歴史編纂者(新作、SF歴史)
おれは、歴史編纂者だ。
歴史編纂者。
聞きなれない言葉だろう。
これは、政府のトップしか知らない国家機密なのだから。
我が国は、三年前、タイムマシンを完成させたのだ。
これは、トップシークレットであり、諜報機関のエースであったおれに密命が下されたのだ。
歴史を編纂しろと……。
おれの仕事は、わが国の国益のために、過去の歴史を改ざんするのだ。
具体的に言えば、過去に戻り、大統領の政敵を暗殺したり、英雄に資金援助することで、敵国との戦争を有利に進めたりするのだ。
例えば、織田信長。
これは、日本の英雄となっているが、実際は単なる馬鹿だった。
桶狭間で、今川義元に特攻し、あえなく討死。
そのまま、今川義元が天下を握り、日本は世界最強の海洋大国へとなった。
そこで、おれは歴史を編集した。
一五六〇年にタイムトラベルし、今川義元を暗殺した。
こうすることで、安定政権ができるはずだった日本の歴史は三十年遅くなり、今はなんとか大国という立場を維持しているだけだ。
今日、おれは再び二百年前に旅立つ。
大統領の政敵の先祖を暗殺する密命だった。
そして、おれはその密命をクリアした。
おれは、そのまま現代に戻ろうとしたとき、異変が起きたのだ。
おれの下半身が、少しずつ消えていったのだ。
そして、おれは気がついた。
「大統領の政敵とはおれだったんだ。歴史の改ざんした事実を知るおれだったんだ」
こうして、おれは歴史の流れの中で消滅した。




