勇者旅立つ(ヒューマンドラマ)
「それでは勇者よ、この道具をもって旅立つがよい。そちが魔王をうち滅ぼしてくることを期待しておるぞ」
わたしは定型文となったいつものセリフを口にする。最初こそ気持ちをこめて言っていたが、今ではほんの義務的なセリフだ。
ふくろに入っているのは、「剣」と「盾」、「薬草3枚」、「銀貨10枚」だ。最低限の装備と金。これで魔王軍と戦えというのは無茶振りだと自分でもわかっている。総額、銀貨20枚で世界を救えというのだからお笑いだ。
この豪華な玉座の間から、いったい何人の勇者が旅立ったかもうおぼえていない。
「すでに半数以上の勇者が消息を絶っている」と大臣はいっていた。罪深いことをやっている。
だが、なにもやらないわけにはいかない。このままでは民は魔物に苦しみ、怒りの矛先はわたしにむかってくるだろう。パニックによって人類は自壊し、魔物が支配する時代になる。
すでに軍隊はなんども甚大な被害をうけている。もう打つ手はほかにない。月に銀貨数十枚を使い、民に希望をみせているというのが現実だ。
政治パフォーマンスに若き勇者を使い、そして若者の命を浪費する。
「わたしは地獄に落ちるな」小声でつぶやく。
それには気づかず勇者は誇らしげに階段を下りていった。




