私の可愛い幼馴染み
私の幼馴染みのれいちゃんは、お人形さんみたいにとても可愛い子だ。
初めてれいちゃんにあった私は、れいちゃんのことを動く人形だと本気で思っていた。それはすぐに間違いだと気付いたけど。
れいちゃんのお父さんはロシアの人で、れいちゃんはハーフだ。お父さんの血を濃く受け継いだれいちゃんは、金髪碧眼の色白美人さんだ。
人見知りで口の悪いれいちゃんだけど、私はれいちゃんが大好きだ。
だから、私は誰になんと言われても、れいちゃんの傍にいる。
勘違いされやすいけれど、れいちゃんはとても優しい子だ。
そんなれいちゃんは最近、いじめに遭っている。
「美人だからって調子に乗っている」とか、「性格悪い」とか、根も葉もない悪口ばかり言われている。
私はれいちゃんと違うクラスだから、れいちゃんを直接庇ってあげることはできない。
れいちゃんのクラスに乗り込んでやろうかと思ったけど、それで火に油を注ぐ結果になったら嫌だし、なによりれいちゃんに止められたからやめた。
私にできることは、れいちゃんの傍にいてあげることだけ。
それで私がいじめられてもそれは構わない。私には、れいちゃんがいればそれでいいのだ。
いじめの発端はなんだったのだろう。
たぶん、くだらないことだったのだと思う。
れいちゃんは人見知りだから、友達作りが上手にできなくて、ちょっと孤立していた。
金髪碧眼だし、なにより美人だから目立つ。
それが気に食わないクラスの女子に目をつけられた。
ただ、それだけでいじめが始まったのだ。
本当にくだらない。
まあ、れいちゃんもれいちゃんで、言われっぱなしでいられる性格じゃないから、きついことを言って相手を余計に怒らせてしまったのだろうけど。
「れいちゃん、ジャージ持ってきたよ」
「琶奈ありがと」
れいちゃんは、ハスキーな声で答えた。れいちゃんは見かけによらずハスキーボイスなのだ。
私はトイレにいるれいちゃんに声を掛け、少し開いたトイレのドアの間からジャージを渡す。
れいちゃんは着替えを見られるのを嫌がる。
絶対一人で着替えるのだ。女の子同士なのだし、別にそこまで嫌がらなくても、と思う。
でも嫌なんだろうな。れいちゃんが嫌がることはしたくない。
私はれいちゃんが着替え終わるのを大人しく待つ。
ガサゴソと音がする。
れいちゃんは先ほど、水をぶっ掛けられてしまった。だからジャージに着替えることにしたのだ。
今は夏だから風邪をひく心配はあまりないのが救いだ。
いや、夏だからこそやれたことなのかもしれないけど。
トイレのドアをちらりと見ると、さっきまで閉まっていたはずのドアが開いていた。
着替え終わったのかな、と中を覗くとれいちゃんがまだ着替えていた。
れいちゃんのほっそりとした白い肌が見えた。
あ、まずい。見てたのバレたら怒られる。
そう思ったのに、私はなぜだか目が逸らせなくて、れいちゃんを見つめた。
そこで私は違和感を感じる。
なにかが、足りない。なんだろう。なにが足りない気がする。
私の視線に気づいたのか、れいちゃんが私の方を振り向き、私とばっちり目が合った。
れいちゃんは大きい目をさらに大きく見開いて私を見て、そして意地悪く笑った。
ぞくり、と悪寒がした。なにか、嫌な予感がする。
「あーあ。見ちゃったんだ、琶奈?」
「れ、れいちゃん……ご、ごめ……」
「バレたか……まあ、そろそろ無理かとは思ってたけど」
意地悪な笑みを浮かべたれいちゃんを、私はただ呆然と見つめた。
れいちゃんの胸は、真っ平だったのだ。
私たちはもう中学生。いくらなんでも胸の膨らみが多少は出てくる頃なのだ。
なのに、れいちゃんの胸は水平。
つまり、れいちゃんは。
「お、男の子……?」
「そういうこと」
ニヤリ、とれいちゃんは笑う。
「これで、無理に琶奈の前で取り繕う必要はなくなったな。ちょっと気が楽になったわ」
「な、なんで女の子のフリなんてしてるの……?」
「あぁ。これ?父さんが特殊な仕事してて、その関係で俺もちょっと危ないんだよ。だから、女の子ってことにしてカモフラージュしてんの。わかった?」
「れいちゃんのお父さん……」
私はれいちゃんのお父さんを見たことが数えるほどしかない。
ただ、れいちゃんにそっくりな髪と瞳の色だったことだけは覚えている。
「あー、れいちゃんって言うの、やめてくんない?もうバレちゃったし、琶奈の前で女のフリする気ないから、ちゃん付けで呼ばれるの気持ちわりぃ」
「き、きもちわるい……」
私はショックだった。
親しみを込めてれいちゃんと呼んでいたのに、それを気持ち悪いと思っていたなんて。
女の子だと思っていた時は、どんなことを言われても私の可愛い幼馴染みだからと受け入れられたのに、男の子だとわかった途端、なんだか性格が悪く感じる。
あれ、れいちゃんってこんなに性格悪かったっけ?
「……じゃあ、なんて呼べばいいの?れいくん?」
「くん付けだと、おまえ、人前でうっかり『れいくん』って呼んじまうだろ。呼び捨てでいい」
「……性格悪い」
「はあ?なに今さら言ってんの?前からだろ。それより、呼び方、気を付けろよ」
「…………」
本当に、性格悪い。
私の可愛い、お人形さんみたいな幼馴染みはどこに行ってしまったの?
カムバック、私の可愛い幼馴染み!
れいちゃんこと、玲・篁・ベレゾフスキーは、横暴だ。
私の事をこき使う。
「おい、琶奈。パン買って来い」
「……自分で行ってきなよ」
「はあ?」
「……イッテキマス」
私はコンビニでれいちゃん……いや、玲の大好物であるメロンパンを購入する。
なんで私がこんなことしなきゃならないんだろう。
だけど、なぜか玲には逆らえない。
私は購入したメロンパンを玲に献上する。
玲はメロンパンを見て一言。
「今日はメロンパンの気分じゃねえ」
そして玲は私用に買ってきたチョコクロワッサンをぶんどって食べた。
ああ、私のクロワッサン!
理不尽だ。理不尽すぎる。
私の可愛い幼馴染みは鬼畜野郎になってしまったようだ。
「……男だってバラしてやる……」
「はっ。バラしたきゃバラせば?琶奈の身が危険になるかもしれないけどなぁ?」
そう言ってダークな笑みを玲は浮かべた。
可愛くない。まったくもって可愛くない。
ちょっとは慌てればいいのに。
私は恨みがましい目で玲を見つめながら、玲のために買ってきたメロンパンを食べた。
私には気になっていることがひとつある。
「ねえ、その髪って……」
「あぁ、これ?これは地毛だよ。母さんが俺に女装させるのにノリノリでさぁ……小さい頃から髪の毛切らせてもらえないんだよ」
「ああ。おばさん好きそうだもんね、女の子らしい格好とか」
「本当は女の子が欲しかったらしくてさ……この髪うぜえんだけどな」
そう言って玲はわしゃわしゃと髪を乱暴にかき乱した。
私は乱れた玲の髪を整えてあげる。
さらさらしていて、羨ましいくらいなのに。
「私は、好きだな。玲の髪。きれいだもの」
「……あっそ」
玲はどうでもよさそうにそっぽを向く。
私にされるがままにされている玲の頭を撫でた。
どうでもよさそうに答えておきながらも、耳が赤い。
知ってるよ。ぶっきらぼうに答えるのも照れ隠しで、本当は髪を褒められて嬉しい事。
玲は褒められると耳が赤くなるんだよ。気付いているかなあ?
あと、頭撫でられるの好き。
人に触られるが嫌いなくせに、頭を撫でられるのはいいの。
こうして私に大人しく頭を撫でられている玲は以前と変わらなく、可愛い。
「…なにニヤニヤ見てんだよ、気色わりぃ」
前言撤回。やっぱり可愛くない。
玲のいじめはまだ続いている。
ただ、いじめられている当の本人はまったく気にしていないようだ。
玲が気にしていなくても、私が気にする。
今では鬼畜野郎な玲だけど、私の大切な幼馴染みであることには変わりないのだ。
「ちょっと、調子乗ってるでしょ、あなた」
「……別に。調子になんて乗ってないけど?あなた、目が悪いんじゃない?」
「……!よくもぬけぬけと……!ちょっと周りの男子からチヤホヤされてるからっていい気にならないでよ!!」
「いい気になってなんかないし。男にチヤホヤされても嬉しくないし?」
「このっ……!」
玲と同じクラスの子に玲が囲まれているところに遭遇した私はため息をつきたくなった。
玲、もっと言い方があるでしょうが。
まあ、確かに玲は男だし、男子にチヤホヤされても嬉しくないよね。うん。
大丈夫そうだけど、私は玲を庇うために声を掛ける。
「それくらいにしておけば?」
「藤咲さん……!」
「先生たち来るかもよ?いいの?」
そう言うと彼女たちは慌てて走り去って行く。
それを見送った私は玲に声を掛ける。
「大丈夫?」
「ああ。チッ。女ってめんどくせー……」
「玲の態度も良くないんだよ?もっとオブラートに包んで言わないと」
「はぁ?どっちにしろ意味は同じじゃねえか。そんなめんどくせーことはしねえ」
「……あっそ」
「それに、もうすぐいなくなるしな」
「え?」
いなくなる?
「あれ?言ってなかったか?俺、引っ越すんだよ。ちょっと父さんのとこでやらなきゃならないことがあってな」
「……聞いてないよ」
「そうだったか?わりぃ」
玲はポリポリと頬を搔いた。
そしてニヤリと笑って私に言う。
「でも、良かったな?これでめんどくせー奴の相手しなくてすんで。俺のお守から解放されて嬉しいだろ?」
「…………」
「……おい。聞いてんのか?」
「………………くない」
「あ?」
「嬉しくないよ!玲のばか!」
「あ、おい……なに泣いて……」
「玲のばか!さっさとどっかに行っちゃえ!」
私はくるりと玲に背を向けて走る。
ばか。なんで、嬉しいだなんて私が思うと思ってるの?
何年、一緒にいると思ってるの。
ずっと一緒だった。遊ぶのも勉強するのもずっと一緒だった。
私が泣いた時には玲はおろおろしながらも泣き止むまでずっと傍にいてくれた。
玲は、私にとって大切な存在なのに。
「ばか……玲のばか……」
私が泣いて走り去ったのに、追いかけてもくれない。
玲が、いなくなる?
そんなの嫌だ。
男だってわかってからの玲は前にも増して横暴だし理不尽なことばかり言う鬼畜野郎だったけど、私が困っていると「しょうがねぇな」って言いながらも助けてくれた。
前と変わらず、優しくしてくれた。
いやだよ。どこにもいかないで。
玲がいないとだめなの。
玲がいない毎日なんて考えられない。
ねえ、お願い、いなくならないでよ。
そんな私の願いも虚しく、玲の引っ越しの日はやってきた。
あれから、私は一度も玲と口をきいていない。
私はその日、部屋に閉じこもった。
玲たちが引っ越しの挨拶にやってきたようだけど、私は出なかった。
玲と顔を合わせづらいのもあったけど、玲とさよならをしたくないというのが一番大きい。
私はただ部屋に籠って時が過ぎるのを待った。
ちょっとして、私の部屋のドアがノックされた。
私は返事をせずにぼんやりとしていると、お母さんが部屋の外から話しかけてきた。
「琶奈?玲ちゃんが、琶奈に挨拶をしたいって……」
「私はしたくないの!」
「琶奈……気持ちはわからなくもないけれど、最後なんだから、挨拶をしなさい」
「いや!」
さよならなんてしたくない。
お母さんがなにか色々言ってきたけど、私は無視した。
しばらくするとお母さんは諦めたようだ。
私はほっとしたような、後悔したような、複雑な気持ちになった。
それからちょっとして、控えめなノックの音が聞こえた。
私はまたお母さんだと思って、無視をする。
「琶奈?」
聞こえたのは、お母さんの声じゃなくて、玲の声だった。
久しぶりに聞いた玲の声。
私は嬉しいような、哀しいような、いろんな気持ちがごちゃまぜになって、返事ができなった。
「まだ、怒ってる?ごめん、あんなに琶奈が怒るとは思わなかったんだ……琶奈、会って話がしたいんだ。ドアを開けて?」
いつになく玲の口調は柔らかい。
きっとお母さんたちに聞かれてもいいように猫を被っているんだろうな。
私はドアを開けようかどうしようか悩んで、結局開けた。
玲に、会いたかったのだ。
玲はいつも通り、お人形さんみたいに可愛らしかった。
花柄のワンピースを着た玲は本当に人形みたい。
でも、玲の表情は複雑そうで、人らしい。
玲はそっと私の部屋に入って、部屋のドアを閉めた。
私と玲は二人きり。
いつも二人でいても会話が途切れることは滅多になかったし、途切れても気まずいとは思わなかった。
だけど、今は沈黙が気まずい。
私は俯いた。
「なあ、まだ、怒ってる?」
玲がぽつりと聞いてきた。
そんなの決まってる。
「……怒ってるよ」
「ごめん、俺が悪かった」
「……今さら、謝んないでよ。玲は、ずるいよ。なんで最後の日に謝ってくるの?ここで許さなかったら、私、きっと後悔する。わかってるでしょ?」
「……ごめん」
「だから、謝んないでよ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ……」
「知らないよ、そんなこと。玲が考えなきゃいけないことじゃん……」
私は俯いたまま言う。
本当は、もう怒ってないよ。
怒ってないけど、悲しいんだ。
玲がいなくなることが、とても悲しい。
でも、そんなこと素直に言えないから、私は怒っているふりをする。
「俺、琶奈の涙に昔から弱いんだ。知ってたか?」
「……知ってた」
「だから、泣くなよ」
「泣いてないもん……」
「泣いてるじゃねぇか」
「これは……あれだよ。心の汗ってやつだよ」
「あのな……」
私は自分が泣いていることに、玲に言われて気付く。
ああ、怒っているの嘘だって、玲にバレちゃったかな?。
もういいや。無理やりにでも笑って玲を見送ろう。最後は笑ってた方が良いに決まってる。
そう思って顔をあげようとしたとき、玲に優しく抱きしめられた。
私は戸惑う。
「泣くな」
「だから泣いてないってば……。離してよ、もう行かなきゃいけないんでしょ?」
「そんなことより、琶奈が泣いていることの方が俺には重大だ」
「……なんでそういうこと言うの……笑って見送ってあげようと思ったのに、そんなこと言われたら涙止まんなくなっちゃうよ……」
「無理に笑ってほしいとは思わねぇから、それでいい」
「……玲のばか……」
私は力なく玲の胸を叩く。
玲は優しく不器用な手で私の背中を撫でる。
「玲の馬鹿、人でなし、鬼畜……」
「………泣いてなかったら殴ってるぞ」
「鈍感、鬼、嫌い……」
「あのな、琶奈……」
「……行かないでよ…人でなしでも鬼畜でもいいから、このまま傍にいて……」
「…………琶奈」
「……ごめん。私、玲を困らせてるね……」
私はそっと玲から離れた。
困った表情を浮かべている玲を見て、私は笑った。
玲がこんな表情を浮かべているのは、珍しいから。
「もう、行って。私は大丈夫。ありがとう、玲」
「…………」
「さようなら、玲。どんな玲も、大好きだよ……」
私は今自分にできる精一杯の笑みを浮かべた。
だって、玲の中の私との最後の思い出が、私の泣き顔だったら嫌だから。
玲の中の私が笑顔であるように。
「琶奈」
玲が私の名を呼ぶ。
そして次の瞬間、私の頬に柔らかい何かが触れた。
「……れ、い……?」
私は驚いて玲を見つめる。
玲はにやりと笑って、私の横を通り抜けて私の部屋から出ていく。
私は少しの間ぼんやりとして、すぐにハッとなって窓から外を見る。
ちょうど、玲が家から出るところで、玲は私の部屋の方を振り向いて、口パクで何かを言っている。
だけど、私は玲がなんて言っているのかわからなかった。
そして玲たちが去って行くのを、私はただぼんやりと見つめた。
ああ、玲が、いなくなってしまった。
ぽっかりと、心に大きな穴が開いてしまったかのように、私の心は空洞になった気がした。
頬に手を当てると、余計に虚しくなる。
玲の馬鹿。さよならのキスなんて、いらなかったのに。
あれから、2年が経った。
私は全寮制のお嬢様学校に、両親の薦めで入学することになった。
そんなお金がどこにあるんだ、と思わなくもなかったが、お金は気にしなくていいと両親が言っていたので、気にするのをやめた。
別段行きたい高校もなかったし、違う世界を見てみるのもいいかもしれない、と思ったのだ。
そんな高校にも慣れて、今日から2年生だ。
普通、寮は2人で一部屋なのだが、私はちょうど端数になったようで、1年生の時は1人部屋だった。
だが、今日から1人転入生が入ってくるので、その子と一緒の部屋になるらしい。
1人部屋を満喫していたのに、少し残念だ。
転入生は、まだ来ていない。
早く出ないと始業式に遅れてしまうので、私は部屋をあとにした。
転入生はどうやら私のクラスに入ってくるようだ。
どんな子だろうとは気になるが、別に変な子じゃなければどうでもいい。
一緒の部屋と言っても寝る部屋は別だし。
私はぼんやりと校庭を眺めた。
ああ、退屈。早く終わらないかな。
そう思っていたとき、なんだか聞き覚えのある声が耳に入った。
まさか、と思って私は声の方を見る。
そこにはとっても見覚えのある人物が立っていた。
「篁玲です。ロシア人の父と日本人の母のハーフです。この通り、日本語は大丈夫ですので、仲良くしてください」
にっこりと、人形のような外見はそのままで、玲は微笑んだ。
私は目を見開いて、玲を見つめる。
玲と目が合うと、玲はにっこりと笑う。
なんで?どうして、玲がここに?
ていうか、ここ女子高なんだけど……。
玲に話を聞きたかったが、結局玲と話せず、私が混乱したまま、なんとか寮に辿り着くと、そこには玲がいた。
荷物を解いていた玲は、部屋に入ってきた私を見ると、ニヤリと笑った。
「久しぶりだな、琶奈」
前よりも、低い声。
よく見れば身長も前より高くなっている。
しかし、どこからどう見ても見た目は女の子だ。
いや、そんなことはともかく。
「な、んで……?なんで、玲がここに……?」
「なんだ、やっぱりわかってなかったか。また戻ってくるって口パクしたんだけどな……」
最後のあれは、そう言っていたのか。
でもわかるわけないじゃないか。私、読唇術なんて使えないし。
「やっと、片付いたんだよ。やらなきゃいけねぇことが。2年もかかっちまったが」
「いや、それもそうだけど、そっちじゃなくて!なんで女子高に玲がいるの!?」
まさか、女の子になっちゃいました☆とか言わないよね?
「んなわけねーだろ。正真正銘俺は男だ」
「じゃあ、なんで?」
「父さんの権限を使ってちょっとな……まあ、細かいことは気にすんなよ」
気になる。物凄く気になるけど。
それよりも、私は玲に言わなきゃいけないことがある。
「玲、おかえりなさい」
「……ああ。ただいま、琶奈」
私たちは笑い合う。
私の心に開いた大きな穴が塞がるのを感じる。
ああ、やっぱり私には玲がいないとだめなんだ。そう実感した。
「これから楽しくなりそうだなぁ?琶奈と一緒の部屋だもんな?」
「え?」
「え?じゃねえよ。俺、今日から琶奈のルームメイトだから、よろしくな?」
にやりと意地悪く笑う玲に私の笑みが凍り付く。
神様、私、玲がいないとだめなんだって言いました。
だけど、一緒の部屋でないとだめだってことじゃないんです。
だから、どうか、部屋変えて!!!!
私の可愛い幼馴染みに振り回される日々が、また、始まる。
いろいろ突っ込みどころ満載ですみません。
女装男子が好きだということを最近思い出し、書いてみたくなったので書きました。テヘペロッ
とても楽しかったです。いい息抜きになりました。