表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/124

日記(新作)

4月××日

 今日、余命宣告をされた。3か月。

 なんだか全然ピンとこない。妻と一緒に泣いた。こんなに抱き合ったのは久しぶりかもしれない。泣きおわったあと、「心残りは長男がまだ独身のことだけだ」と笑い合った。


4月×○日

 担当の先生に、延命治療よりも痛みの緩和を優先してほしいと伝えた。あまり、副作用がない薬を処方してもらえるようになった。在宅による緩和ケアもあるらしい。


5月△日

 やっと家に帰ってこれた。やはり、自宅は落ち着く。明日は、娘夫婦が遊びに来てくれるらしい。久しぶりに孫とも会える。連休を利用して、泊まってくれるそうだ。ここのところ妻も疲れているので、よいリフレッシュになれば。彼らにゆっくり会えるのもこれが最後になるかもしれない。最高の思い出をつくりたい。


5月◇日

 孫たちが帰っていった。本当に楽しかった。初日は、妻とふたりで唐揚げをつくり、夜はみんなでそれを食べてワイワイと。「じいじのごはんおいしい」と言ってくれた。こんなにうれしいことはない。孫は寝てしまったが、おとなたちで思い出話をした。思春期のときの親子けんかの話がいちばん楽しかった。

 2日目は妻と孫の3人で散歩にいった。近所の公園。桜は散ってしまったが、緑が生き生きとしている。すべてが眩しい。病気のせいかすぐに息がきれてしまう。それでも楽しかった。3人で手をつないでいると、昔にかえったみたいだ。少し涙がにじむ。

 夜には長男が来てくれた。なにもいわず、2人で酒を飲む。「逆転ホームランはないのか」と聞いたら、「あるわけないだろ」といわれてしまった。残念。


5月××日

 今日は妻といつものレストランにいった。昔から2人でいっているいきつけのお店。私はいつもの「グラタン」、妻はこれまた「ハンバーグ」。本当にかわらない。

 懐かしい思い出話をした。

 初デートの失敗談。これはもう何回いわれているのだろう。緊張していたのだからしょうがないだろう。

 プロポーズのときの話。そわそわして、ばれてしまっていたあの時の話。

 子どもが生まれたときの話。うれしさと緊張でパニックになって看護師さんに笑われた思い出。

 娘の結婚式。ロボットダンスのようになって歩いてたと笑われてしまった。

 こういう思い出話が増えた。おたがいにこころの準備を整えているのだと思う。


6月○○日

 また、しばらくあいてしまった。病室の窓から照りつける日光はどんどん強くなっている。もうすぐ夏だ。

 みんながお見舞いに来てくれる。少しずつ力が抜けていくのがわかる。時間があるとすぐに昔話をしてしまう。自分が家族や友達と作りあげた宝物を実感したいのだ。うるさがられていないか少し心配だ。


6月△△日

 ついにペンももつことができなくなってしまった。寝ているのか起きているのかも曖昧な不思議な感覚。すべてがフワフワしている。その感覚が突然痛みによって壊される。本当によくわからない。

 視野がぼけていく。ひかりがどんどん近づいて来る。だれかが私の手を握り、話しかけてくる。きっと彼女だ。やさしく力強い。この手をずっと握ることができた。とても幸せだった。ずっとそうお……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ