もうひとりのぼく(ホラー)
ある日、不思議なことがおきた。
自分を分裂させることができるようになったのだ。好きなタイミングで、自分を分裂させる。そして、もうひとりのぼくには、めんどくさいことをしてもらう。そして、本物のぼくはゲームで遊びまくるのだ。
こんな便利な力を手にいれることができるなんて、ぼくはなんて幸せ者なんだ。ぼくは選ばれたんだ。特別なんだ。そんなふうに思っていた。
もうひとりのぼくには、めんどくさいことをすべて押し付けた。学校の宿題、家の家事、親や先生からのお説教。そして、ぼくは遊びまくるのだ。
めんどくさかったから、もうひとりのぼくを自分のなかに戻すことまでやめてしまった。そして、毎日、好きなだけ遊んだ。
それから、1か月が経過した。もうひとりの自分を、もとに戻そうとするとそれを拒むようになってしまった。今まで、ろくにしゃべることもできなかったのに、流ちょうにしゃべることまでできるようになっていた。
「もう、おまえはおれじゃない」
やつはそんな生意気をいうのである。
はんとしがたった。ぼくはうまく話せなくなっていた。かぞくはもうぼくをぼくだと思っていなかった。
にせもののぼくが命令をしてくる。
「おまえは、しょせんおれの分身なんだから、ちゃんと言うこと聞け」とこの前言われた。
もっともなことだ。ぼくはしょせんにせものなのだから……。




