緑の液体
「えるびす?ぷりすれい?」
三郎が帰った後もミツルはあのジャケットが、頭から離れなかった。結局部屋に持って来て埃を払い枕元に置いている。そこに親父が入って来た。「宿題はやってるのか?」。ミツルの親父は信用金庫に勤めている。普通の親父だ。「それよりエルビスって誰?」とミツルが尋ねた。「エルビスって、エルビスプレスリーのことか?プレスリーはなアメリカのミュージシャンだ。お前の爺さんが好きでな、よく聞かされたもんだよ」。「そうなの?」とミツルが答える。「そんなに興味があるなら聞いてみるか?」。そう言って親父は居間に連れて行きPCを開いた。youtubeでプレスリーを入力し、監獄ロックをクリックした。ミツルは耳を塞ぐ。なんて煩いんだとミツルの顔が歪む。次にハートブレイクホテル、キャントヘルプフォーリングラブを。ミツルの頭の中で緑の液体が弾けた。体中がヒリヒリして内側から熱くなってくる。ロックとの出会い。エルビスプレスリーとの出逢いだった。衝撃という言葉では事足りない程の衝撃。感動というにもわけがわらない。音楽とか何か。ロックとは。恋とは。音、
その音に込められた想い。ミツルは興奮し、感激し、身震いした。これが、あの蔵の中で眠っていたエルビスプレスリーなのかと。