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女王と異能者の愛の狂想曲  作者: ましろ
三章 かくて覚醒せし者は
12/26

【1】

 三章 かくて覚醒せし者は


 それはオレがまだ幼いころの話だ。

 オレの幼少時は、痛い記憶しかなった。

 オレは両親に虐待されていた。殴られたり、タバコの火を押し付けられたり、ご飯も抜きにされたこともあった。今思えば、かなり理不尽な暴力を振るわれていた。でも、当時のオレはどんなに殴られようと蹴られようと、親の愛を求め続けて良い子であろうと子供ながらに必死になっていたのを思い出す。

 でも、そんなある日のことだった。

 オレの体に不思議な『力』が宿った。本当にいつの間にかだった。幼かったオレはその力が何なのかわからなくて。でも相談する相手もいなくて――本当は両親に尋ねればよかったんだろうけれど怒られたくないから黙っていた――とりあえず内緒にしておいた。体の不調もなく、周囲にも影響がなかったから、次第に『力』について考えることはなくなっていた。

 そして、事件が起こる。

 その時の記憶は覚えていない。ただ、気付いたら両親が血まみれで横たわっていて、救急車や警察が来て、てんやわんやになり、いつの間にかオレは施設に入れられていた。

 自分の体に宿った不思議な『力』のせいとも知らないで、オレはまた事件に巻き込まれた。

 オレが施設に入れられて数か月して、施設が火事になった。その時の記憶もおぼろげで、やっぱり気づけば今度は親戚に預けられていた。

 その時、オレはようやく気付いた。

 両親を半殺しにしたのも、施設を火事にしたのも、この『力』のせいだということに。自分の中に眠っている『これ』のせいだということに。

 親戚は恐ろしい『力』を持っているオレのことを温かく迎え入れてくれた。

 オレは恐ろしくなった。

 また力が暴れてこの人たちのことを殺してしまうんじゃないか、ということに。だからオレは独りで必死になって戦った。力が暴れないように制御して、この力を抱えながら生きていく術を一人で必死になって探していた。

 でも、その術がわからなかった。

 何しろ、その『力』を持っているのはオレしかいない。オレが持っているこの『力』に対する恐怖も不安も誰も理解してくれない。共有してくれない。本当に、一人だった。

 オレは絶望していた。

 これから先一人でこの『力』とともに生きていくことに。

 誰にもこの孤独な戦いを知られずに生きていくことに。

 世界にただ一人という孤独を抱えて生きていくことに。

 けれど――、


「……だれ?」


 そんな時に、一人の女の子と出会ったんだ。



   * * *



 詩はあんなに血だらけだったけれど、軽傷ですんだ。血が流れていたのは切り傷が多かったからだった。それでも命に別状はなく、それどころか、五階から三階まで落ちたというのにそれだけですんだのが奇跡に近いということだった。

 そして、オレの目。

 何もかもが終わった今日の夜。時間で言えばもう翌日になっている深夜。オレの目はようやく光を取り戻した。オレが失明したのは、オレが『影』を使った『代償』らしい。今回は力の暴発で今まで以上に『異能』を使用したため、代償が支払われた可能性が高いということ。オレも初めて失明したから慌てたけれど、すぐに治ってしまった。それは本当に少しだけ力を使い過ぎた結果だ。もし、これ以上の『異能』を使う日が来たなら、失明する時間はもっと長いだろうと言われた。

 それはきっとショックなことなんだろう。でも、オレはあまりショックには感じられなかった。それよりもショックだったのは。

 オレが詩を攻撃しようとしてしまったこと。

 詩は気絶していたからきっと気づいていないだろうけれど、もし、そのことが知られでもしたらオレはきっと詩に嫌われる。それは、嫌だった。

 オレは詩さえいればいい。それなのに、オレは傷つけようとしてしまった。そのことがあまりにもショックでオレの目に視力が戻っても、オレはずっと詩を抱きしめたまま座り込んでいた。

 陸仁さんはそんなオレの姿を見て、メモ帳のようなものを取り出すとそこにさらさらと何かを書いて、そのメモの一枚をオレに差し出してきた。


『これはオレの連絡先だ。もし、何かあったら電話しろ』


 そういうと、どこかへと行ってしまった。

 きっと、一人にしてくれたんだと思う。混乱しているオレを落ち着かせるために。

 オレはその後、詩を抱き上げて、いつもオレたちが過ごしている部屋へと向かった。そこは五階の一番端の大きな部屋。いわゆるスイートルームと呼ばれる部屋だ。そこだけはオレたちが掃除して、いろんなものを集めて、オレたちの秘密の部屋としてこうして詩と過ごしていた。

 そこには簡素なベッドがある。ベッド自体はここのもので、腐ってなかったから汚れを落としたらとても綺麗になった。そこにふかふかの布団を敷いて、ベッドやソファとして使っている。

 そこへと詩を寝かせた。

 オレは絨毯が敷かれた床に座り込んで、色とりどりのろうそくに火をつける。ほんのりと明るくなった部屋でオレはベッドを背中にして、大きく息を吐いた。


「ダメだ……」


 何がダメなのか、と問われれば、答えは簡単だった。

 このままじゃ詩を傷つけてしまう。

 今日は陸仁さんがいたから、詩は無事でいたけれど、もしいなかったら――。想像するだけでも震えが起きる。オレは立ち上がって、ベッドの端に腰を掛けた。わずかに軋むベッドに、詩が目覚める気配がない。

 ――詩。

 詩は起きたらどうするのだろう?

 オレたちは結果として、陸仁さん殺害計画は失敗に終わってしまった。今となってはオレはその作戦に加担する気がない――加担できない。そこに詩が傷つく可能性があるのなら。それなら、詩はどうするのだろう? あんなにも陸仁さんを嫌っているからオレが詩の計画に加担しなくても、詩だけでも殺害を実行してしまう気がする。

 でも、今は、――それだけはやめてほしかった。


「詩、ごめん」


 このまま詩を傷つけてしまうなら。喪う可能性があるのなら。オレは――。

 オレは陸仁さんから手渡されたメモを取り出して、そこへと電話をかける。すぐに陸仁さんが出て、少し驚いた反応が返ってきた。


「陸仁さん、オレ……」


 怒られるし、拒絶されるかと思った。

 でも、意外なことに陸仁さんは怒りも拒絶もしなかった。ただ悩んだそぶりを見せて、すぐに了承を出してくれた。受け入れてくれたことに安堵しつつ、オレは電話を切る。


「志成……?」


 包帯と絆創膏だらけの詩が、うっすらと目を開けた。


「おはよう、詩」

「……うん、おはよう」


 舌足らずで、まだ寝ぼけている詩はまるで小さな子供のようで可愛い。あの女王様のような詩も可愛いけれど、今の詩も可愛い。結局、詩は可愛いんだ。


「詩、気分はどう?」

「……眠いわ」

「もう少し寝る?」

「起き、たい」

「起きたいの? 無理して起きなくていいんだよ?」

「ううん。起きる……」


 それでも詩の目はとろん、としていた。意識だってまだ夢の中を泳いでいるはずだ。


「詩、まだ夜だし、明日は日曜だから、ゆっくり寝てていいんだよ?」


 そう促せば詩はきっと寝るはずだ。彼女だって眠いし、きっと、疲れているから。


「起きる。起きたいの……」


 珍しく詩が駄々をこねた。オレが内心でどうしたんだろう、と首を傾げながらも、手を伸ばしてくる詩を支えて、上体を起こしてあげた。ぽすん、とオレの腕の中におさまる詩の体は小柄で華奢だ。よくこんな体で戦えていたと思う。そして、オレの『影』が詩を襲っていたら、この体は――と思うと、怖くて仕方がなかった。


「志成……」


 詩が弱々しく、オレの名前を呼んだ。その様子に変な違和感を覚えながらも、オレは返事をした。


「何?」

「私たち、ずっと一緒よね?」

「当たり前だろ?」


 今さら、何を言っているんだろう? でも、少なからず、ドキリ、とした。今の詩は寝ぼけている。起きたときにオレたちの計画が失敗し、頓挫したことを知ったとき、彼女はどうするのだろう?

 それはわからない。

 でも、どんなことがあろうとオレは詩と一緒にいるつもりだった。詩がどんなことをしようと、どんな決意をしようと。だって、オレたちは恋人同士なのだから。


「そうよね。うん、そうよね」


 詩は頷く。

 でも、詩の様子はとても弱々しいまま。オレは彼女の背中に手を置いて、なだめるようにぽんぽんと叩いた。そのリズムに詩が少しだけ強く縋りついてきた。


「私たち、ずっと、一緒よ……」


 そんな当たり前のことを呟きながら。




『オレに『異能者』として生きる術を教えてください』


 もう夜が更けて、そろそろ夜明けへと向かう時間帯に、その電話がかかってきた。

 志成の声色はとても真剣だった。ともすれば、とても必死で、まるで懇願するかのようだった。

 まぁ、それもそうかもしれないけどな。

 何しろ、志成にとってきっと今回の件は、ひどく身に染みたはずだ。

『異能』とは恐ろしいものだ、ということに。

 暴発し周囲を巻き添えにする恐ろしさ。

 さらには大切な人が傍にいることへの恐怖。

 そうなる前に、本当なら志成を『隠れ場所』へと連れていきたかったのだけれど、意外と手強くて、誤算で言うなら志成の彼女が強かったことだった。真っ直ぐで、自分の意志に従順で。

 志成を連れて行こうとする俺は、完全に詩に敵視されたけどな。

 二人を引き離せることができるなら、引き離したかった。

 それができなかったのは、あの二人の間にある絆のようなものがとても強固だったせいだった。お互いを強く求めている。それは〝愛〟とかそういう甘いものじゃなく、切実な何かが垣間見えた。それが何なのかは、俺にはわからない。俺が介入することじゃないから、放っておいているけれど。


「本当なら、今の時点で志成を無理やり連れて行った方がいいんだけどな……」


 それが一番手っ取り早く、何の危険もなく終わる。

 でも、それができなかった。

 志成が『教えてください』と言った、あの声と、声色を聞いて、無理に連れていく方針は簡単に折れてしまった。

 志成が普段、自信に満ち溢れていて勝気なのを知っているからこそ、あんなにも悄然としてしまった志成に言えるわけがない。

 これほど、悩んだことがあっただろうか?

『異能者』を連れていくか、連れて行かないか、ということに。

 でも、この状態で放っておくわけにはいかない。

 志成も、そして、傷ついた詩も。

 少しだけなら、いいじゃないか、と俺自身が言う。少しだけ『修業』して、二人の精神が安定したころ連れていけばいいんじゃないか、と。

 それは〝逃げ〟だろう。

 問題を先送りにしただけだ。

 それに二人の精神が安定してしまえば、きっとまた反抗されるのは目に見えている。でも、それはそれでいい。二人が元気になってくれれば、それで。そうしたら、また違う方法で志成を保護すればいいだけなんだ。


「それよりも」


 志成たちの問題を、俺はいったん置いておいて、別のことを考えた。


「あの『化け物』みたいなやつ、何なんだ、本当に……」


 この町だけに現れる特別な『異能』の『化け物』なのかと推測を立てていた。もちろん、俺の仲間たちも。だから、深夜に町を徘徊した。けれど、俺が『化け物』に会うことはなかった。この町だけに現れる『化け物』という推測は、もしかしたらあの二人だけの前だけに『化け物』は現れるのではないかと変わった。それはそれで当たりなようで、でも、それがどうしてなのかはいまだにわかっていない。

 ――案の定というか――『化け物』に詩が襲われていたところを何とか助けたけれど……その数は多くなったらしい。これは志成からかいつまんで聞いた程度だから、それは定かではない。どうして多くなったのだろう、と首を傾げて、さらに『化け物』たちは〝強くなった〟かもしれない、と志成は言っていた。

 俺がこの町に来て数日。そう変わったことがないのに、『化け物』が変化を――進化を遂げているように見えた。どうしてそうなったのかはわからない。『化け物』を操る『異能者』に何かしら変化があったのかもしれないし、また別の要因かもしれない。とりあえず明日、志成に訊いてみて、手がかりを得よう。

 そして、最後の問題である『詩』。


「あいつこそ、どうするかな……」


 敵視されてしまっている今、志成の修業をしてもきっと邪魔をするに違いない。もしくは俺を殺しに来るかもしれない。殺しも本気で実行するから恐ろしい女の子だから、「来るわけがないだろ」という楽観はできない。むしろ逆で、ほぼ100%の確率で殺しにくるだろう。


「あー……、あいつら、本当に何なんだよ?」


 俺のボヤキは、夜の空気に溶け込んでいく。とりあえず、明日の詩の出方次第だ、と俺はもう寝ることにした。



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