やさしさ(恋愛)
「ほんとうにごめん。でも、きみのことは、絶対に忘れない」
3時間前、恋人に振られてしまった。
理由は、たいしたことのないすれ違い。そして、その積み重ね。
彼が切り出さなかったから、遅かれ早かれ自分が話していただろうという言葉だった。
「もう、お互い限界だよね。おわりにしよう」
わたしはついにきたかと感じていた。
「うん、そうだね」とても簡単で短い言葉だった。
「ごめんね。おれがもっとしっかりしていればよかった」彼はこんなときまで、やさしかった。
「そんなことないよ。わたしだって、悪いところいっぱいあったでしょ」
そして、冒頭の言葉に戻るのである。
「ほんとうにごめん。でも、きみのことは、絶対に忘れない」と。
こんな時まで、彼はやさしかった。
わたしは携帯をひらいた。
彼へのメッセージをうちこむ。
「どうして、こんなときまで、あなたはやさしいのよ。別れるんだから、嫌いにさせてよ。けんか別れして、お互い思いだしたくない思い出にさせてよ。そんなの自己満じゃん。いいひとにみられたいだけなんでしょ。どうして、こんな時まで。そんなこといわれたら、こっちまで忘れられなくなっちゃうじゃん」
結局、メッセージは送らなかった。いや、送れなかった。
涙でにじんだ月をみつめる。
「そんな、あなたが大好きでした」消えいる声でそう叫んだ。




