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箱庭の技法  作者: 游魚
失われた物語
15/31

リィラの言い分 1

投稿遅れてすみません(T-T)

 


「そういえば、お互いきちんとした自己紹介がまだでしたね。わたしはリィラ。この村に村長であるヴィゼロの一人娘です」


「……カランです。ゼノさんに拾われて弟子をしています」


 僕はじんじん痛む頰を押さえながら、自己紹介をする。リィラの怒りは落ち着いた様だが、僕との距離が妙に遠い。ゼノヴィスにしていた様な礼をする事もない。やはりさっきの一発が、初対面の挨拶だったのだろうか。


「拾われて? それは、いつ? 貴方の意思でついて来ている訳ではないの?」


「つい最近です。困っていた所を助けてもらいましたし、弟子として役に立ちたいとは思っていますよ。行く当ても無いですし」


 リィラは、僕がこれ以上詳しく話すつもりが無いのが分かったのだろう。疑わしそうな表情をしながらも、それ以上詳しい事を追求することはなかった。


「じゃあ、ゼノ様が貴方をわざわざ国外にまで連れ出したのはなぜ? 忌色を持つ事で迫害されている者なんて、エレットネールにはたくさんいるでしょう? 」


「キショク?」


「貴方のその赤い目の事よ」


 なるほど、忌避される色だから忌色か。分かりやすくていい。


 僕は肩をすくめると、リィラに答えた。


「さぁ。僕には身寄りもありませんし、見ての通りこの体ですから同情されたのかもしれませんね。それはゼノさん本人に聞いて下さい」


 リィラは苛立った様にフンと鼻を鳴らした。


「同情ですって? わたしを押し倒せるくらいの実力があって、文字の読み書きが出来るのに? 貴方、それなりに恵まれた育ちでしょう。それだけ出来れば、例え忌色持ちでも、エレットネールで働き口を探せたはずよ。わざわざ出国の危険を冒す必要はないわ。……それとも貴方、魔術師なのかしら?」


(う〜ん。これは肯定していいんだろうか?)


 エネットネールで国内の魔術師は国の所有物だ。全てにおいて管理されているし、その手を逃れていた者は、下手をすれば殺される。そこから逃げ出したのだと言っても良いものだろうか。そもそも、ここで魔術師とはどういう扱いをされるのだろう。


 首を傾げた僕の反応をどう思ったのか、リィラは薄く笑みを浮かると、こちらに身を乗り出して来た。


「安心して? わたし、魔術師に対して嫌悪感や恐怖心は持ってないの。わたしの父も魔術師として生まれた人だから、その苦労は理解しているつもりよ。死体を食べるとかいう馬鹿馬鹿しい噂、信じたりしないし、悪意と戦火を引き起こすなんて、迷信だって分かっているわ」


 そう言ってことさらゆっくり微笑むと、リィラは僕の隣に腰掛けた。


「だからね、あの“アルム”の支持者でもあるの。 つい10日前も、王家の研究所を一つ壊滅状態にしたそうね? いくら多くの魔術師が所属する組織を引き連れていても、無傷でエレットネールの主要施設を壊滅できるとは思えないわ。彼らは無事かしら」


(…………は⁉︎)


 僕は、いきなり出てきた弟の名前に硬直した。

 そんな僕の顔からじっと目を逸らさず、リィラは物憂げなため息を吐く。


「聞いたことはないかしら? 幼くしてエレットネールに親を殺された、悲劇の少年。エレットネールの圧政に挑む革命の士。向こうじゃ良くも悪くも大人気でしょう? わたし、彼らには同情してるの。やっている事は考えなしだと思うけれど。貴方が匿って欲しいのなら、ゼノ様では無くわたしを頼るべきよ」


(……ちょっと待て。まさかそれ、本当にアルムの事じゃないだろうな。一体何をしてたんだ)


 もし弟のことなら、似顔絵でも出回っていれば、まず間違いなく僕と同一人物だと思われるだろう。

 しかし、リィラの様子を見る限り、彼女はその顔立ちを詳しく知っているわけではないようだ。


「……リィラさん? 何か勘違いされてませんか? その “アルム” と僕は別人ですよ」


 胡乱そうに僕を見るリィラに、僕はふと思いついて袖をまくり、左腕の断面を見せた。切断されてまだ日が浅いはずの傷口は、もうすっかり古傷のようになっている。


「ほら、僕の腕の傷はここ数日でできたようなものではないでしょう? “アルム”がどんな外見なのか知りませんが、片腕ではないのでは?」


 隻手(せきしゅ)というのは結構目立つ特徴であるはずだ。容姿についてどの程度知られているのか分からないが、できればこれで納得してほしい。


 リィラは戸惑った様に眉根を寄せて傷口を見ると、そのままの表情で僕の顔に視線を移した。


「そう、ね……片腕だとは聞いたことがないわ。同年代だし、黒髪に赤い目だからつい疑ってしまったの。傷を暴くような真似をしてごめんなさい」


「……いえ、気にしないでください」


 僕は混乱しながらも、なるべく表情を表に出さないよう気をつけつつ、首を振る。


 考えてみれば、今までアルムはどうやって生きてきたのだろう。当時はそんな事に思い至りもしなかったが、身寄りを無くした子供が一人、しかも魔術師である。孤児院に放り込まれた僕なんかより、余程生きにくかったはずだ。


 もう少し情報が欲しくて僕は口を開いた。


「その……“アルム”なんて人物、僕は初めて聞きましたよ。有名なんですか?」


 リィラは少し落胆したような表情をしながら首を傾げる。


「ああ、確かに“アルム”という名前が出てきたのは最近だから……情報の統制されるエレットネール国内じゃ、あまり知られていないのかしら。でも、“ロクーラ”という組織は聞いた事があるでしょう? 有名なレジスタンス集団じゃない。彼はそこの一員よ」


「その、僕はなるべく人目を避けて暮らしていましたから、詳しいことは……。そういった世間の事情には疎いんです」


 僕は、これ以上不信に思われないかヒヤヒヤしながらそう返した。

 幸い、リィラは納得したように何度か頷く。


「ああ、もちろん忌色を持つ貴方はそうでしょうね。だけれど、今は身寄りがないといっても、ずっとひとりで生きてきたわけではないのでしょう? ご家族とそういう会話はなかったの? 」


「……そういう話題はありませんでしたね」


「あら、やっぱり向こうではご家族と生活していたのね。今はお亡くなりに?」


「……」


 これ以上喋ったらボロが出る。探るようなリィラの視線に、僕はそれ以上は聞いてくれるなという気持ちを込めて、精一杯沈鬱な表情をつくって見せた。


「辛いことを思い出させてしまったかしら。……だけれど、ここの村人は、似た様な経緯の人も多いのよ。魔術師に寛容だったフィアラムと違って、エレットネールは忌色への偏見が特に強い国民性だから、忌色を持つ者の多くが移民になってそこから逃げたの」


「じゃあ、この村は魔術師も多いんですか?」


 リィラは妙に固い表情で首を振る。


「……いいえ。今は、父くらいよ。炎王の元に築かれたフィアラムの魔術師は、炎術師ばかりだったから……この国への移住は難しかったのね。行く当ての無かったその人達が、今のロクーラの母体になっているんじゃないかしら」


 アルムも、その組織に拾われて育てられたのだろうか。だとしたら、死んだ理由は、ロクーラの活動内容にあるのかもしれない。


「レジスタンスと言うことは、王家の体制に楯突いているって事ですよね? やっぱりエレットネールに反発を?」


 僕がそう聞くと、リィラが苦々しげに頷く。


「そうね。わざわざ王都の近くで派手な事件を起こしたりして……。彼らの所為で、エレットネール内での魔術師への忌避感が強くなっている事に、いい加減気づいてくれれば良いのだけれど」


「でも、王都の近くで、魔術師が悪魔で悪さするなんて可能なんですか? 王の支配域でしょう?」


 リィラは胡散臭そうな目で僕を見た。どうしてそんな当然のことを聞くのか、とでも言いたげだ。


「王といっても、雷王よ? エレットネールの王族は、あくまで雷の霊子を司る方々だもの。そこまでの抑制は出来ないのではないかしら。それに、エレットネールの王都は戦後に遷都された歴史の浅い都市だし、今あそこを治めていらっしゃるのは、王でなく王太子でしょう? 霊子の統制が十分に出来ているとは思えないわ」


 エレットネールの内情など始めて聞いた。それにしても、王の重要性について、僕の理解が少し足りていなかったようだ。ある属性における王が滅亡するということは、その属性の魔術師を抑止できる者がいないという事になるのか。


「つまり炎術師には、悪魔を悪用しても、それを止められる上位者がいない状態ですか」


 それは厄介者扱いをされても仕方がない。


「そう言うことになるわね。炎王を失ったことで起こる迫害を恐れた炎術師達が、過激な行動に走っているのが今のロクーラよ」


「目的は? 自分たちの居住を認めさせることですか? 」


 そう聞くと、リィラはどこか憐れむように僕を見た。


「当初の目的は、そうだったんでしょうね。彼らだって、王の加護の無い土地で長くは暮らせないんだから。でも今はどうなのかしら。“アルム” を祭り上げて、新たな神の血の委託者だとまで僭称(せんしょう)しているじゃない? 自暴自棄になっているのかもしれないわね」


 そう言ってリィラは僕から視線を外すと、溜息を吐く。


「ねぇ、貴方はやっぱり、魔術師の能力があるでしょう? それも炎術の。違う? そうでないとゼノ様が面倒を見る理由がないもの」


 確信を持って言い切る様子に、僕は曖昧に頷いた。とにかく魔術師だからといって、エレットネールのように取っ捕まえられるという事はなさそうだ。下手に嘘をついて、後で不信感を持たれるのも困る。


「……どうしてゼノさんが僕を世話してくれるのか、リィラさんにはその理由が分かるんですか? ゼノさんも、ロクーラの一員だとか?」


 そもそも、僕はロクーラとやらに助けられた覚えはない。僕が知らなかっただけで、ゼノヴィスはその一員なのだろうか。そうならば、今度ゼノヴィスに詳しい話を聞いてみよう。


 そう思って聞いてみるたが、リィラは首を横に振った。


「まさか」


 だとすると、襲撃の犯人がロクーラだと勘違いされているのだろう。


 僕が襲撃の濡れ衣を被ってくれているらしいロクーラとやらに感謝していると、リィラが少し悲しそうな顔で、吐き捨てる様に呟いた。


「彼は、そんな危険な場所に身を置いたりしないわ。……貴方、ゼノ様を信用し過ぎると痛い目に合うわよ。あの方は、優しく見えて利己的な人だから」



お読みくださりありがとうございます。


年末年始、ちょっと予定が立て込んでいるので、次の更新がいつになるか分かりません。ごめんなさい。

今年中にあと1、2回は頑張りたいのですが…

代わりと言っては何ですが、以前書いた短編(現代モノ)いくつか投稿します。お時間があればどうぞ。

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