理だと思う。」
了が“かなり頑張らないと無理”と言うって事は、本当にかなり頑張らないといけないだろうな。
「わかった。じゃ、今から了の家でレクチャーしてもらって、家で出来る事を教えてもらっていいか。」
「うん。」
了が了承したので、
「じゃぁ健一さん。また連絡入れます。」
健一さんに言い、立ち上がる。
「オーケー。」
健一さんは返事をした後、了を見つめ
「さとるくん。もしイヤじゃなければ、グループチャットを作らないかい?」
遠慮気味に聞いている。
ちょっと珍しい光景だ。
「イヤだなんて事は全然無いです。」
了が手をぶんぶん振りながら慌てて答えている。
「良かった。じゃぁいいかな。」
と言ってケータイを取り出した健一さんと、3人のグループチャットを作り了の家に向かった。