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女王と異能者の愛の狂想曲  作者: ましろ
五章 白いハトは空を舞う
23/26

【2】

 

「陸仁を殺してちょうだい。一刻も早く」


 その命令に闇の『化け物』たちが、暗闇に包まれたモール内を駆け巡っていく。私の目には視えないけれど、『化け物』たちが動いていく感覚が自分の感覚として伝わってくる。

 早く。

 早く。

 志成が私の元から離れて行ってしまうその前に。早く。

 その想いが『化け物』たちに伝わったのか、『化け物』たちの動きが活発になる。私は目を閉じて、ひたすらに『化け物』の感覚を追った。


「詩!!」


 突然、私の耳に愛しい人の声が届いた。


「志成……?」


 私は声がする方向へと顔を向ける。『化け物』の視界が志成を捕らえたようで、『化け物』の視界と繋がっている私の目に志成の姿を捕らえた。


「志成!」


 喜びで思わず声を上げてしまうも、志成の姿を見て私の喜びは消沈していった。


「……志成?」


 志成の目にはなぜか戦意が宿っている。そのこぶしを握り締めて、私を睨み付けていた。

 その隣には陸仁の姿もある。

 どうして、二人がそこに。

 違うわ。どうして、二人並んでいるのかしら?


「詩、止めろ! 詩は間違ってる!!」


 間違っている?

 私たちの〝関係〟のことを言っているのかしら? それならそれで当たっているのだけれど、志成は違うことを言いたいようだった。


「詩、もう『異能』を使うのを止めるんだ!」


 そっちの話ね。勘違いしていた自分に笑って。


「どうして? 私は志成を取り返すのよ? 取り返すためなら『異能』だって、何でも利用するわ」

「詩、オレは詩と戦いたくない」

「それは私もよ? それに私たちは戦い理由がないもの。だから、戦わなくていいじゃない」

「違う! 違うんだ、詩! このままだと詩は、一人ぼっちになるんだ!」

「一人ぼっち? そんなの前からよ? 今もまだ私は一人ぼっちなの。ようやく志成が隣に立ってくれたのに、志成が陸仁のせいでいなくなってしまう。そんなの、私、許せないわ。だから、陸仁を倒して私は志成と〝恋人〟になるの」

「詩――ダメなんだ」


 志成が、首を横に振る。とても残念そうな表情で。どうしてそんな表情をするの?


「このままじゃ、オレと詩は恋人になれない」

「――え?」

「だって、君はみんなを傷つけているから。だから、オレのことしか考えていない君を、オレは愛することできないし、きっと、君もオレを愛することができない」


 奈落の底に突き落とされた気分って、こんな感じなのかしら。目の前が真っ暗になって、もう方向感覚も、平衡感覚も狂っている。まともに思考が働かない。心臓が、大きな音を立てて打っている。

 今、志成は何て言ったの?

 私たちはもう一緒になれないっていうの?

 それを、志成が言ったの?


「詩、オレは――……」

「私は志成さえいてくれればよかった」

「詩……?」

「それなのに、志成は――私のことがいらないのね」

「詩!? 違う!!」

「うるさい!!」


 私の声が、響き渡る。その声が反響しあって、静まり返るモールの中に響き渡る。その声に反応したのか『化け物』たちがうごめき始めた。


「うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!!」


 なんでこんなことになったのかしら?

 偽物からでも本物になれると信じて頑張ってきたというのに。

 それなのに、どこで歯車が狂ってしまった?

 陸仁だ。

 陸仁がいたから、私たちは狂った。

 そう陸仁がいたから。

 陸仁が……っ!

 陸仁のせいで――!


「殺して」


 私は呟く。


「あいつを、殺して! 全部、壊して!!」


 志成に捨てられた私にはもう生きる意味はない。でも、このむしゃくしゃした感情を連れたまま、絶望の淵に立っているのは嫌だった。せめて、偽物の幸せを奪ったすべてに、私は復讐したかった。その荒れ狂う思いのままに、『化け物』たちが駆けだした。



 オレの言葉は、詩に届かなかった。

 詩はオレの言葉をすべて拒否して、その顔に初めて出会った時のあの絶望に染まった表情を浮かべていた。


「詩!! 聞いて!!」


 詩からの答えはない。

 真っ暗闇の中で、詩の姿が見えないことにとても不安を感じた。

 今、どういう表情をしているのだろう? どんな気持ちなんだろう? 最後まで届かなったオレの言葉は中途半端に途切れていて、詩には届いていない。きっと、勘違いしたはずだ。

 誤解を解かないといけないのに。


「志成!『化け物』が動き始めたぞ!!」


 陸仁さんの忠告で、オレはは、と周囲にうごめく闇の『化け物』の気配を感じ取った。いつもは無そのものの気配は、今は殺気立っていた。この殺気は『化け物』のものじゃなくて、もしかしたら詩の殺意なのかもしれない。

 オレは何とかその場から距離を取った。

 その時だった。


「ぎゃ」

「ひっ」


 小さな悲鳴が耳元で聞こえた。オレと陸仁さんのものじゃない。何だ?


「詩、すぐにやめろ!」


 わけが分からないオレは切羽詰まった陸仁さんの声が聞こえた。


「お前が心を抜いた人間たちが、暴れて傷つけあってる! このままじゃ、全員、死ぬぞ!」


 詩の答えはなかった。

 その代わりに、オレは小さな悲鳴の正体を知って、ぞっとした。

 心を抜いた人間が暴れている。傷つけあっている。ということはお互いに戦いあっているのかもしれない。

 見ず知らずの他人か、それとも、隣にいた愛しい人なのか。

 そう考えただけで、恐怖が襲ってきた。


「詩! 今ならまだ間に合う! 早く『異能』を解け!」


 今、オレたちの周囲ではどうなっているんだろう? 陸仁さんの切迫した声が、現状を物語っているように見えた。相当危険な状況だと、告げていた。

 心を抜かれた人間たちがお互いを傷つけあい、さらには抜かれた心が『化け物』として暴れ回っている。

 このままでは詩がさらに憎まれてしまう。

 本当に、殺されてしまうかもしれない。


「詩! やめろ!」


 オレも詩に叫んだけれど、詩には届かなかった。


「こうなったら、やるしかねぇな」


 陸仁さんの苦々しい声が聞こえてきた。


「陸仁さん?」


 嫌な予感しかしなかったオレは、陸仁さんの方へと顔を向ける。でも、そこに陸仁さんがいるかどうかはわからなかった。


「志成、悪いがこのままだと本当に死人が出る」

「……」

「俺は詩を倒す」


 倒す、ということは傷つける、ということだろうか? それとも殺す、ということ? どちらにせよ、詩は陸仁さんによって傷つけられる。


「陸仁さん、それだけは許さない」


『異能』の手練れである陸仁さんが詩を襲えば、詩はひとたまりもないはずだ。ケガだって負うかもしれない。そんなのは、絶対に許さない。


「志成、どけ」

「オレは絶対に、詩を守る」



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