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満たされたカブトムシ(童話)
ぼくはやっと成虫になれた。
幼虫時代はゆっくりしか動けなかった。
サナギの時代は動くことすらできなかった。
でも、やっと動くことができる。飛ぶことができる。これが本当の自由なんだ。
ぼくは幸せだった。立派な角を手にいれることができたし、空だって飛べる。
そして、ぼくは楽園へとたどりついた。
そこはとても立派なクヌギの木だった。
ほかの虫はどこにもいない。あふれんばかりの樹液は独り占め。
ぼくは幸せだった。
動かなくても美味しいものが手にはいる。競争相手だっていない。
ぼくはずっとここに住もう。そう心に決めた。
それから1か月が経った。
ぼくはその木から離れなかった。離れることができなかったのだ。なぜなら、幸せだったから。
でも、ふと思う。
「これって本当に幸せなのだろうか ?」と
木々の葉色がどんどん変わっていく……。




