毒裁者(歴史)
わたしは俗にいう独裁者だ。
名門の家に生まれて、幼少期より将来を嘱望されていた。順調にエリートコースを歩み、若くして軍の司令官に任命された。
当時の王は愚鈍で、民は苦しんでいた。そのうえ、戦争が好きで、機会があれば戦いがおこなわれていた。
義憤に駆られたわたしは、部下たちとクーデターを計画し、実行した。
人望がなかった王はすぐに捕縛されて、わたしのもとに連れ出された。
「リオよ、なぜわたしを裏切った」
バカな王だ。絶望と怒りを同居させた表情。なぜ、自分がここにいるのかもわかっていない。
わたしは王の質問には答えず、彼を断頭台におくった。
新しい王は、以前の王の弟を擁立した。傀儡の王である。
わたしは軍の総司令と大臣を兼務した。王ですら、わたしには逆らうことができなくなった。
厳格な階級制度を緩めて、奴隷を解放し、商業を奨励した。
とくに若者からの人気は絶大だった。わたしたちはいっしょに夢を見た。
既得権益をもった保守派貴族が反乱を起こしたが、敵ではなかった。首謀者、協力者はすべて粛清し、断頭台の藻屑にきえた。
わたしは理想に燃えた。しかし、理想を燃やせば、燃やすほど周囲は離れていった。
国の農業力を発展させるために、害鳥の徹底的な駆除を命じた。
「リオ様、それは性急すぎます」
常に側近として仕えてくれていたライがわたしを諫めた。
「あの鳥が絶滅した場合、どんな影響がおきるかわからないのです。どうか考えなおしください」
わたしは激高した。
「この大バカ者。あの鳥がいかに農民を苦しめているかわからんのか。わたしの国であんなものが生きることはまかりならん。自然に与える影響など些細なものにすぎない」
わたしはライを遠ざけ、閑職へ左遷した。
害鳥絶滅計画は、わたしの熱心な支持者によって忠実に実行された。
わたしは満足した。季節は秋になっていた。
外には美しい夕暮れと虫たちが優雅に踊っていた。