楽園のお茶会(ディストピア、新作)
この街はなにかがおかしい。
おれは、ある日気がついた。
ここはどこかおかしいのだ。
ひとびとはここを楽園と呼ぶし、おれも昨日まではそう思っていた。
しかし、違うのだ。
この世界は間違っているのだ。
おれは妻にそう言った。
妻は、笑ってこう返した。
「なにを言っているのよ。この街は、みんな笑顔で幸せに暮らしているでしょ」
「いや、それがおかしいんだ。この街では、犯罪もなければ、横領も公務員の汚職もない。酔っぱらいのけんかもなければ、煙草を吸うひとだっていない。不自然だ」
「なにを言ってるの。みんな道徳的に生活しているのよ。そのどこが間違っているのよ。このお茶でも飲んで、寝ちゃいなさいよ。そうすればすっきりするわ」
妻はそう言って笑った……。
※
一夜明けた。
どうして、昨日はあんなにこの楽園を疑っていたのかわからない。
一晩寝て、頭がすっきりしたのだろう。
妻に謝る。
「昨日はごめん。変なことを言ったよな」
「もう、大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ。あのお茶のおかげで、すっきりしたよ……」
「そうよ。あのお茶にはリラックス効果があるって昔からいわれてるじゃない。忘れたの?」
こうして、楽園は維持されていく。




