第28話 魔法陣
そろそろ魔法陣が有ると言っていた場所だ。
前方に目をこらすと、
・・・・・・・。
あった。
少し小走りに近付く。
・・・・・・・・・・・。
なんてファンタジーなんだろう!!
ジッと見つめていると
「見えるんだよな?」
ヨウイチが聞いてきた。
ヨウイチと目を合わせて、ゆっくりと頷く。
ホッとしたようなヨウイチが魔法陣に入る。
「ただ、コール主も背の高い男もこの魔法陣に入って何か言っていたんだけど・・・。
何て言ったのか聞き取れなかったんだ。
それがわからないと、もしかしたらダンジョン前には行けないのかも・・・。」
「へぇー。
何か特別な呪文が必要って事なのかな?」
そう答えながら魔法陣の中に入る。
ピン!
ゲームの中でポップアップ画面が出る時の音がして、目の前に文字が浮かぶ。
?
見ると、
【条件未達成
ダンジョンクリア・ソロ
初級 48/50
中級 クリア
上級 クリア】
!
ソロクリアが条件?!
初級の数から考えると、クリア回数じゃなくダンジョン数だ。
確かに、最初のフィールド・・・今僕が活動しているフィールドで48カ所の初級ダンジョンをクリアしている。
中級・上級の達成条件数がわからないけれど、ずっとソロでダンジョン攻略しているから達成しているんだろう・・・。
?
でも、上級ダンジョンはレンタルキャラが毎回一緒だけど・・・?
レンタルキャラは人数にカウントされないのかな。
驚いて瞬きもせず考え込んでいたら
「どうなってる?
ダンジョンに行けそうか?」
ヨウイチが心配そうに聞いてきた。
「あ!
ごめん。
条件達成してないから行けないみたいだ。」
「どんな条件だ?」
「ソロでのダンジョンクリア。
中級・上級は達成しているけれど、初級ダンジョンのクリア数が2足りない。
今まで行った事の無い初級ダンジョンを2個クリアすれば条件達成になると思う。
たぶん。」
「達成出来そうなのか?」
顔をすごく近づけて目をのぞき込んで聞くヨウイチに思わず体をのけぞらせながら
「あー・・・。
うん。
達成は出来ると思う。
ワールドに行けば初級ダンジョンが有るだろうから、その中から2個クリアすれば・・・たぶん。」
「で!?
どのくらいかかる?」
更に顔を近づけてくるヨウイチに、一歩下がる。
「んー・・・。」
右手人差し指をこめかみにあてて考え込む。
初級ダンジョンを2つクリアはたぶん簡単だと思う。
まだ行った事のないワールドに行って、まずは情報屋で簡単な初級ダンジョンの情報を仕入れれば・・・ワールドがよっぽど難易度を上げていない限り、1つ10分くらいかな・・・。
2つで20分。
情報屋に行ったり、ダンジョン間の移動時間を考えると30分くらいか?
ワールドへの入り口に近い場所に飛んで・・・。
チラリと時計を見る。
10時10分。
うーん・・・。
「ヨウイチ。
この後、1時から彼らとダンジョンに行くよね?」
ヨウイチに聞くと
「ああ。」
短く答えるヨウイチに頷き
「1時までには、条件クリアしてコールできるかどうか確認できると思うんだ。
だから、ヨウイチは一旦背の高い男の所に戻って
1時に現地集合すると伝えてきてほしい。」
眉をひそめて少しイヤそうな顔をするヨウイチだが、
契約不履行で責めこまれるのは、問題が大きく厄介になる場合が多い。
コールに関しても、呼ぶ側は“レンタル”している事になる。
呼べるようにならないとわからないけれど、レンタル料は発生しているだろう・・・。
となると、ダンジョンアタックの時にヨウイチを僕が確保しているのは横取りしたような状況になる。
・・・。
最初のものごっつい男の睨みつけるような顔を思い出し、あの時もしかしたら僕がヨウイチを横取りしていると思っていたのかもと考える。
・・・。
少し黙っていたヨウイチが
「わかった。
・・・。
伝えたらすぐにケーボーの所に行って良いか?」
少し上目遣いで聞いてくる。
よっぽど背の高い男がイヤなんだな。
「うん。いいよ。
・・・。
またベランダから来るつもり?」
「表からは入れなかったし、窓からはダメか?」
ダメ。
なんだけど、表の部屋呼び出しのインターホンを今言葉だけで説明してヨウイチにわかってもらえる自信がない・・・。
目を瞑ろう。うん。
「出来れば表から来てほしいけど、今回はしょうがない。
窓の鍵は開けておく。
僕は自分の部屋にいるから、来たら声かけて。」
「わかった。」
ヨウイチが明るい顔になって答えた。
「じゃ、急いで帰るから。
また後で!」
片手を上げる。
「おぉ!」
と答えたヨウイチは一瞬で見えなくなった。
小走りで大通りに出てタクシーで家に帰り、ユグドラシルにログインする。
なかなか足を踏み出せなかったワールドに向かう。
計画通りに動いて初級ダンジョン2つクリアは達成した。
念のために、一つ多めの3つクリアした後ログアウトする。
今までのフィールドとは全く違った世界観のワールドにワクワクして、もっと冒険したいと思ったけれど今は時間がない。
もう一度魔法陣の場所に行って確かめないと。
お茶を飲んでから出かけようとリビングに行くと、ヨウイチが居た。
「ぅわ!ビックリした!
声かけてくれたら良かったのに。」
そう言う僕を見て
「いや。声はかけたんだけど、集中してるみたいだったからこっちでおとなしくしてた。」
立ち上がりながら答えた。
続けて
「行くのか?
条件達成出来たのか?」
と聞いてくる。
「うん。
たぶん大丈夫なはず。
お茶を飲んでから出かけるつもりだけど、ヨウイチも飲む?」
そう言ってコップを出す。
「あぁ。飲む。」
と言うヨウイチにお茶を渡し二人で飲む。
コップを片づけてから出かけたいところだけど、今は仕方ない。
窓を閉め、二人で出かける。
タクシーで魔法陣近くまで行き、
ヨウイチと一緒に歩いて魔法陣の中へ。
ーーーヨウイチーーー
そろそろ魔法陣の場所だ。
ケーボーは魔法陣が見えるだろうか?
気になって様子をうかがっていると、ケーボーが走って魔法陣に近付き1歩手前で立ち止まる。
目線はまっすぐに魔法陣の場所だ。
「見えるんだよな?」
ジッと動かないので思い切って聞いてみた。
ケーボーは見開いた目で俺を見つめて、ゆっくり頷いた。
よし!
次はダンジョンに行けるかだ。
魔法陣に入る。
「ただ、コール主も背の高い男も、この魔法陣に入って何か言っていたんだけど・・・。
何て言ったのか聞き取れなかったんだ。
それがわからないと、もしかしたらダンジョン前には行けないのかも・・・。」
コール主も背の高い男も魔法陣に入ったら俺に触れてから何かつぶやいていた。
すごく小さい声で二言三言・・・。
何て言っていたんだろう。
「へぇー。
何か特別な呪文が必要って事なのかな?」
ケーボーがそう言って首を傾げながら魔法陣の中に入った。
入った後固まって、瞬きもせず一点を見つめている。
何かが見えているのか?
「どうなってる?
ダンジョンに行けそうか?」
我慢できずにそっと聞いてみた。
「あ!
ごめん。
条件達成してないから行けないみたいだ。」
条件達成??
と言うことは、条件を達成すれば行けるのか?!
「どんな条件だ?」
「ソロでのダンジョンクリア。
中級・上級は達成しているけれど、初級ダンジョンのクリア数が2足りない。
今まで行った事の無い初級ダンジョンを2個クリアすれば、条件達成になると思う。
たぶん。」
ケーボーなら初級ダンジョン簡単にクリア出来そうだけど・・・。
「達成出来そうなのか?」
「あー・・・。
うん。
達成は出来ると思う。
ワールドに行けば初級ダンジョンが有るだろうから、その中から2個クリアすれば・・・たぶん。」
だよな。達成出来るよな。
「で!?
どのくらいかかる?」
「んー・・・。」
と言って考え込んだ。
気が逸るが黙ってジッと待つ。
「ヨウイチ。
この後、1時から彼らとダンジョンに行くよね?」
「ああ。」
聞かれて答えると。
「1時までには、条件クリアしてコールできるかどうか確認できると思うんだ。
だから、ヨウイチは一旦背の高い男の所に戻って
1時に現地集合すると伝えてきてほしい。」
やだな・・・。
ケーボーに背の高い男の所に戻るよう言われて瞬間的に思った。
でもケーボーの、当然の事でしなきゃいけない事だと真剣に思っている様子に
「わかった。」
嫌々答える。
「伝えたらすぐにケーボーの所に行って良いか?」
ダンジョンに行く“昼1時”までの時間、背の高い男の所に居るのは嫌なので聞いてみた。
「うん。いいよ。
・・・。
またベランダから来るつもり?」
「表からは入れなかったし、窓からはダメか?」
すぐにケーボーの所に行っても良いと言われホッとする。
「出来れば表から来てほしいけど、今回はしょうがない。
窓の鍵は開けておく。
僕は自分の部屋にいるから、来たら声かけて。」
「わかった。」
返事をするとケーボーは大急ぎで
「じゃ、急いで帰るから。
また後で!」
片手を上げて走り出した。
「おぉ!」
背の高い男に現地集合と伝えさえすればいいんだ。
さっさと済ませてケーボーの所に行こう。
全力で走りあっという間に背の高い男の家に着く。
出て来た時の窓から入ろうかとも考えたが、起きているかもしれない。
ドアをノックする。
中で人の動く気配がする。
待っているとドアが開いた。
「何やってんだお前。」
そう聞いてきた背の高い男に
「“昼1時”に、この間の駅前に行くから。
現地集合と言う事でよろしく。じゃ。」
背の高い男の質問に答えないまま、言うだけ言ってケーボーの家に向かった。
ベランダの窓はケーボーが言っていた通り開いていた。
中に入りケーボーの部屋へ行く。
「ケーボー。」
声をかけてみたが、気付く気配が無い。
そっとリビングに戻り考えを巡らせる。
ケーボーが何をしているのか後ろからのぞき込みたいとも思ったけれど、気が散って条件達成出来ないと困る。
後ろから見た限り、さっき“地図”を出した“ネット”を見ているようだった。
・・・。
ダンジョン攻略。
アレから出来るのか?
“異世界”がよく分からない。
今のケーボーと最初に会った時によく言っていた“ゲーム”も分からないままだ。
この件がうまく行って、ケーボーがコール主になったら気になっている事をちゃんと聞いてみないと。
今回のダンジョン攻略にも関わってくるかもしれないし・・・。
考えていたらリビングのドアが開いた。
「ぅわ!ビックリした!
声かけてくれたら良かったのに。」
ケーボーがそう言って胸元を手で押さえながら深呼吸している。
「いや。声はかけたんだけど、集中してるみたいだったからこっちでおとなしくしてた。
行くのか?
条件達成出来たのか?」
一番気になっている事を聞くと
「うん。
たぶん大丈夫なはず。
お茶を飲んでから出かけるつもりだけど、ヨウイチも飲む?」
「あぁ。飲む。」
答えて、お茶を一気に飲んだ。
まだ“たぶん”の段階か・・・。
早くケーボーがコール主になれる事を確認をしたい。
“タクシー“で魔法陣近くまで行き、
少し緊張した面もちのケーボーと一緒に魔法陣の中へ。