第38話 ステータスオープン (フェーリ・グロース)
トイレを出るとグロースとすれ違い、そのままケーボー達のテーブルに向かう。
「こっちの話は済んでるか?」
椅子に座る前にケーボーに聞くと
「あ・・はい。大丈夫です。」
少し緊張したように返事をするケーボー。・・・何か言いにくい事が話し合いで決まったのか?
気になったが、席に座り
「グロースが来てから話をしよう。」
と声をかけて、なるべく体をリラックスさせて休憩する。
グロースが隣の席に座った気配に顔を上げる。
「さて、ではさっきの返事から聞かせてもらっていいか?」
まずは、ケーボーに単刀直入に返事を聞く。
そこがハッキリしないと話が前に進まない。
「あ。はい。まず、人見町のダンジョンパーティへは参加させてもらおうと思います。
ただ、パーティを組んだことが無いのでパーティ参加に関しての条件等をお聞きしてから最終的に決めたいと思います。
それと、ギルドへのお誘いの件はありがたいお話ですがお断りさせていただきます。」
少し申し訳なさそうにお辞儀をしながら言い終わる。
だよな。
ギルドを移るメリット無いもんな・・・。
「そうか。ギルドに入ってもらえないのは残念だ。
パーティーの条件・・・特には無いんだが。
パーティーは一度も組んだことが無いのか?」
頷くケーボーに
「そうか・・・。
・・・ゲーム内と同じなら特に条件は無いと思うんだが・・・。」
話を進めながらステータスを開く。
パーティーの項目を確認しようと開くと・・・?何だこれ?ゲーム内でパーティーを組む時とは違う操作画面が表示される。
「・・・・・・・。
ん?
・・・・・・・。」
条件選択画面・・・?
「グロース。
パーティー組んだ事は?」
グロースも同じ画面が表示されるのか確認したい。
「ゲーム内であれば有りますけど。」
よし。
「今、パーティーの操作をしてみてくれるか?」
「え? あぁ・・・いいですよ。」
グロースの表情が驚きの表情になるのを見て、俺と同じ画面が出ているとは思うが。
「どうだ?」
「なんです?これ?」
「だよな?」
俺と同じ画面になっているようだ。
ゲーム内では、条件を決める手順は無かった。
「どうかしたんですか?」
不思議そうな顔でケーボーが聞いてきた。
「ステータス見れるようになって、操作出来るんだよな?
ちょっと、パーティーの項目開いてみてくれないか?」
そういうと、驚いた顔になる。
だよな。
ゲーム内と同じかと思っていたら全く違う仕様になってれば驚くよな。
そう思っていたら、ケーボーが大きく目玉を上下左右に動かし出した。
え?何?気持ちわるっ・・・
ステータス操作に、あの目玉の動きは必要ないよな?何やってんだ?
ホラー物の急に乗っ取られた人を見るような、ゾワリとした寒気を少し感じているとケーボーが目玉の動きを止め申し訳なさそうに
「え・・・と・・・。
ステータスって、今も見られる物なんですか?
僕には見えないんですけど・・・。」
俺とグロースを交互に見ながら聞いてきた。
???
「見えない?何でだ?」
聞き返して、ケーボーの動きがホラーッチックな理由じゃなくてホッとする。
「え・・・いえ。わかりません。 フェーリさんもグロースさんも今見えてるって事ですか?」
とまどいながら聞いてくるケーボーを見て、本当に見えないと確信する。
「あぁ。見えてる。・・・・・。
ダンジョン前までは行ったんだよな?」
「えぇ。」
「ステータスは一度も見えてないのか?」
「いえ。ダンジョン前に居た時は見えました。」
「んー・・・。そうだな・・・。見ようと思えば今も見れるんだが、常に視界いっぱいに表示されてるわけじゃない。
・・・何と言うか、角に収納されてる感じかな・・・。
意識を向けて引き出すと言うか・・・。」
一度見えたのなら、見るのに慣れてなくて見れないだけだろうと自分なりのコツを教える。
試している様子のケーボーを見守っていると
「ステータスは、目を瞑っていても見えますか?」
と真剣な顔で聞いてくる。
「え?いや。・・・・。」
瞬間的に見えないと答えそうになって、思いとどまり実際に目を瞑って確認してみる。だよな。見えないよな。
「見えないみたいだな。」
「そうですか。」
質問した後、目をキョロキョロさせたり強く瞑ってみたりと工夫している。
そんなに操作に苦労したかな・・・?
衝撃の事実に頭が追いつかなくて細かいことを覚えていないが・・・強く記憶されてないって事はそれほど苦労してないはず。ケーボーはなんで見えないんだ?
「ステータスオープンとでも言ってみたらどうだ?」
それまで黙っていたグロースが突然アドバイスしている。
が、アドバイスの内容が・・・それって、口に出すの少し恥ずかしくないか・・・?
「ステータスオープン」
えぇ?!
ケーボーが言われたまま、あっさりと普通に声に出して言っている。
素直すぎる。
「グロースさんすごいですね!見えましたよ!」
嬉しそうな笑顔で言うケーボー。
「マジか・・・」
・・・もしかしてグロースもこれを言って見えるようになったとか・・・?
ま、まぁいい・・・そこは突っ込んで聞かない方が。な。
気を取り直して
「見えたなら、パーティーを組む操作をしてみてくれないか?」
ステータス表示から目を離さずにいる様子のケーボーに言うと、首を傾げて
「え・・・と・・・。僕は初めて見る画面なのですが・・・これって通常画面なんですか?」
「初めて見る?・・・。」
初めて?パーティーの項目自体ゲーム内でも開いた事が無い?
いや。使わないにしても開ける操作画面は開いて見るもんだろう。
今見えてる画面が初めてって事だよな。
「いや。通常画面じゃないな。ゲーム内でのパーティー結成時には表示されない選択肢だ。
ゲームがアップデートされたって可能性が無くはないが・・・。
もしかしたら、こちらでの仕様がゲーム内とは違うって事なのかもしれない。
帰ったらゲーム内でも試してみるが、こうなるとパーティー結成の条件をちゃんと決めないといけないな。
まずは各自で、項目毎に希望の条件を出そう。
・・・何かメモ・・・ケータイでいいか。」
ケータイのメモ機能にメモしていく。
基本的には、ゲーム内と同じく等分での配分でいいと思うが・・・。
ドロップ品・・・“ダメージ量順“は成績順に良い物から配布って事だよな・・・これだと良い物を受け取るプレイヤーが決まってしまうんじゃないか?
この後魔法特化のプレイヤーを誘おうと思ってるが、魔法での援護はどう換算されるんだ?
これはこれで揉めそうな気がするな・・・。
“ランダム配布“や“決めた順番で配布“となると・・・運が良い悪いって事になるよな・・・ダメージを一番与えたプレイヤーの引きが悪いとヤサグレそうだよな・・・。
となると、一番良さそうなのは話し合いで決めるって事になるんだが・・・。
ギルド外のケーボーは嫌がるかもな。
「終わったな。じゃ、それぞれ希望の条件を・・・そうだな・・・俺の希望の条件を言っていくから同じでは無いものだけ言ってくれるか?」
ケーボーがこちらを見たので聞くと頷いた。
「まず、獲得経験値その他のダンジョン攻略時の獲得物に関して。各項目全て等分での獲得。」
まぁ、ここは意見が違うという事は無いだろうけれど。
二人を見ると
「同じです。」
頷きながらケーボーが答え、グロースは“問題無い”と言うかのような仕草で答える。
「では、次だな。ドロップ品の配分だが。俺は話し合いにしている。どうだ?」
グロースは同じく問題無いと言うような仕草をし、それを確認してからケーボーが
「え、と。僕はダメージ量順を希望します。」
だよな。
「ま、だろうな。俺とグロースは同じギルドだし、後々やり取りも簡単だしな。
ただ、各自必要なアイテムって違うだろう?
ダメージ量順だと、一番ダメージを与えたプレイヤーに一番レア度の高いアイテムが割り振られる事になると思うんだが、欲しい物がクロスする事もあると思うんだ。
3位がもらった物が1位の欲しい物だったり。
・・・。」
ゲーム内であれば、こういう選択肢は無かったのでゲームシステムで割り振られたアイテムをショップに売りに出したりするんだが・・・。
リアルの俺やグロースの体格とケーボーの体格の差やギルド外が一人って事を考えれば話し合いで決めるのを避ける気持ちもわからなくはない・・・。
ダメージ量順を選択すると言う事は、腕に自信有りか。
ソロランカーだしな。
それでも、俺達の方が腕が立つとは思うが・・・。
正直、最初に誰に渡るかはどうでもいいんだよな。
交換や買い取りの交渉をすればいいし。交渉が成立しなくてもドロップする場所さえ分かれば何度もトライすればいいし。
ただ、何がドロップしたのかは知りたいんだが・・・。
「ちなみに、獲得品の公開・非公開はどちらが希望だ?」
「非公開です。」
非公開かー・・・それは困る。
「そうか・・・。んー・・・。」
ケーボーの希望とこちらの希望を一つずつと言うことで!
「じゃぁドロップ品配分はダメージ量順にして獲得品は公開するって条件はどうだ?」
俺からの提案にしばらく考え込んだケーボーは
「そうですね。では、そうします。」
思っていたよりあっさりと了承した。
「そうか。じゃ、ドロップ品の配分がダメージ量順。
ドロップ品の情報は公開。でいいな。」
ケーボーは頷き、グロースは同じ仕草で答える。
「で、次がパーティーへの提供品なんだが。
よくわからん。
なんで、これは実際にパーティーを組む時に試してみようと思う。
たぶん、パーティーを組んでいる間はパーティーメンバーが自由に使って良いアイテムを提供するって事だと思うんだが・・・たとえば回復薬とか。」
たぶん。な。
正直本当にわからん。
ゲーム内には無いシステムだし。
「わかりました。」
「これで、条件については決まったわけだが。
この条件でパーティーを組むって事でいいか?」
確認すると、右手人差し指をこめかみにあてて考え込む。
しばらく考えて
「はい。この条件でお願いします。」
と軽く頭を下げる。
後は。
「ちなみに、パーティーの主催は俺で大丈夫か?」
「あ、はい。お願いします。」
「よし。では、パーティーに関してはこれで決定だな。」
パーティー関係はこれでオーケーと。
「で、次に日程なんだが。
今日は、この後グロースとヨウイチともう一度ダンジョンに行く事にしている。
今は俺がコールしてるし、一度戻らないとケーボーがコール出来ないからヨウイチには一緒に来てもらうが問題ないよな?」
「問題ない。」
すぐにヨウイチが答えた。
まぁ、そうだよな。今は俺が“コール主”なんだし。
「次はいつ行けそうか今わかるか?」
ケーボーに聞くと
「そうですね。来週の土曜日はどうですか?」
来週の土曜は予定が入ってる。
「ケーボーは暦通りの休日か?」
今の段階であまり個人情報には触れたくないが、おおよその休日の予定は分かった方が後々都合がつけやすい。
「あ・・・えぇ。基本的には土日と祝祭日なのでほぼ暦通りの休みです。」
「そうか。俺の方はチョット不定期の休みで・・・基本的には土日休みにしてるんだが、出張が入ったりなんだりで・・・来週の土日は予定が入ってるんだ。」
パーティーを組もうと言っておいて何だが、ダンジョンに割ける休日は少ない。
「そうなんですか。
じゃ、僕は来週土曜日に一度中の様子を見に行こうと思います。」
ケーボーの返事に、思わずグロースを見てしまう。
行けるのなら自由に行っていい。のは分かってるんだが・・・出来れば一緒に行動してほしいと思ってしまう。
それに、一人で行く危険を分かっているのか心配なのもある。
「グロースは来週の土曜は予定入ってるのか?」
「えぇ。ギルマスが予定入っててダンジョンには行かないと言っていたので、予定を入れてます。」
「そうか・・・。」
グロースの予定が空いているなら一緒に行ってもらおうかと思ったのだが、無理か。
禁止したり出来る立場じゃなし、行くと言うなら止めることは出来ないな。
「一人で行くのは良いが、あまり奥まで行こうと無茶しないようにな。
正直、あのダンジョンで何か有った時にリアルにどう影響するのか分かってない。怪我をするのか、最悪死んでしまうのか・・・。
だから、回復薬は大量に用意して早め早めに回復する事を勧める。
俺達はそうしていた。
!!
そうだった!
ケーボーに確認しておかないといけないんだった。
ケーボーは魔法は使えるのか?」
そうそう!聞かないといけない情報だった。
「え・・えぇ。多少は使えます。」
使える!?
「どの程度の魔法を使えるんだ?攻撃魔法か?回復魔法か?
強化魔法か?レベルは上げてるか?クラスは?上級魔法は使えるか?」
期待がふくらみ、前のめりに聞いてしまう。
「えと・・・。回復・攻撃・強化全て使えますが、上級魔法は使えません。クラスやレベル上げは多少頑張ってます。」
上級魔法は使えないか・・・まぁそうだよな。
魔法系統特化のプレイヤーじゃないんだし、当たり前か。
「そうか・・。まぁ、でも魔法が使えるならそれに越したことは無い。回復魔法も使えるようだが、人見町のダンジョンに行くなら回復薬は大量に持って行った方がいいぞ。」
回復魔法頼りだと状況次第で危険にさらされる可能性が有る。
「わかりました。大量に買い込んで行く事にします。」
うん。大丈夫そうだな。
後は、連絡が取れるようにしておかないとな。
「連絡手段がほしいが、何だったらオーケーだ?
出来れば携帯番号の交換が良いが・・・躊躇してしまうようなら無料メールの捨てアカとかでもいいぞ?」
しばらく躊躇った後
「じゃぁ、メールでお願いします。今から登録するので、ちょっと待ってください。」
用心深いことは良い事だ。
注意深く行動する人物のようだし、ダンジョン内で無茶や無理はしないだろう。
メアドを交換して登録を済ませる。
「じゃ、まぁ、連絡は取れると言う事で。
再来週の土日は行けると思うから、連絡する。
じゃ、今日はこれで・・・。」
席を立とうとしていたが、思い出した!
「じゃなかった!
一ついいか!?
ニックネームなんだが。
俺のリアルのこのガタイでフェーリって言うのはそぐわないから、“クルス”で呼んでもらっていいか?
それと。
グロースは微妙に呼びにくいから、“ハイト”。
ケーボーはかなり呼びにくいから、“ケー”の長音を“イ”で読んで“ケイ”。
で呼ぶな。
今、変えられるのか?・・・・お!?変えられるみたいだな。ニックネームの変更は今も出来るようだ。
こっちでは“クルス”あっちでは“フェーリ”でいくんでよろしく。」
そう宣言すると、ケーボーは驚いた顔をしながらも
「え・・・はい。」
と了承してくれる。
オッケーだな。
「こっちでもニックネーム変更出来るから、次集まる時はこっち用のニックネームに変更してもらえると助かる。」
「あの・・ステータスって自分以外の人のも見られるんですか?」
ケーボーが戸惑った顔で聞いてきた。
「あぁ、見れるぞ。見られないのは慣れてないだけかもしれないから、また試してみるといいと思う。
・・・試してみて見られないなら、それはまた今度情報交換しよう。
自分以外のステータスを見るのは置いておいて、自分のステータスはすぐに操作できるように訓練しておいた方がいいぞ。
魔法にしろアイテムにしろ使うときはステータス表示からだからな。」
自分のステータス見るのも苦労していたし、まずは自分のステータス操作をスムーズに操作できるようになってからだな。
次に会う時に見られるようになってるといいんだが。
「分かりました。練習しておきます。他の人のステータスを見られるかどうかも試してみます。」
ケーボーの返事に頷き、気になっていたトオルの件も話しておこうとトオルに目を移す。
「トオル。」
「はい。?」
「・・・トオルのニックネームも変えた方がいいと思うんだ。次に会う時までに何か考えておいてくれるか?」
「?・・・はい・・・。」
疑問を浮かべているトオルに理由を説明する。
「“トオル”と名乗られると、本名なんじゃないか?って思うんだよ。実際に本名じゃないにしても、本名かも?と思うと個人情報を探らずにいられないような人間も居るからな。
お互いニックネームの間柄の期間は、明らかに本名ではないとわかる名前にしておいた方がトラブルの種を蒔かずに済む。
まぁ、これも次会う時までに考えててくれって話だから。」
ダンジョンで怪我したり死んだりしないと確認が取れれば、誘いたいギルドメンバーが今二人思い浮かんでいる。
その内の一人が少々悪癖を持っていると思われる人物で、誘うかどうか迷っているのだが・・・頼りになる人物なので誘うことになると予想している。
その人物対策とも言えるかな。
悪い人間じゃ無いんだが、好奇心が強すぎるというか・・・。
ま、誘うにしてももう少し先の話しだ。
「わかりました。」
トオルが頷いて返事をしたので、
「じゃ、今日はこれで解散にしよう。
次は再来週になると思う。また連絡する。
ヨウイチ、行こうか。」
声をかけて席を立つ。
ーーーグロースーーー
トイレを済ませ、元の席に座る。
居眠りしているかのような姿勢だったギルマスが座り直し
「さて、ではさっきの返事から聞かせてもらっていいか?」
話を進めだした。
後は任せておけばいいだろう。
「あ。はい。まず、人見町のダンジョンパーティへは参加させてもらおうと思います。
ただ、パーティを組んだことが無いのでパーティ参加に関しての条件等をお聞きしてから最終的に決めたいと思います。
それと、ギルドへのお誘いの件はありがたいお話ですがお断りさせていただきます。」
ホッ。
ギルド移籍を断ってくれて良かった。
そう思っていると、ギルマスがチラリとこちらを見た。
“俺が言った通りだろう?”と言わんばかりの視線に感じて、ちょっとムッとする。
誘いを受ける可能性は有ったんだぞ?!
「そうか。ギルドに入ってもらえないのは残念だ。
パーティーの条件・・・特には無いんだが。
パーティーは一度も組んだことが無いのか?」
「そうか・・・。
・・・ゲーム内と同じなら特に条件は無いと思うんだが・・・。
・・・・・・・。
ん?
・・・・・・・。
グロース。
パーティー組んだ事は?」
「ゲーム内であれば有りますけど。」
??何だ?
「今、パーティーの操作をしてみてくれるか?」
「え? あぁ・・・いいですよ。」
パーティ画面を開くと、ゲーム内とは違う。
「どうだ?」
「なんです?これ?」
「だよな?」
条件選択が出来る画面に目を通す。
「どうかしたんですか?」
ヒョロガキがおずおずと聞いてくる。
「ステータス見れるようになって、操作出来るんだよな?
ちょっと、パーティーの項目開いてみてくれないか?」
「え・・・と・・・。
ステータスって、今も見られる物なんですか?
僕には見えないんですけど・・・。」
条件画面を見ていたが、ヒョロガキのステータスが見られないと言う言葉に、視線を現実に戻す。
「見えない?何でだ?」
鋭い口調で聞くギルマスに
「え・・・いえ。わかりません。 フェーリさんもグロースさんも今見えてるって事ですか?」
戸惑ったようなヒョロガキ。
「あぁ。見えてる。・・・・・。
ダンジョン前までは行ったんだよな?」
「えぇ。」
「ステータスは一度も見えてないのか?」
「いえ。ダンジョン前に居た時は見えました。」
「んー・・・。そうだな・・・。見ようと思えば今も見れるんだが、常に視界いっぱいに表示されてるわけじゃない。
・・・何と言うか、角に収納されてる感じかな・・・。
意識を向けて引き出すと言うか・・・。」
へぇ・・・ギルマスはそういう感覚でステータスを出してるんだな。
「ステータスは、目を瞑っていても見えますか?」
「え?いや。・・・・。
見えないみたいだな。」
「そうですか。」
ギルマスのアドバイスでも見えない様子のヒョロガキ。
俺も、2度目を見るのは少し苦労した。
家に帰ってから試したからギルマスに相談も出来なかったしな。
結局、“ステータスオープン!”と唱えて2度目を見た。
その後は、唱えなくても見られるようになった・・・唱えなくても見られるように頑張った。
「ステータスオープンとでも言ってみたらどうだ?」
苦労している様子のヒョロガキに、自嘲気味に言ってみる。
まぁ、言わないだろうな。と思っていたのに
「ステータスオープン」
あっさり言ったー!
恥ずかしくないのか?!
一人の時ならまだしも、みんなの前で!
「グロースさんすごいですね!見えましたよ!」
嬉しそうな笑顔で言うヒョロガキを見つめてしまう。
「マジか・・・」
ギルマスがつぶやき、こちらに意識を向けている雰囲気がある・・・ゲッ!俺もこれを言ったのバレた?
言わなきゃ良かった・・・。
「見えたなら、パーティーを組む操作をしてみてくれないか?」
「え・・・と・・・。僕は初めて見る画面なのですが・・・これって通常画面なんですか?」
「初めて見る?・・・。
いや。通常画面じゃないな。ゲーム内でのパーティー結成時には表示されない選択肢だ。
ゲームがアップデートされたって可能性が無くはないが・・・。
もしかしたら、こちらでの仕様がゲーム内とは違うって事なのかもしれない。
帰ったらゲーム内でも試してみるが、こうなるとパーティー結成の条件をちゃんと決めないといけないな。
まずは各自で、項目毎に希望の条件を出そう。
・・・何かメモ・・・ケータイでいいか。」
俺が思っていたほど恥ずかしい事じゃ無かったのか?
何事も無かったかのようにスルーしたギルマスと、全く恥ずかしそうな様子のないヒョロガキ。
・・・・。
忘れよう。
気持ちを切り替えて条件に目を通し、簡単にメモを取る。
難しいのはドロップ品の配分か。これはギルマスとヒョロガキが話し合うだろう。
“提供品“?
たぶん誰も分からん項目だな。
「終わったな。じゃ、それぞれ希望の条件を・・・そうだな・・・俺の希望の条件を言っていくから同じでは無いものだけ言ってくれるか?
まず、獲得経験値その他のダンジョン攻略時の獲得物に関して。各項目全て等分での獲得。」
「同じです。」
ギルマスの言葉にヒョロガキが答え、俺にも視線が来たので問題無しと軽く肩をすくめて答える。
「では、次だな。ドロップ品の配分だが。俺は話し合いにしている。どうだ?」
ギルマスはそう選択するだろうと思っていた。
問題無いので、同じく軽く肩をすくめて答えると
「え、と。僕はダメージ量順を希望します。」
ヒョロガキがダメージ量順を選択するようだ。
でも、ダメージ量順だと、ギルマスや俺が良い物独占になるんじゃないか?
ソロランカーとは言っても、ボッチギルドの有利さを活かしたものだろう。
・・・あの武器の威力を知らないから、もしかしたら俺達と同じか俺達より強いのか?
「ま、だろうな。俺とグロースは同じギルドだし、後々やり取りも簡単だしな。
ただ、各自必要なアイテムって違うだろう?
ダメージ量順だと、一番ダメージを与えたプレイヤーに一番レア度の高いアイテムが割り振られる事になると思うんだが、欲しい物がクロスする事もあると思うんだ。
3位がもらった物が1位の欲しい物だったり。
・・・。
ちなみに、獲得品の公開・非公開はどちらが希望だ?」
「非公開です。」
非公開?
何でだ?
公開にしておけば、俺達が獲得したアイテム情報も分かるのに?
俺達が得る情報はあいつ一人の情報1に対して、あいつは俺達二人の情報2を得られるのに?
「そうか・・・。んー・・・。
じゃぁドロップ品配分はダメージ量順にして獲得品は公開するって条件はどうだ?」
ギルマスの提案にしばらく考え込み
「そうですね。では、そうします。」
と答えている。
「そうか。じゃ、ドロップ品の配分がダメージ量順。
ドロップ品の情報は公開。でいいな。」
「で、次がパーティーへの提供品なんだが。
よくわからん。
なんで、これは実際にパーティーを組む時に試してみようと思う。
たぶん、パーティーを組んでいる間はパーティーメンバーが自由に使って良いアイテムを提供するって事だと思うんだが・・・たとえば回復薬とか。」
なるほどね。回復薬とかか・・・。“提供“する意味がわからんが。
「わかりました。」
「これで、条件については決まったわけだが。
この条件でパーティーを組むって事でいいか?」
「はい。この条件でお願いします。」
「ちなみに、パーティーの主催は俺で大丈夫か?」
「あ、はい。お願いします。」
「よし。では、パーティーに関してはこれで決定だな。
で、次に日程なんだが。
今日は、この後グロースとヨウイチともう一度ダンジョンに行く事にしている。
今は俺がコールしているし、一度戻らないとケーボーがコール出来ないからヨウイチには一緒に来てもらうが問題ないよな?」
「問題ない。」
すぐにヨウイチが答えた。
「次はいつ行けそうか今わかるか?」
「そうですね。来週の土曜日はどうですか?」
来週の土曜はギルマスも俺も予定が入ってるな。
「ケーボーは暦通りの休日か?」
「あ・・・えぇ。基本的には土日と祝祭日なのでほぼ暦通りの休みです。」
「そうか。俺の方はチョット不定期の休みで・・・基本的には土日休みにしてるんだが、出張が入ったりなんだりで・・・来週の土日は予定が入ってるんだ。」
「そうなんですか。
じゃ、僕は来週土曜日に一度中の様子を見に行こうと思います。」
ヒョロガキの発言に、ギルマスは俺を見る。
ヒョロガキ一人で行くのか?
・・いや、今日戻すんだから、あのキャラをレンタルして連れて行くんだろう。
「グロースは来週の土曜は予定入ってるのか?」
「えぇ。ギルマスが予定入っててダンジョンには行かないと言っていたので、予定を入れてます。」
「そうか・・・。」
そう言うと、ヒョロガキに向き直り
「一人で行くのは良いが、あまり奥まで行こうと無茶しないようにな。
正直、あのダンジョンで何か有った時にリアルにどう影響するのか分かってない。怪我をするのか、最悪死んでしまうのか・・・。
だから、回復薬は大量に用意して早め早めに回復する事を勧める。
俺達はそうしていた。
!!
そうだった!
ケーボーに確認しておかないといけないんだった。
ケーボーは魔法は使えるのか?」
「え・・えぇ。多少は使えます。」
「どの程度の魔法を使えるんだ?攻撃魔法か?回復魔法か?
強化魔法か?レベルは上げてるか?クラスは?上級魔法は使えるか?」
「えと・・・。回復・攻撃・強化全て使えますが、上級魔法は使えません。クラスやレベル上げは多少頑張ってます。」
上級魔法が使えないんじゃ、あまり頼りにはならないな。
初級・中級ダンジョンならいけるが、人見町ダンジョンはたぶん上級以上だろう。
「そうか・・。まぁ、でも魔法が使えるならそれに越したことは無い。回復魔法も使えるようだが、人見町のダンジョンに行くなら回復薬は大量に持って行った方がいいぞ。」
「わかりました。大量に買い込んで行く事にします。」
こまめに回復しておけば俺達が進んだ所までは行けるかもな。レンタルキャラも居るんだし。
「連絡手段がほしいが、何だったらオーケーだ?
出来れば携帯番号の交換が良いが・・・躊躇してしまうようなら無料メールの捨てアカとかでもいいぞ?」
「じゃぁ、メールでお願いします。今から登録するので、ちょっと待ってください。」
メアドを交換したギルマスが、席を立ちながら
「じゃ、まぁ、連絡は取れると言う事で。
再来週の土日は行けると思うから、連絡する。
じゃ、今日はこれで・・・。」
と言い掛けてまた席に座った。
「じゃなかった!
一ついいか!?
ニックネームなんだが。
俺のリアルのこのガタイでフェーリって言うのはそぐわないから、“クルス”で呼んでもらっていいか?
それと。
グロースは微妙に呼びにくいから、“ハイト”。
ケーボーはかなり呼びにくいから、“ケー”の長音を“イ”で読んで“ケイ”。
で呼ぶな。」
はぁ!?
何勝手に人のニックネームまで決めてんだよ。
“ハイト”??!!
・・・。
“ハイト”・・・か。
・・・
「今、変えられるのか?・・・・お!?変えられるみたいだな。ニックネームの変更は今も出来るようだ。
こっちでは“クルス”あっちでは“フェーリ”でいくんでよろしく。」
「え・・・はい。」
“ハイト”・・・“グロース”・・・
「こっちでもニックネーム変更出来るから、次集まる時はこっち用のニックネームに変更してもらえると助かる。」
「あの・・ステータスって自分以外の人のも見られるんですか?」
「あぁ、見れるぞ。見られないのは慣れてないだけかもしれないから、また試してみるといいと思う。
・・・試してみて見られないなら、それはまた今度情報交換しよう。
自分以外のステータスを見るのは置いておいて、自分のステータスはすぐに操作できるように訓練しておいた方がいいぞ。
魔法にしろアイテムにしろ使うときはステータス表示からだからな。」
「分かりました。練習しておきます。他の人のステータスを見られるかどうかも試してみます。」
“ハイト”・・・なかなかに良いかもな・・・
「トオル。」
「はい。?」
「・・・トオルのニックネームも変えた方がいいと思うんだ。次に会う時までに何か考えておいてくれるか?」
「?・・・はい・・・。」
「“トオル”と名乗られると、本名なんじゃないか?って思うんだよ。実際に本名じゃないにしても、本名かも?と思うと個人情報を探らずにいられないような人間も居るからな。
お互いニックネームの間柄の期間は、明らかに本名ではないとわかる名前にしておいた方がトラブルの種を蒔かずに済む。
まぁ、これも次会う時までに考えててくれって話だから。」
!
もしかしてギルマスあいつを誘うつもりか?
頼りにはなるだろうが・・・面倒臭いぞ きっと。
「わかりました。」
「じゃ、今日はこれで解散にしよう。
次は再来週になると思う。また連絡する。
ヨウイチ、行こうか。」
ギルマスが席を立ったので、ついて行く。
“ハイト”
これはこれで良いな・・・。
あっちでは“グロース”
こっちでは“ハイト”
いいな・・・。