6/124
海を求めた男(ヒューマンドラマ)
わたしは海をみたかった。
我が故郷は山国である。
あたり一面の緑と雪化粧。それはとても美しかった。
わたしは故郷を愛している。
だが、わたしは海を知ってしまった。
青々とした美しいさと塩辛い水。ぜひともこれを見てみたい。
家族は必死でわたしを引き留めた。それでもわたしはあきらめなかった。
ある夏、ついにわたしは計画を実行した。わずかばかりの食料と水をもっての逃避行だ。
海というものは東にあるらしい。わたしは東の方向にひたすら歩いた。
1日、3日、1週間歩いた。
しかし、山は続いていた。海はいっこうにみえてこない。
途中、山賊に襲われ、わたしは命からがら逃げた。逃げた。逃げた。
食料もほとんど無くなり、道中の親切な旅行者に塩漬け肉をわけてもらった。
そして、わたしは今、山の頂上にいる。
いったいいくつめの頂上かわからない。
塩漬け肉をほおばり、水でながしこむ。
しょっぱい肉と水が体にしみこんでいく。
生きかえる。
空を見上げた。雲ひとつない青空だった。
「海はこんなにそばにあったのか」
わたしは清々しい気分でつぶやいた。