龍門の聖
宇治拾遺物語を現代風に改題したものです。
少し昔のことです。奈良県の龍門村というところに、ひとりの立派な僧侶がいました。
村人はその立派な僧侶を「龍門の聖」と呼んで尊敬していました。
その聖の友だちに、鹿狩りの名人がいました。その男は火を使った狩りを得意としていました。
男はいつものように夜に狩りに出かけました。
「鹿がいたな」
火に映し出された鹿を見つけると、男は銃を用意します。
「どうも妙だな」
鹿にしては、目の間隔に違和感がありました。
男は、草むらに身を隠した鹿のようなものに近づきます。その物体は、鹿の皮を被っていました。
「やはり、鹿だな」
男は銃を再び構えて、打ちぬこうとするとおかしいことに気がつきました。頭に鹿の角がないのです。よく見ると、坊主頭の「龍門の聖」ではありませんか。
「聖様、どういうことですか」
「お主は、儂が止めるにもかかわらず、無駄な殺生をしていた。鹿だと勘違いして、儂を殺せば、それがなくなると思ったのじゃ。だが、残念ながら撃たれることはなかった。本当に残念だ」
男は泣きながらすべてを悔い改めて、狩りの道具をすべて折ってしまいました。そのまま、聖に弟子入りして、立派な僧になったそうです。
聖が鹿に化けていた本当の理由は誰も分かりませんでした。
ただ、ひとり。皮を奪われた”鹿”を除いて……




