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忖度(新作)
忖度。
そんたく。
すてきな言葉だ。
なんと素晴らしい言葉だ。
私は、この言葉が大好きだ。
これをすれば、多くの人に喜んでもらえる。
出世まで、できてしまう。
最高の概念だ。
「伊藤君。イベント会場の準備はどうだね?」
課長が、そう言ってきた。
「もちろん。終わっております。社長用に豪華なイスと好物を用意してありますので、ご安心ください」
「さすがだね。君に任せておけば、いつも安泰だ」
俺は、万事この調子だ。
社内では、忖度の達人と呼ばれている。
「伊藤君。今期の利益が低いようだが、どうなってる?」
今度は部長が話しかけてきた。
「ご安心ください。対応策は万全です」
「そうか。いつの間に、そこまでやってくれたんだ。やはり、君はうちのエースだね」
俺は、そう言いながら、画面上の決算書の数字を置き換えていた……。
※
「はい、伊藤です。ああ、加藤さん。はい、さきほど送付したデータが、粉飾決算の証拠です。これを出せば、A社は終わりです。ええ、では、いつもの口座にお願いします」
忖度。
なんと素敵な言葉だろう……。




