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女王と異能者の愛の狂想曲  作者: ましろ
五章 白いハトは空を舞う
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【4】

 唇に、柔らかくて温かい感触が触れた。

 その一瞬の出来事に、私の頭は真っ白になる。何も考えられないとは、このことを言うのかもしれない。そうして、私が思考を停止している間に、その感触が離れていって――かと思ったら、またその感触が触れてきた。

 え?

 何?

 そうして、また離れていって――志成と視線があった。志成はどこか照れくさそうに、視線をさまよわせて、でも、はにかんだように笑った。

 私はそ、っと指先で唇に触れる。

 まだ、あの感触が残っているようだった。あの柔らかで、温かくて、くすぐったくて、安心するような――あの感触。

 ――キス、された?

 理解した瞬間。まるで爆発したかのように顔が熱くなった。そして、停止していた思考が一気に駆け巡り、もう頭の中がごちゃごちゃで何が何だかわからない状況だった。


「し、志成!?」


 初めて、キスをされた。もう一つ告白すれば、人生で初めてのキスだ。前に付き合っていた彼は、私のことを〝遊び〟という感覚だったので、キスをすることもなかった。そして、志成と恋人同士になっていた(つもり)の当時も、寂しさを紛らわすだけでキスなんてしたことがなかった。

 それなのに、どうして、今、キス!?


「詩」


 顔が熱い。触れられた唇も熱い。どうしていいかわからない私に、志成が囁く。


「詩、愛してるよ」


 ――愛している。

 その言葉で、私の熱は一気に冷えた気がした。それも瞬息に。


「違う!」


 私は全力で否定した。


「私たちの間にあるのは〝愛〟じゃない!」

「うん、そうだね」


 志成は、軽く頷いた。


「オレたちは間違ってたんだ。今、ようやく気付いたよ」


 志成が私を抱きしめてくる。久しぶりの腕の中で、私の体は不思議と弛緩する。体に、力が入らない。


「オレのことしか考えてない詩。詩しか考えていなかったオレ。オレたちは間違ってたんだ。このままじゃきっと、オレたちは永遠に恋人にはなれない。愛することはできないだろうね」


 私は身じろぎして、志成の顔を見上げようとする。でも、志成の腕はそれを許してくれなかった。


「オレは詩のことを見過ごしてきた。君がやっていることは間違いだと知っていたのに、教えることがなかった。注意したら詩がどこかへと行ってしまう様な気がしたから」


 その言葉を、私は黙って聞いているしかなかった。


「詩もオレを愛してくれた。でも、詩の愛し方は、違った。与えるだけの〝愛〟は〝愛〟じゃない」


 私は思い出す。かつて恋人たちの風景を見て、感じた違和感。それは私たちの愛し方――私の愛し方が違ったということ。私はそれを直感的に感じ取っていた。でも、私はその正体を見つけずにいた。


「それに詩の愛し方はダメなんだ。詩の愛し方は人を傷つけて、自分を傷つける。詩、気付いてないだろ? 詩は『化け物』の戦いでも率先して戦った。修業の時だって、自分の身に危険が迫っているっていうのにオレのところへと来ようとした。それに今もそうだ。詩、ボロボロなんだぞ?」


 ぎゅ、と抱きしめられた体が、志成の言葉に応えるようにずきりと痛んだ。


「オレが怒っても詩はそれに気づかないし。そのたびにオレがどれだけハラハラしたか……そういうオレも、そんな詩に甘えてたのが悪いんだけどな」


 志成が苦笑を漏らす。私は力の抜けた体を志成に預けた。

 志成が怒っていた場面を思い出す。そう言われれば確かに、私自身危険なことをしていたかもしれない。でも、私はそんなことはどうでもよかった。


「私は……」


 気づけば、ぽつり、と呟いていた。


「私は志成しかいないの。私たちの間に〝愛〟がないことを知っていたから、恋人になろうとしたの」


 そう、私がしていたのは無理に〝愛〟と思われるのを押し付けていただけのことだった。


「うん、君の愛は、愛じゃない」


 そうして、私はようやく知った。

 私はただ、


「私はただ志成と寄り添って、笑いあいたかった。それだけなのに――……」


 どうして、こんなことになってしまったのだろう。

 私は間違っていたのかもしれない。

 私の想いに、他人を巻き込むべきことじゃないのに。でも、私はそれこそどんな手段でも志成と隣りあっていたかった。それが私と彼の間に決定的な溝ができてしまうのにもわからずに、ただ求めてしまったから。

 だって、もう一人は嫌だから。

 ぽん、と優しく頭を撫でられる。温かくて、優しいその手に、私は涙が出そうになる。

 ふと、『化け物』たちの咆哮がとどろいた。

 戦意を失った私を許さないかのように雄叫びを上げて、私たちへと押し寄せてくる。


「詩」


 それに気づいているのか、いないのか、志成が私の名前を呼んだ。


「詩は詩のままでいいよ。他人とか、オレとか関係なく、素のままの詩でいい。詩が間違ったことをした時はオレが助けてあげる。もちろん、オレが間違った時は、詩が叱って?」


 志成は真摯な眼差しを向けて、そして、笑う。


「オレたちは――最強の恋人同士だ。ずっと、これからも」


 照れくさそうに笑う志成に、私も思わず笑ってしまう。変なの。あんなにも志成を手に入れたかったのに――、


「――はい」


 志成はとっくに隣にいてくれたじゃない。

 気づくのが、何でこんなにもいつも遅いのかしらね。

『化け物』たちが私たちへと牙や爪を向けて――ぱん、と弾けた。闇の『化け物』は純白の光輝くハトとなって一斉に空へと飛び立つ。

 その羽ばたきと、舞い落ちる美しい白い羽を見ながら、私はもう一度志成にキスをされた。



 そうして、私たちの間で起きていた事件は、幕を下ろした。




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