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知恵の実
「ねえ、どうして“知恵の実”が禁断の果実だったと思う?」
彼女は、リンゴを食べながら聞いてきた。
「さあ、どうしてだろうね? そもそも、おれは仏教徒だし、そんなことよくわからないよ」
ぼくは、イチジクをかじってそう返す。
「わたしはね、有限を知ってしまうからだと思うな」
「有限?」
「そう、有限。自分がバカであれば、限界なんてわからないでしょう?」
「たしかにね」
ぼくは、果物を咀嚼する。
「でも、頭がよくなると、限界が見えてしまう。いつか、自分が死ぬことも理解してしまう。それって、不幸じゃないかな?」
彼女は、微笑をうかべて果物ナイフを手におれに抱きついた。
「ばいばい」




