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ハロウィンの夜に
「トリックオアトリート?」
去年のハロウィン。彼女はそう言っていた。
いつも隣にいてくれた彼女は、もう隣にはいない。
去年当たり前だった日常が、非日常へと変わっていた。
ぼくは、無為な日常を過ごす。
※
10月31日。
また、あの日が来た。
呼び鈴がなった。
ドアを開けると、彼女がいた。
ジャックオーランタンをかぶって。
「トリックオアトリート?」
去年と同じ口調で、彼女は笑っている。
涙が止まらなくなった。
「トリートでお願いします」
ぼくが、そう言うと彼女はクスリと笑った。
冷えた体温が、ぼくの体を包んだ……。




