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将棋
将棋には、時間を超越した瞬間がかならず訪れる。
その瞬間は、1秒間が、何十時間にも何年にも匹敵する密度に変容し、狂気の世界の一歩手前に私を引きずりこむ。
「10秒~」
秒読みが始まった。30秒以内に指さなければ時間切れ負けとなる。
この短い時間で、すべてを読み切れるかどうか、それが勝負の分かれ道。
これ以上、先に行ってはいけない。本能が思考にブレーキをかける。
知ったことじゃない。
私は、いくつもの時間と空間を超越する。
11手先の光を見つけた瞬間、盤上は新しい可能性で喜びに満ちる。
手が震えた。
「20秒~」
頭の興奮とは裏腹に、私は静かに手を伸ばして、正着の一手を指す。
そして、セカイが色づいた。




