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神殺し
ひとりの賢者に私は歯向かう。
「神など存在しない。それは知性が弱かった時代の人間が作り出した幻想だ」
「なるほど」
「仮に、皆が言う神様が存在するなら、どうして私はこんなに苦しいのだ。私は、貧しい両親のもとに生まれて、なんとかここまで生きてきた。だが、本に書かれたようなヒューマニズムは、私のいた世界には存在しなかった。みんなは、苦しみ周囲を追い落として、なんとか生きている人ばかりだ。どうして、救済を必要とするひとを神さまは救済しないんですか?」
知者は、一言だけ話す。
「神がいるかどうかはたしかに、わからない。でも、あなたにとって、神さまが必要だということはわかった」
彼は優しく笑った。




