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ふじやま
どうして、私はこんな樹海に来ているのだろう。
霧に包まれた富士の樹海。
それは、一つの名所。
「やあ、こんなところでどうしましたか?」
私は一人の男と会った。
「関係ないでしょ」
「ですね。こんなところにくるのに、理由はひとつしかない」
私は無視して、前に進もうとする。
「知ってますか。富士山は、帝がかぐや姫からもらった不死の薬を、燃やした山なんですよ。不死の山」
「何を言っているんですか?」
「あなたは、ここで死んで楽になれると、本気で思っているんですか?」
男は霧の中に消えていく。
彼の最後の表情は苦痛に歪んでいた。
富士山だけが、目撃者だった。




