目覚めるまでに
新学期を迎えた四月、とある女子高生が命を落とした。彼女には最近付き合い始めた彼氏がいて、その事が彼女に生への執着心を与えた。その生への執着心が彼女の運命を少しだけ変えたのだった。彼女の名前は優希 望。彼女は交通事故で命を落とした不幸な女子高生。しかし、彼女は事故直後不思議な言葉を聞いていた。
「残る時間は、三日間。その間に望みを叶える事だ。叶える事が出来れば、お前は二度目の生を手に入れるだろう。最後のチャンスだ。求めるかは自由」
意識は全くないのに、望は求めていた。
望が目を覚ました時、そこは自分のベットの上だった。ふと携帯の日付を見る。今日は事故の次の日。望は驚きを隠せなかった。死んだはずの自分が、こうして目を覚ましたのだから。と同時に、こうも考えた。実は死んでなどいなくて、あれは単なる夢だったのではないか。しかし、望の考えはすぐに消し去られた。部屋から出ると、母親の泣く声が聞こえてきたからだ。そんな母親に望は話しかけようとしたのだが、どんなに大声を出しても返答は無かった。母親の手には望の制服が握られていた。望はその時自分が死んでいることに気付いたのだった。
一方、彼氏の藤原幹夫は学校への道を歩いていた。彼はまだ望が死んだ事を知らないでいた。暢気に鼻歌を歌いながら、幹夫は学校までの長い道を歩いている。幹夫と望は同じ学校の違うクラスだった。いつもの様に幹夫は歩き、学校に着いた幹夫は、あることに気付いた。生徒が一人もいないのだ。それは今日から三日間の連休だからで、幹夫はその事を忘れて登校してしまったのだ。仕方なく踵を反して歩き出す幹夫の視線の先には望の姿があった。望は走っていた。そして幹夫を見つけると、いきなり
「私の事誰だかわかる?」
と、理解しにくい事を聞いた
「うぁっ!驚かすなよ。望だろ?」
幹夫は持ち前の楽観的思考で軽く答えた。その時望は、やっと話せる人が見つかり、その人が自分の彼氏であることに緊張の糸が緩んだ。結局、望が話すことが出来るのは、幹夫だけで、相変わらず母親は泣き続けていた。望は今までのいきさつを幹夫に話して聞かせた。しかし幹夫は望の言葉を信じようとしなかった。今、最も信頼出来る相手に否定された事が望には、この上なく辛かった。その時だった。望の頬を涙が流れていた。望の涙を見た幹夫は、望の必死さにようやく気付いた。そして、望の話しを信じずにはいられなくなった幹夫がいた。
「おいおい、ちょっと待てよ。望が死んでる!?」
「そう。あたしは昨日事故に遭って死んでるの。今、頼れるのは幹夫だけなの…」
望は流れる涙を拭う事も出来なかった。その時だ。望の意識が薄れていったのだ。崩れ落ちる望の華奢な身体を支えた幹夫の手は小刻みに震えていた。自分が何も知らずにいた事。力になる方法が分からない事。何より、すぐに望の言葉を信じることが出来なかった事。沢山の感情が幹夫の心を締め付けた。
所変わってここは、学校近くの公園。望と幹夫は、ブランコに座っている。普通なら明るい二人の間も今は暗く重い。
「あたし、後三日で本当に死ぬんだと思う。だって生き返る方法がないんだから…」
先にこの空気を破ったのは望だった。
「そんな事言うなよ。絶対もとに戻る方法が…」
最後まで言えない自分がいた。その言葉を実際に実現する自信が無かったからだ。
「三日だもんね。最後の時まで幹夫と居たいな。ねぇ、どこかに遊びに行こ!」
明るく言ってはいるものの、無理に作った笑顔には、淋しさが感じられた。それからはとても早かった。海に行って、遊園地に行って、映画も見た。そして三日目は来てしまった。二人は学校近くのあの公園にいた。ここは二人が付き合い始めた場所で、二人にとって特別な場所だった。あの時と同じようにブランコに座って。
「楽しい時間は早いね」
また望から口を開いた。
「そうだな」
息が詰まりそうで、一言で返答を返すのがやっとだった。
「あたし、この三日間すっごく楽しかった。だから、あたしがいなくなって、あたしの事忘れても、この三日間を忘れないでね」
泣きそうだった。涙が溢れそうだった。今までで一番望を愛おしく思った。
「俺は、いつまでも望を忘れたりしないよ。いつまでも」
「うん。すごく嬉しい。でも、何でだろうね。何だか凄く眠いの。」
そう言って望の目が閉じかけた時。二人の唇が重なっていた。
望はそのまま目を閉じた。二人の初めてのキスだった。不思議と幹夫の意識もそこで途絶えしまった。
「うぁ!?」
布団から跳び起きたのは幹夫だ。
携帯で時間を見ると、日付は望にあの話しを聞かされた日だ。全ては夢だったのだろうか…幹夫は普段よりも早く支度をして、海に行くことにした。今日から三連休だからだ。あの出来事を忘れていない幹夫は無性に海を見たくなったのだ。そして連休は過ぎ、学校がまた始まった。望はいたっていつもと変わらずに学校に来ていた。幹夫はやっぱりあの出来事は夢だったのだと思うことにした。
そして、今からちょうど一年後。幹夫はあの出来事を忘れていなかった
二人はあの公園を歩いていた。そして……
「ねぇ、あたし達ここで初めてのキスしたんだよね!ちゃんと覚えてる?忘れたりしたら嫌だからね!」
夢じゃなかった。あのキスも、涙があふそうだった望の言葉も、全てが現実だった。あの三日間はなんだったんだろう。少し考えてから、あの三日間の出来事を望に話してみようと思った。だってあの三日間は、お互いの大切さを実感できた時間だったのだから。
小説としての完成度が低く、小説と呼んでいいのか分かりませんが、そんな私の作品にお付き合いいただき有り難うございました。