パン屋のおやじ(ヒューマンドラマ)
おれは小さいパン屋を経営している。
超有名店というわけではないが、家族3人が食べていく分には問題ない。
いわゆる、「町のパン屋さん」というのがしっくりくる。
朝は4時に起きて、5時から勤務開始。
サラリーマン時代によく遅刻していた俺が、よく続けられていると感心している。
脱サラをする際は、妻が大反対すると思っていた。でも、こころよく賛成してくれた。
「いいじゃん、私パン好きだし」
「軽っ」
思わず吹き出した。
経営が安定するまではスーパーでバイトをしてくれて、今では仕込みの手伝いまでいる。
口にはださないが、自慢の妻だ。
生地をこねて、オーブンで焼く。
同時並行で、バイトくんがパンの具のカレー、あんこ、クリーム、ウィンナー、焼きそばなどを用意する。
バイトの山内くんも最近、慣れてきた。とても、頼りになる。
そして、パンが焼きあがった。この瞬間、とても幸せな香りが調理場を包む。
小麦とバターが作り出すあの幸せな香り。
妻や山内くんといつもニヤニヤしてしまう時間だ。
開店時間まで、あと15分。
店にパンを並べはじめる。
息子もそろそろ学校にいく時間だろう。
最近、「お父さんの後を継いで、パン屋になりたい」といっているらしい。
子どもに自分の仕事が認められるというのは、親冥利につきる。
外では学生さんやサラリーマンの姿が見えてきた。
もうすぐ、開店だ。
今日も自分は生きていると感じている。