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女王と異能者の愛の狂想曲  作者: ましろ
五章 白いハトは空を舞う
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【3】

 私はもう何も考えられなくなっていた。

 志成に拒絶されて、本当に一人ぼっちになった今、私は何のために生きればいいのかしら? 一人になりたくない。志成を取り返したい。でも、志成からは拒絶されてしまった。

 ふと、想起し始めた過去に、私は頭を振った。


「いや! 私は、私は……!」


 独りになりたくない。

 そう呟いた時だった。

 ぴし、と頬に痛みが走った。触ればぬるっとしていて、赤い液体が指先についていた。血、だった。え、何で、血? 頭が働かない。どうして、血が? 私が顔を上げて周囲を見渡せば、陸仁が『風』を私に向けてはなっていた。それを志成が止めている。

 何があったというの?

 それだけじゃない。

 倒れていた人々が立ち上がり、お互いを傷つけあっていた。そして、その一部が私に視線を投げている。焦点があっていないその目には、はっきりとした憎悪が浮かんでいた。

 なぜ、私がそんな目で見られないといけないの?

 わからない。

 わからないけど――むかつく。


「こいつらも何とかしてちょうだい!」


 闇の『化け物』たちが声にならない咆哮を上げた。そうして、私を睨み付ける人々へと襲いかかろうとした瞬間だった。その動きがぴたり、と止まる。そして、『化け物』たちが私へと振り返る。『化け物』に目というものはない。けれど、どうしてかしら? 私にははっきりと彼らが私を睨み付けているのがわかる。

 どうして、そんな目を私に向けるの?

 私は知らず一歩だけ後ろへとさがっていた。その一歩開いた距離を詰めるかのように、人々が、『化け物』が、私へと詰め寄る。

 どうして?

 どうして、私が憎悪を向けられなきゃいけないの? わからない。ただ私は志成と一緒にいたいだけなのに、どうして?


 ――詩はこんなにもみんなを傷つけているから。


 ふと、その言葉を思い出した。志成がさっき言っていた、言葉。私にとって、みんなとはどうでもいいことなのだけれど、どうしてか今、それを思い出してしまった。

 私は周囲を見渡す。

 みんながみんな、私を睨み付けていた。

〝傷つけている〟。

 私はこの人たちを傷つけているつもりは全くなかったのに。私には志成さえいればいいって思っていただけなのに。

 そう考えて、あぁ、と気付いた。

 私が志成だけを求めていたから、いけなかったというの?

 それの何がいけない? 違う。そういう考えだからなのね。私が志成だけしか見ていなかったから、多くの人が傷ついて、こんなにも私を憎んでいる。

 私が後退するたびに、まるで弾劾するかのように彼らが詰め寄ってくる。

 私には志成がいればいい。

 違う。それだから、みんなが傷ついて、私を殺そうとしている?

 でも、そんなのは関係ないじゃない。

 けど、その想いがみんなを傷つけているのだとしたら? それこそ、私を殺したいほどに。でも、私は、志成をあきらめたくない。志成さえいればいいのに。どうして、誰もわかってくれないの? 志成を手に入れるためなら何でもしてきたのに――だから、みんなに私は憎まれる? そして、殺される?

 わからない。

 わからない。

 わからない。

 ぐるぐると思考が回り続ける。でも、その思考が一向に定まらず、感情がまるでマーブル模様のようにぐんにゃりとした混沌状態に陥って。

 もう、なにがなんだかわからない。

 わからない。いたい。いたい。わたしはなんのためにたたかっているの? わからない。いたい。いたい。いたい。いたい――!

 喉の奥からこみ上げてきた感情を受け止めるように、私は口元を手で覆った。そして、喉から感情が吐き出される。温かい。金臭い。粘ついて、とろりと流れる。

 血、だった。

 それが吐血だと気付いたのは、何度も何度も血を吐いてからだった。

 何で、私がこんな目に?

 わからない。

 痛い。

 痛い。

 他人?

 そんなこと、どうだっていいじゃない!

 私が欲しいのは、志成だけだから!


「殺して。殺して! 早く! 全部、壊して!!」


 その声に、闇の『化け物』たちが雄叫びを上げた。



 一体、何が起こっているのかわからなかった。

 視界が塞がれているけれど、詩に異常事態が起こってるのが分かった。そうして、遠くで再び活発化した『化け物』たちが陸仁さんを襲っている。

 オレはどうするべきだ?

 やることは決まっている。だって、オレは詩の恋人で、詩を助けるのは他でもないオレの役目なんだから。

 オレはスマホの明かりを点ける。自分の『影』を生み出して、その『影』でスマホを持った。そうして周囲を照らせば、『化け物』と戦っている陸仁さんの姿がある。そして、暴れている人々と『化け物』たち。

 中央には、詩の姿があった。

 詩はまるで舞台上にいるかのように堂々とそこに立っている。けれど、その姿はボロボロだった。口元と襟元は血で汚れていて、目は虚ろ。体全体で息をしていて、今にも倒れそうなくらいに顔面蒼白だった。

 立っているのが不思議なくらいに。


「詩……」


 詩は息も荒く、ただ、立っている。その目がオレやみんなを映しているのかはわからない。

 オレはその詩の姿を見て、胸が痛んだ。

 どうして、こんなことになってしまったんだろう。

 そう思わずにはいられない。

 オレは詩へと近づく。詩がオレに気付いて、視線をこっちへと向けて、見開いた。


「詩……」


 詩が逃げようとしたのか身じろぎした瞬間に、『影』で拘束した。動けずにいる詩は怯えたように、オレを見つめる。

『異能者』が捕まったことで危険を察知したのか、『化け物』たちが一斉に駆け寄ってきた。まるで闇の波だった。今にも呑まれそうになるけれど、オレは詩へと手を伸ばした。

 スマホの明かりをスポットライトに見立てて、オレは詩へと顔を寄せて。



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