第10話 だよね?!
ヨウイチが
「じゃあ決まりだな。
しばらくこの辺りを探してみたい。
もう店を出ても大丈夫かな?」
と言って、僕を見る。
「え。あ、うん。・・・トオルもヨウイチもご飯食べなくて大丈夫なの?」
自分だけ夕飯を済ませている状況に申し訳なさを感じて、二人も夕飯を済ませた方がいいんじゃないかと聞いてみるが。
ヨウイチはとたんににがい顔をして
「イヤ、いい。」
と言い、
「俺もいいわ。どうにもこういった店の食事は口に合わない。」
と、トオルもにがい顔で答える。
そういえば、一緒にランチをする時はトオル行きつけの店にしか行かない事を思い出す。
何店かあるけど、全部おふくろの味的なバランスのとれた家庭料理を出す店ばかりだ。
3人で店を出る。
「じゃあ、まずは最初の場所に行ってみるよ。」
と言うヨウイチについて行く事にする。
ランチをしたお店から、少し離れた場所で
「スタートポイントはココ」
と指差す。
へぇ・・・と僕とトオルはつぶやいて周りを見回す。
あまり人通りが無い路地だ。
「ココで少し頭を打って、痛っ ってつぶやきながらマップを見たら、マップ表示の限界ギリギリにケーボーが居ることが見えて・・・この時点では名前が確認できなかったけど・・・他に知り合いのマーカーが無かったし、近付けば名前の確認も出来ると思って走って近付いたんだ。」
説明を聞きながら、ヨウイチが通った道を通って最初に会った場所に移動する。
「ここでのやり取りはわかってるだろうから、飛ばして。
ケーボーと一旦別れてから、しばらくはジッとしていたんだけど。
通る人のステータスがいつも見るのとあまりにも違ったし、ケーボーの反応もよく理解出来なかったから、状況把握の為に少し移動した。」
ヨウイチが通ったとおりに移動して
「近くに人が居ない森や林があれば魔法関係の確認が出来ると思って、見晴らしの良さそうなこの建物に上って周囲を見たけど何処も人で溢れていて難しそうだったから、また元の場所に戻ってケーボーが来るまで前を通る人の観察をしていたよ。」
説明が終わったヨウイチが僕とトオルを見る。
トオルと僕は、説明の中の一点に引っかかって目を見合わせる。
ヨウイチが上ったと言う建物だ。
周囲にあるビルの中では一番高く、見晴らしが良いのは解るのだが。
「上ったの?このビルに?じゃなくて、この建物に?」
ビルと言う言葉がわからないかもしれないと思い、建物と言い直す。
「え?何かまずかったか?」
何かしちゃいけない事をしてしまったのか?と警戒するような表情でヨウイチが訊ねてきた。
「どうやって?」
どうやってこのビルに上ったんだろう?
トオルと僕の疑問はそこだ。
このビルはかなりセキュリティが厳しい。
一階のロビーでパスを貰って、しかも内部の人との同行じゃないと中に入れない。
更に1フロア毎のセキュリティと、
たぶん更に、全フロア 一部屋毎のセキュリティだ。
外部の人間が通されるのは大抵会議室のみのフロアで、そのフロアはもちろん一部屋毎の管理になっている。
通路とトイレ以外は各部屋登録されている人間しか入れない。
通路とトイレ前も監視カメラがある。
打ち合わせで訪れた事があるが、トイレに行く時は会議室にバッグ類は置いて行くように言われる。
そんなビルの、見晴らしが良いと言う事は屋上に、どうやって上ったのか?
ヨウイチは戸惑った顔をして
「どうやってって・・・。ここから上に上っただけだけど。」
顔を見合わせるトオルと僕を見て
「こうやって。」
と言って、ヨウイチが目の前から消えた。
数秒で目の前に現れる。
「え?何したの?」
キョトンとして聞くと、
「壁を交互に蹴って上に上ったんだよ。今は4歩くらい上って戻ってきた。」
「え?」
「へ?」
トオルも僕も一言言った後フリーズする。
上を見上げる。
この高さを?
「ヨウイチ。スマンがもう一度やってみてくれるか?」
トオルが驚いた顔のままヨウイチに声をかける。
「俺には、一瞬で消えて突然現れたようにしか見えなかった。」
続けて言ったトオルの言葉に、僕もウンウンと思い切り頷く。
ヨウイチは、
「わかった。」
と快諾した後。
また消えた。
上を見上げる。
「どうだった?」
前から声をかけられた。
「今度は、10歩くらい上って戻ってきたけど。」
ヨウイチの言葉に、僕はトオルと目を見合わせる。
その様子に、ヨウイチが
「目で追えなかったって事かな。
じゃぁたぶん何度やって見せても同じだと思うから。
・・・。」
言葉を切って上を見上げたヨウイチが
「あの出っ張りまで上って、止まってから声かけるよ。
それだと、上った事はわかるだろ?」
と言ってくる。
また目を見合わせた僕とトオルは、
無言で頷いた。
「じゃ。」
と言ってまた消えるヨウイチ。
上を見上げる。
ヨウイチが指さしていた出っ張りにヨウイチの姿があった。
「確認できた?」
上から声をかけられて、思い切り大きく頷く。
ヨウイチが一瞬で目の前に現れた。
「こうやって上まで上って周りを確認したんだ。」
と、僕の「どうやって?」の質問に答えて、僕とトオルを見ている。
僕は、改めて
ファンタジーじゃないか!!
やっぱりファンタジーじゃないか!!
と心の中で叫んでいた。
「おい。了」
フリーズが解けたトオルが僕に声をかけた。
「これって何なんだ?
人があんなこと・・・出来るのか??」
「いやいや、出来ないよ。」
トオルの普段見ない姿に、僕の方がゲームやファンタジーやラノベに詳しいんだからしっかりしなきゃ!と気合いが入って気持ちが落ち着いた。
「だよな?!」
腕組みをした右手を顎に持って行ったポーズでしばらく考えているトオル。
「これって、了が言った通り、
ファンタジーなんじゃないか??!」
トオルの言葉に、僕も深く頷く。
「だよね?!やっぱりファンタジーだよね?!」
ーーーーヨウイチーーーー
「じゃあ決まりだな。
しばらくこの辺りを探してみたい。
もう店を出ても大丈夫かな?」
とケーボーに確認を取る。
「え。あ、うん。・・・トオルもヨウイチもご飯食べなくて大丈夫なの?」
と聞いてきた。
「イヤ、いい。」
あの食事は食べる気がしない。
「俺もいいわ。どうにもこういった店の食事は口に合わない。」
と答えるトオルを見て、トオルも同じ感覚のような気がした。
ん?と言う事はトオルが食べる食事は大丈夫かもしれないな・・・。
3人で店を出る。
「じゃあ、まずは最初の場所に行ってみるよ。」
まずはスタート地点から順を追って動いた方がいいだろうと判断して、二人を連れて行く。
「スタートポイントはココ」
と指差す。
二人はへぇ・・・とつぶやいて辺りを見回す。
特にこの場所についての情報は持っていなさそうだと判断して、
「ココで少し頭を打って、痛っ ってつぶやきながらマップを見たら、マップ表示の限界ギリギリにケーボーが居ることが見えて・・・この時点では名前が確認できなかったけど・・・他に知り合いのマーカーが無かったし、近付けば名前の確認も出来ると思って走って近付いたんだ。」
説明しながら最初にケーボーに会った場所に移動する。
「ここでのやり取りはわかってるだろうから、飛ばして。
ケーボーと一旦別れてから、しばらくはジッとしていたんだけど。
通る人のステータスがいつも見るのとあまりにも違ったし、ケーボーの反応もよく理解出来なかったから、状況把握の為に少し移動した。」
通ったとおりに移動する。
「近くに人が居ない森や林があれば魔法関係の確認が出来ると思って、見晴らしの良さそうなこの建物に上って周囲を見たけど何処も人で溢れていて難しそうだったから、また元の場所に戻ってケーボーが来るまで前を通る人の観察をしていたよ。」
説明が終わったので、何か情報がないかと二人を見ると、二人が目を見合わせている。
何だろう?と思っていると
「上ったの?このビルに?じゃなくて、この建物に?」
ケーボーが質問してきた。
「え?何かまずかったか?」
と聞き返したら
「どうやって?」
と聞かれた。
??
どうやって?
質問の意味がよくわからない。
「どうやってって・・・。ここから上に上っただけだけど。」
顔を見合わせる二人に戸惑う。
「こうやって。」
実際にして見せれば良いのかと思い、同じように上ってみる。
上まで上る必要は無いから、4歩程でケーボーの前に戻った。
「え?何したの?」
キョトンとした顔でケーボーが聞いてきた。
「壁を交互に蹴って上に上ったんだよ。今は4歩くらい上って戻ってきた。」
説明したら、二人とも
「え?」
「へ?」
と言ったまま、動かない。
しばらくしたら、上を見上げている。
トオルが
「ヨウイチ。スマンがもう一度やってみてくれるか?
俺には、一瞬で消えて突然現れたようにしか見えなかった。」
もう一度?
「わかった。」
と答えて、今度は10歩程上に上って戻った。
「どうだった?
今度は、10歩くらい上って戻ってきたけど。」
そう言うと、また二人で目を見合わせている。
そう言やケーボーのステータスって低かったな・・・。
トオルのステータスはよくわからないけど、今のケーボーだと俺のスピードについてこられないのかもしれないな。
「目で追えなかったって事かな。
じゃぁたぶん何度やって見せても同じだと思うから。
・・・。」
動いてる時のスピードが見えなくても、途中で停止すれば確認とれるだろう。
「あの出っ張りまで上って、止まってから声かけるよ。
それだと、上った事はわかるだろ?」
と言うと、また目を見合わせた後頷いた。
「じゃ。」
と言って、出っ張りまで上る。
止まってからケーボーに声をかける。
「確認できた?」
大きく頷いたのを確認してまた元の場所に戻る。
「こうやって上まで上って周りを確認したんだ。」
と、質問への答えを言って二人を見るが二人とも情報整理に時間がかかってるようだ。
普通に出来るはずの事にこんなに驚いていると言う事は、ケーボーやトオルには出来ないと言う事だろう・・・。
それはステータスが低いからなのか?
二人を見ながら考えていると、トオルが
「おい。了」
と声をかけた。
目線の先はケーボーだ。
サトル?
ケーボーの事だろうか?
他にもニックネームが有るのだろうか?
「これって何なんだ?
人があんなこと・・・出来るのか??」
混乱しているのか、先ほどまでのトオルとは違う慌てたような口調だ。
「いやいや、出来ないよ。」
それに対して、先ほどまでとは違い落ち着いた様子でトオルに答えているケーボー。
へぇ・・・。
さっきまでのケーボーは頼りなさすぎてどうかと思っていたけど、落ち着いているケーボーだと、いつものケーボーと印象が近くなるな。
「だよな?!」
トオルが勢い込んだ口調で言った後、腕組みをしてジッと考え込む。
「これって、了が言った通り、
ファンタジーなんじゃないか??!」
トオルが言うと、ケーボーが深く頷きながら
「だよね?!やっぱりファンタジーだよね?!」
と今日会ってから一番の大きな声で言う。
ファンタジー・・・二人の間に出てくる言葉が解らなくて、不安になる。
ファンタジー・・・ゲーム・・・リアル?
俺、大丈夫かな・・・・・・・。
あーー腹減った!
ーーーートオルーーーー
ヨウイチが
「じゃあ決まりだな。
しばらくこの辺りを探してみたい。
もう店を出ても大丈夫かな?」
と言って、同僚を見る。
「え。あ、うん。・・・トオルもヨウイチもご飯食べなくて大丈夫なの?」
と声をかけられたがファミレスの食事は、ちょっと体質的に合わないんだよな・・・。
俺はいいとしても、ヨウイチは腹減ってるんじゃないかな?
と思ったが、何ともニガイ顔で
「イヤ、いい。」
と答えている。
あ、何かその表情わかるなー。俺もきっと同じような表情しているだろうな・・・。
「俺もいいわ。どうにもこういった店の食事は口に合わない。」
3人で店を出る。
「じゃあ、まずは最初の場所に行ってみるよ。」
と言うヨウイチについて行く。
ランチをした店から少し離れた場所だ。
「スタートポイントはココ」
と指差す。
何て事はない路地で、人通りも少ない。
今まで通ったこともないし、
へぇ・・・と何とも言えずつぶやいて、周囲を見回す。
一応、場所は覚えた。
「ココで少し頭を打って、痛っ ってつぶやきながらマップを見たら、マップ表示の限界ギリギリにケーボーが居ることが見えて・・・この時点では名前が確認できなかったけど・・・他に知り合いのマーカーが無かったし、近付けば名前の確認も出来ると思って走って近付いたんだ。」
ヨウイチの説明を聞きながら、最初に会った場所に移動する。
「ここでのやり取りはわかってるだろうから、飛ばして。
ケーボーと一旦別れてから、しばらくはジッとしていたんだけど。
通る人のステータスがいつも見るのとあまりにも違ったし、ケーボーの反応もよく理解出来なかったから、状況把握の為に少し移動した。」
更にヨウイチの先導で移動して
「近くに人が居ない森や林があれば魔法関係の確認が出来ると思って、見晴らしの良さそうなこの建物に上って周囲を見たけど何処も人で溢れていて難しそうだったから、また元の場所に戻ってケーボーが来るまで前を通る人の観察をしていたよ。」
説明が終わったヨウイチが俺達を見るが、俺も同僚も説明の中で同じ所に疑問をもって目を見合わせた。
このビル。
仕事で来る事が有る。
セキュリティが厳しくて、訪問する時の手間が面倒なビルだ。
パスを出して貰うための事前申請事前登録が必要だし。
まぁ、そもそも遅刻はダメなのは当たり前ではあるのだが、そうは言っても事情がある場合、多少は考慮してもらえる事が多い。
だが、このビルについては、一切受け付けてもらえない。
相手方の担当者が、多少の遅刻は大目に見てもいいから今日打ち合わせたい。と思っても、システム上許可されていないので絶対に受け付けてもらえない。
このビルに来る担当者は、かなりの緊張と気合いを入れて訪問するのが常だ。
そのビルの上・・・屋上って事か?そこにヨウイチが上るって事は不可能だと思うのだが・・・?
「上ったの?このビルに?じゃなくて、この建物に?」
同僚が質問する。
「え?何かまずかったか?」
と尋ねるヨウイチに、
「どうやって?」
と同僚が更に質問する。
「どうやってって・・・。ここから上に上っただけだけど。」
理解出来ず、同僚と顔を見合わせる。
その様子を見たヨウイチが
「こうやって。」
と言うと、姿が見えなくなった。
数秒した後目の前に現れる。
「え?何したの?」
同僚がキョトンとして聞く。
俺も何が起こったのか、理解出来ずジッとヨウイチを見つめる。
「壁を交互に蹴って上に上ったんだよ。今は4歩くらい上って戻ってきた。」
普通の事のように答えるヨウイチの言葉に、
「え?」
「へ?」
と同僚と二人言葉にならない声を出して、混乱した頭を整理する。
ヨウイチの説明自体はわかるのだが、実現可能なのか?
「ヨウイチ。スマンがもう一度やってみてくれるか?」
俺には、一瞬で消えて突然現れたようにしか見えなかった。」
もう一度見れば理解出来るかもしれないと、ヨウイチに頼んでみる。
「わかった。」
と一言言ったヨウイチの姿がまた消えた。
壁を交互に蹴って上に上ると言っていたので、視線を左右に振りながら上を見上げてみるが何も見えない。
「どうだった?」
と、前からヨウイチの声が聞こえた。
見ると、ヨウイチが姿を現している。
「今度は、10歩くらい上って戻ってきたけど。」
同僚とまたもや目を見合わせていると、ヨウイチが
「目で追えなかったって事かな。
じゃぁたぶん何度やって見せても同じだと思うから。
・・・。」
言葉を切って上を見上げたヨウイチが
「あの出っ張りまで上って、止まってから声かけるよ。
それだと、上った事はわかるだろ?」
と言ってくる。
もう一度目を見合わせ後、同僚と一緒に無言のまま頷いた。
「じゃ。」
と言うと、またヨウイチの姿が見えなくなる。
同僚と一緒に上を見上げる。
ヨウイチが指定した出っ張りにヨウイチの姿があった。
「確認できた?」
上から声をかけられて同僚と一緒に頷く。
ヨウイチが一瞬で目の前に現れた。
「こうやって上まで上って周りを確認したんだ。」
と言うと、ヨウイチは同僚と俺を見ている。
指定した出っ張りに姿を見せたという事は、ヨウイチが言っている方法で上ったと言う事だろう。
でも、人ってそんな事出来るのか?
だいたい、そもそも、目の前にいた人物がフッと姿を消して突然目の前に現れるって、そんな光速の動きが出来るものだったか?
すげー頭混乱してきた。
「おい。了」
思わず同僚に呼びかける。
こんなに頭が混乱したのなんていつ以来だ?
どーすんだ?俺。
どーしたらいい?
「これって何なんだ?
人があんなこと・・・出来るのか??」
そう聞いてしまう。
「いやいや、出来ないよ。」
意外に落ち着いた様子の同僚から、返答がある。
「だよな?!」
だよな?
そうだよな?
思わず腕を組んで考え込む。
当たり前に、人って、あんな事出来ないよな?
これって、さっきは理解出来なかった同僚とヨウイチの会話が実体験で理解出来たって感じじゃないか?
ファンタジーで
妖精族だ!
「これって、了が言った通り、
ファンタジーなんじゃないか??!」
そう少し大きい声で言ってしまった俺に、
「だよね?!やっぱりファンタジーだよね?!」
と、同僚も大きめの声で答えた。