勇者と魔物(新作、私小説)
おれは、勇者だ。
王様から依頼されて、魔王討伐の旅に出ている。
パーティーメンバーは、おれと戦士と魔法使いと僧侶。
正統派勇者パーティーだ。
今日も、町に迷惑をかけている魔物の軍団を成敗して、宿に泊まる。
その夜、夢を見た。
おれは、昼に成敗された魔物になっていて、おれはおれと戦っていた……。
次の日も、次の日も似た夢をみた。
おれは、おれに殺され続ける。
夜な夜な、おれは同じ夢を見続けた。
※
「おい、勇者。大丈夫か?」
戦闘が終わって、おれがへたり込んでいると戦士が心配して声をかけてくれた。
「ああ、最近、寝不足でな」
「あんまり無理するなよ」
「あっ、子連れゴブリンだ」
女魔法使いが、そう叫んだ。
「いきますよ、勇者さん」
女僧侶も臨戦態勢にはいる。
「なあ、みんな? どうしても、倒さなくちゃだめか?」
おれは、思わずそう言ってしまった。
「当たり前じゃない。こいつらは、旅人を襲う魔物でしょ」
魔法使いがそう言った。
「でも、子連れだし」
「この子供が、また新しい魔物を生んで、悲劇を起こすんですよ」
僧侶がそう言う。
「二人とも、いいから戦うぞ。勇者は少し疲れてるんだ」
そういって、三人は親ゴブリンを瞬殺した。
三人の魔物が子どもゴブリンに向かう。
その瞬間、おれの意識は魔物となり、人間の意識と何度も往復する。
「おれは、勇者で、魔物で、ゴブリンで、勇者で、勇者で、まもので、まもので、ゆうしゃで、ま、もので、ゆう……もので……」
意識が混濁していき、おれは気を失った……。
そして、意識を取り戻したとき、おれの目の前には五体の遺体が転がっていた。
こうして、おれは魔物でも、勇者でもなくなってしまったのだ……。




