みえすぎた女(ヒューマンドラマ)
ある夜わたしに不思議なことがおこった。人の顔の上に、金額が見えるのだ。
たとえば、酔っぱらったあのおじさん。「300万円」。
テレビで「グローバル社会では~」「日本はだからいけない」と有名な社長が意識高い発言をしている。
でも、彼の数字は「マイナス2千万円」。あのおじさんよりも低い。なぞの数字だ。
朝出勤していると、つり革のニュースが目についた。
「有名な女優A死去。遺産1億円のゆくえ」という記事だ。
そして、わたしには女優の顔写真の横に「1億2千万円」という数字がみえた。
わたしは確信した。この数字は残すであろう遺産額だ。これは使える。わたしは人生の勝ち組になれると。
わたしは合コンを繰り返した。上場企業・医者などなど。年収が高くても、マイナスの人間も多い。仲間たちはたいていマイナスの人間に飛びつくのが滑稽だった。
そして、わたしはついに運命の人に巡り合えた。「5億円」。ベンチャー企業の社長だが、まだ駆け出し。「ヒーヒー」言ってるらしい。
みんなは目もくれない。でも、わたしは見えている。彼の将来が。
わたしのほうから告白した。
「夢をおっているあなたが大好き。つきあってください」
彼は簡単に受け入れてくれた。完全勝利だ。
しかし、その告白のあと、数字はみえなくなってしまった。
「運命のひとに会えたからいっか」わたしは幸せに向かって歩き始めた。
※
おれには不思議な能力がある。ひとが残すであろう遺産額がみえるのだ。昨日、取引先ですごい男とであった。なんと「5億円」。こんなやつめったにいない、
だが、不思議なことがおきた。営業のたび何度か会っているのだが、会うたびに数字がどんどん減っていく。今の数字は「マイナス1億円」だ。




