83/124
白い日
ホワイトデー。真っ白な一日。
その日は、わたしにとって白い荒野のようなものだ。予定は、たったいま、何もなくなった。
白い灰のような雪が降り積もる。
眼前に広がるそれはまるで荒廃した大地だ。
多くの幸福なひとびとは、足跡をそこにつけていく。白い大地にそうやって、痕跡が作られていく。それは、歴史書には残らなくても、たしかな人間の存在証明となるのだ。そうすることで、歴史が紡がれていく。
でも、わたしには、歴史を紡ぐ権利はない。
「だって、わたしの地面は赤く染まっているのだから」
パトカーのサイレンが鳴り響いた。
もう、彼は動かない。




