ガソリンスタンド
砂漠を突き抜けるハイウェイの
入口にあるガソリンスタンドのオヤジが
真っ昼間からビール片手に暇をつぶす
そこへ遠くから爆音が鳴り響き
年代物のバイクが現れた
「よう店主バイクにはガソリン
俺には冷えたビールをくれないか?」
そう言って男はヘラヘラしつつ
ポケットから金を出した
こんな砂漠しかない場所には
なかなか客は来やしない
オヤジにとっては
久しぶりに良い客が来たって感じだ
ガソリンとビールを用意してやったあと
「砂漠を抜けるのか?
だったら沢山水を買ってけよ」
そう言ってバイクを見て
一瞬考える
「このバイクえらく燃費悪そうだが
砂漠を抜けるまでにガス欠になっちまうぞ?」
一気にビールを飲み干したあと答える
「俺も難しいところだとは思ってるよ
だけどコイツで砂漠を越えるって決めたんだ」
眉間にシワをよせたオヤジが
きつい口調で言う
「こんなオンボロじゃ
途中で壊れるかもしれねえぞ!
砂漠の真ん中で死にてえのか!」
バイクに向かう男は黙って腰を軽く叩き
裾をめくってピストルを見せると
こめかみに人差し指を突き立て舌を出して
おどけて見せた
「わかってる
わかってるけどコイツで行くと決めたんだよ
ダメならコイツで最後を迎えるさ」
そう言うとヘラヘラ笑いながら
走り出す準備に取りかかる
「ちょっとだけ待ってろ!」
呆れたオヤジは店の中から
2つの水筒を持ってきた
「1つはお前の分で冷たい水だ
死ぬ前にはせめて喉の乾きを潤しな
もう1つはオンボロの分
ガス欠になったら飲ませてやれ」
そう言ってバイクに載せた荷物に無理矢理
水筒をねじ込んだ
一瞬の静けさを感じたあと
バイクのエンジンは目覚め周りには爆音が響く
しかめっ面のオヤジを見ながら
男は笑顔で何か言うが音がうるさくて聞こえない
「あ?聞こえねえよ!」
聞き直そうとした瞬間
バイクは走り出しハイウェイを猛スピードで加速して
小さくなって消えてしまった
残されたオヤジは
笑顔を信じて見送ることしか出来なかった




