デューク7
魔法兵団で発生したトラブル。それは魔法の実験中に魔法兵団本部の一角を破壊してしまったという実に単純で、そのくせ後始末が大変なものであった。
原因の一端としてはウィルフで行われた交流会他、様々な理由により第一位の位を持つ魔道士のほとんどが出払ってしまっていたため、監視不足だった事もあるのだろう。後処理をする人間も不足していたため、シーガルを含めた数人は慌てて帰国したというわけである。
駆けつけたシーガルが行ったことといえば、魔法を使用した建物の修復作業、原因の調査、後処理のための書類作成等々雑用ばかりであり、三日間魔法兵団に泊まり込みだった。ここのところ三日の平均睡眠時間は一時間ほどである。
ようやく作業の方が一段落したため、シーガルは家へ戻ることにした。
しかしまっすぐに家に帰るのではなく、家の数歩手前で寄り道をした。
訪れたのはマックスの病院。
「こんにちは、おばさん。カミルはいますか?」
「自分の部屋にいますよ。どうぞ」
カミルの母に挨拶をして、二階へと上がる。目標は二階の一番奥の部屋。
ノックをして、返事も待たずに無造作に中に入る。
「うわっ、いきなり入ってくるんじゃねえよっ!」
カミルは白い紙――おそらくは手紙か何かなのだろうが、を後ろ手に隠して立ち上がる。それから数秒ほどの間を空けて、入ってきたのがシーガルだと気付いたらしく、彼はつり気味の瞳を丸くさせた。
「あれ。お前、いつ帰ってきたんだよ。もう少し後だって予定じゃなかったっけ? あ、分かった。ジェシカが恋しくなって、会いに来たんだろう」
からかうように言ってくるカミルが何とも憎らしく思えて、シーガルは思わず怒鳴った。
「魔法兵団で緊急事態が発生したんだっ」
突然怒鳴られて不満を含んだ表情をしているカミル。だが、シーガルにはこれ以上意味のない話題に付き合っている余裕などなかった。
怒鳴り散らしたいのを堪えながら、カミルの胸倉を掴み寄せる。
「お前、ジェシカ様になんて事を言ったんだ?」
「は?」
何の自覚もないらしいカミルの素っ頓狂な声を聞き、腹を立てたシーガルは手に力を加えた。
「お前が、『デュークとつきあえ』だなんて唆すから、ジェシカ様は真に受けて……」
「唆すとは人聞きが悪いじゃねえか。ジェシカがデュークに気がある風だったから、アドバイスをしてやっただけじゃねえかよ」
「何がアドバイスだっ。お前のことだから、面白がって適当なことを言っただけだろうっ!」
それは図星だったのか、カミルは明後日の方向に視線をやり、おほんとわざとらしく咳払いをしている。シーガルが苛立ちながら手を引くとさすがに苦しくなったのか、カミルはシーガルの手を振り解いた。
行き場のなくなった腕を下ろし、床を見つめる。
ごくりとカミルが唾を飲み込んだらしい音が聞こえた。気まずそうな顔をして視線を宙に浮かした彼は、ゆっくりと口を開く。
「まあ、別にあの二人は本気でつきあっている訳じゃねえんだから、そんなに落ち込まなくても、まだチャンスはあるだろうし」
「何のチャンスだっ!?」
殴りたい衝動に駆られつつも何とか自制し、カミルのことを睨み付ける。
「だいたい、ジェシカ様は幸せそうだけど、デュークにその気がない以上、ろくな結果にならないのは目に見えてるんだ」
口を何度か開閉させ、カミルは天井を仰いだ。シーガルがここに来ていることから、ジェシカを説得して失敗したことなど予想できたのであろう。
剣呑な視線をカミルに向けたまま、シーガルは低く声を出した。
「責任取れ……」
「俺があいつらの恋人ごっこを止めさせるための案を出せ、って訳か?」
無言で頷いてやると、彼は真っ向からシーガルを見つめた。その瞳が微かに細められる。
「だったら、お前がアンジェリカに直談判して来ればいいじゃねえかよ。本当のことを言うのも良し、ジェシカを素晴らしい女だと認めされるのも良し」
眉間に皺を寄せてカミルのことを見つめる。
確かに、彼の言うことはもっともである。シーガルがジェシカのことをフォローして、彼女の認識を改めさせれば、ジェシカの名誉は守られることになり、ジェシカも文句は言えなくなるはずだ。
ジェシカの事をよく知っているはずのシーガルならば、それも出来るかも知れないと少しだけ安易な気持ちも沸いてくる。
「俺、アンジェリカの家、知ってるぜ」
にっこりと笑みを浮かべるカミル。しばし迷ったが、シーガルはゆっくりと頷いた。
貴族達の邸宅が並んでいる舗装の行き届いた広い通り。そこにアンジェリカの住むルージュワルド邸があった。カミルによると、規模的には中流貴族の邸宅であろうとのことだ。
通された部屋はシーガル達には不相応な部屋であった。応接室であろうそこには、高価そうなツボやら絵画やらが飾られている。
目の前のソファに座っているアンジェリカは、優雅な仕草で紅茶を飲んでいた。
「え~っと」
気まずい雰囲気が立ちこめる中、シーガルが何とか声を絞り出すと、冷ややかなアンジェリカの紫色の瞳がこちらを向く。ぎくりとしてそこから視線を外すと、せっかく振り絞った勇気がしぼんでいってしまう。
しばらく時間が流れた後、切り出したのはアンジェリカだった。
「デューク様の事ですか?」
躊躇いがちに、シーガルは頷いた。
「デュークというより、むしろジェシカ様の事なんですけれど……」
「私、諦めません。だって、ジェシカ姫なんかより、私の方が優れているし、デューク様に似合いますもの。だって、ジェシカ姫って世間ではなんて噂をされているかご存じです? バカで、自己中で、我が儘で、男好きで、食い意地が張っていて、社交性も全くなしで、不器用で、どんくさくて、性格も悪くて……」
真剣な瞳のまま強い口調でまくし立てられ、シーガルは言葉を失った。
確かにジェシカは何の取り柄もないばかりか、むしろ弱点だらけではある。だが、間違っていないにしても、噂から判断して勝手にジェシカを見下す様な態度をとるなど――。
苛立ちながら感情にまかせて反論するのを堪え、冷めた紅茶に口を付けてゆっくりと息を吐く。
「確かに、ジェシカ様よりもあなたの方が優れた女性なのかも知れません。ですが、ジェシカ様はジェシカ様なりに必死に頑張っています。努力をしている人間を蔑むのは、どうかと思いますけれど……」
「私だって同じくらい……いいえ、それ以上にがんばっています。ジェシカ姫なんかには、負けません」
攻撃的な視線に射抜かれてついつい固まってしまう。迂闊なことを言えばアンジェリカを傷つける結果になってしまう。
「つうか、あとから現れたお前の方が分が悪いのは仕方がねえじゃん」
横から不機嫌そうな声が聞こえ、シーガルはそちらを向いた。今まで黙ってクッキーを食べていたカミルはアンジェリカへ冷ややかな視線を向けている。
「だって、ジェシカ姫とデューク様がつきあっているというのなら、どうして男漁りなんかっ……」
「デュークとつきあう前の話なら、とりあえず問題はないだろ」
息ばんで何かを言おうとしていたアンジェリカが口を開いたまま固まった。
しばらくすると彼女は瞳を潤ませながら、ゆっくりと口を閉じる。
シーガルは責めるような瞳をカミルに向けるが、彼は平然として、逆にシーガルのことを咎めるような視線まで浴びせてくれる。
「お前が諦めるのが一番平和だと思うぜ。デュークだって、お前とつきあう気はねえんだろうし。それに、理由は何であれ、人のことを貶すような人間にデュークが惚れるとは思わない……俺が見た感じは、って話だけどさ」
そう締めくくって、カミルはクッキーに手を伸ばした。
うつむいていたアンジェリカの手の甲にぽろぽろと涙がこぼれる。
「デューク様は私のことを助けてくださりましたもの。私、あの方以外の人なんて考えられません」
カミルはもう何も言わなかった。投げやりな表情をして窓の方へ視線をやるだけ。
シーガルは苦い思いで一杯になりながらアンジェリカの事を見ていた。アンジェリカと話せばデュークの話題は出てくることなど容易に想像は付いた。それなのに、自分で何かが出来ると安易に考え、こんな所までのこのこと来てしまった。
ジェシカのことを思うならば、何と言われようと彼女の弁解をすべきだったし、皆のことを考えるならばカミルがしたように諦めろとアンジェリカに進言すべきだったのかも知れない。
結局はシーガルも、ジェシカと同様に自分のことしか考えていなかったのだ。彼女のお目付役として何かしなければならないという、妙な使命感に駆られて。アンジェリカが可愛そうと言いつつも、実際の所彼女の気持ちなどさほど考えていたわけではなかった。
――もしかすると、ジェシカがデュークとつきあっているふりをしているのが気に入らなかっただけなのかもしれない。
「申し訳ありません。アンジェリカさん」
謝られたアンジェリカは慌てた風に首を振っている。それにも構わずにシーガルは頭を下げた。
「ジェシカ様はとても優しくて素敵な方だって、少しでもあなたに伝える事が出来たらと思っていたんですけれど、結果的にはあなたを傷つけるだけになってしまいました。……すいませんでした」
アンジェリカは戸惑ったような瞳で、立ち上がったシーガルのことを見上げていた。
扉の前でもう一度頭を下げ、シーガルは部屋から出た。
ルージュワルド邸を出てしばらく歩くと、カミルが追いついてきた。
「俺って、空回りしてるなぁ」
別に慰めの言葉が欲しかったわけではないのだが、ついつい口から出てしまった愚痴。横に並んだカミルがひょいっと肩をすくめるのが視界の端に写る。
「気にすんなよ」
呆れたような口調。
もしかして慰めてくれるのかと少しだけ期待の含まれた面もちを上げると、彼は真顔のままこう続けた。
「そんなもん、いつものことなんだからさ」
がっくりとうなだれる。思わず足を止めるが、カミルは気にした風もなくマイペースに歩いていってしまう。
シーガルは思わず拳を握りしめ、カミルの後ろ姿を恨みがまし気に見つめた。
* * *
シーガルが帰ってきて、ジェシカは心底嬉しかった。いつも近くにいてくれたシーガルがいないと、いろいろと不便な点が多いし、実を言うと少し寂しいのである。
ところが、シーガルは魔法兵団の方の仕事が忙しいらしく、帰還後一度会ったきりで顔を出してはくれない。
「もう、シーガルったら。せっかく帰ってきたのに、どうして遊びに来てくれないのかしら」
「家にも帰ってないぞ……」
どうでも良いと言わんばかりにデュークが呟く。まあ、彼の場合は自分が忙しくなければそれで良いのだろう。
河原に座って二人は弁当を食べていた。ジェシカの手作り弁当である。妙な加減に塩味の効いた卵焼きが、涙をそそる。それでもデュークは黙々と食べていてくれるのだから、感謝はしなくてはならない。
水筒に入れてきたお茶をすすり、ジェシカはほうっと息を吐いた。お茶だけは美味しいのだ。
「平和ですわ~」
穏やかに吹いている風がジェシカのすぐ横に咲いている黄色い花を揺らしている。さらさらと流れる髪を鬱陶しそうに後ろに払い、ジェシカはおにぎりにかぶりついた。……やはり、これも塩辛い。
じゃりっと、背後で土を踏みしめる音が聞こえる。
ジェシカは訝しげに振り返った。
「よう、デートの邪魔しちまったな」
にたりと癖のある笑みを浮かべながら片手を上げるのはカミル。
そして、その後ろには寝不足なのか、妙に眠たそうな顔をしているシーガルの姿もあった。
「あらあら。二人でどうしたんですの、珍しい」
「今までアンジェリカさんと会っていました」
シーガルのその言葉にジェシカは思わず眉をひそめた。シーガルとアンジェリカがどうして会う必要があったのだろうかと疑問に思う。
シーガルは落ち込んだ様な顔をしていた。訝りながらそんな彼を見上げる。
「アンジェリカさんは真剣です。だから、彼女に嘘を付くのは止めて下さい」
ジェシカは頬を膨らませた。そのやりとりはつい先日も行ったばかりのような気がする。
「でもっ」
「確かに彼女はジェシカ様に対して酷いことを言っていますし、デュークだって迷惑をしています。ですが、こんなやり方をしたって、みんなが傷つくだけで良いことなんてひとつもありません」
「だって、これがアンジェリカを見返すには一番の……」
「逆の立場だったら、ジェシカ様だって嫌でしょう?」
それを言われると返す言葉に詰まる。「自分でされて嫌なことは他人にはしてはいけない」。そんなことは、シーガルに言われるまでもなく、分かっている。
シーガルは特になんの感情もこもっていない瞳でジェシカのことを見つめていた。その瞳がジェシカの心を焦らせる。だが、どうしてもここで引きたくはないジェシカは何とかシーガルを説得しようと思考を巡らせた。
「そりゃ、そうですけれど。でも……」
だが、ジェシカが言い訳をする前にシーガルは口を開いていた。
うつむき加減で、悲しそうな顔をしているシーガル。悲しそうと言うよりは、失望感に似た物が込められている瞳。それに気付いた瞬間、ジェシカは言葉を止めた。
「ジェシカ様が、人の気持ちを考えられない人だとは思いませんでした」
その言葉に頭を強く殴られたような衝撃が走った。呆然としたまま固まっててると、少しだけ申し訳なさそうな表情を覗かせているシーガルと目が合う。ジェシカはとっさにそこから視線を外した。
口の中がカラカラに乾き、鼓動がはっきりと耳に届いてきた。何か恐怖めいた物を感じ、ジェシカはただ俯いていた。
やがて、シーガルは頭を下げて踵を返す。
ジェシカは結局一言も語りかけることなど出来ずに、そのまま微動だに出来なかった。
カミルは困ったようにジェシカとシーガルを見比べていた。どちらについて行こうか迷っていた様であるが、デュークに目で訴えられ、結局はこちらに残ることにしたらしい。
ぼんやりとしていると、デュークが口の前に卵焼きを差し出した。
ほとんど条件反射的にその卵焼きにかぶりつく。塩っ辛さが口の中一杯に広がっていった。
「しょっぱい……」
その言葉と同時にぼろぼろと涙が溢れてくる。
横にいたデュークは軽く息を吐いた。
斜め前にいるカミルは気まずそうな表情でハンカチを差し出してくれた。そのハンカチで涙を拭うと、ますます悲しい気持ちになってくる。
「そろそろ潮時ですね。これ以上恋人ごっこを続けていても仕方がないでしょう」
そんなデュークの言葉に、ジェシカはますます泣き出した。
確かにシーガルに嫌われるのは嫌だ。だが、今の段階では、デュークには見直して貰っていないし、アンジェリカのことだって見返していない。
「ジェシカ。俺が言うのは無責任かも知れねえけど、お前もアンジェリカもこの辺で諦めるのが一番正しいと思う」
耳元でカミルが言う。ジェシカは睨むようにして彼の方へと視線を向けた。
「このままずるずると行ったって同じだって」
「でも、でも……」
しゃくりを上げながら反論をしようとするが、うまく言葉が出てこない。
「とりあえず、アンジェリカを見返したいなら、別の方法を使うことを勧める」
「別のって?」
ぐすぐすと鼻をすすりながら訝しげな顔を上げると、カミルは考えるように視線を上げ、意味もなく指で円を描く。
「まあ、今までのジェシカのイメージを覆すような振る舞いをすりゃいいんだよ。パーティの席か何かでよ。そうすりゃ、アンジェリカだって少しはお前のことを見直す……かもしれない」
それは多分、適当な思いつきで語られた言葉なのだろう。
いつもならばカミルの思いつきの言葉などには耳を貸さないデュークも、何故か今日ばかりはそれに賛成をしているようである。
「いくら俺と姫さんが恋人同士と言ったところでアンジェリカ嬢は諦めないようですし。……こっちのことはこっちで何とかしますよ」
投げやり気味に言葉を発し、デュークは億劫気に息を吐いた。
そうは言うが、それだけではジェシカの真の目的など果たすことは出来ない。だがしかし、それを言い出すわけにも行かず、ジェシカは涙を堪えながら頷いた。
*
「馬鹿馬鹿しい。シーガルさんが呆れて当然ですわよ」
事情を聞いたレティシアは、本から視線を上げようともせずに冷たく言い切った。ジェシカは涙がこみ上げてくるのを必死で堪えながら、座っているレティシアの事を見下ろしていた。
ジェシカはデュークとカミルを連れて、レティシアの部屋に赴いていた。
「……一応、俺からも頼む。ジェシカの面倒を見てくれ」
シーガルに責められたことで一応の責任を感じているのか、カミルがレティシアに頭を下げた。レティシアは微かに視線を上げて彼の事を見つめる。
しばらくして、ゆっくりと目を伏せた彼女は息を吐きながら本を閉じた。
「実行するとしたら、お姉さまのお誕生日ですわよね。だったら、アドバイスできることはひとつ。来てくださった方にきちんとお礼を言って回ること。もちろん、毅然とした態度で、笑顔を浮かべて、ですわよ」
「そのくらいなら、大丈夫ですわ」
えへんと胸を張りながら得意げな表情を作ると、呆れたようにレティシアは息を吐いた。
「貴族の方々の名前は、覚えてるんですの? 相手の名前を呼ぶくらいの気配りは必要ですわよ」
「私、全然名前なんて覚えていませんわ」
またもや胸を張って答えると、レティシアは眉間にしわを寄せながら再びため息をついた。
「まあ、その辺はキャロにフォローして貰うのが良いかしら。キャロにエスコートでもしていただいて……」
「エス……コート?」
なんとなく引っかかって、ジェシカは横を向いた。そこにいたはずのデュークはいつの間にかいなくなっている。
きょろきょろと周りを見ると、デュークは扉の前に移動していた。
そんな彼を、ジェシカは指さす。
「デューク。私をエスコートして下さい」
パーティの席で恋人にエスコートをして貰う。何を隠そう、ジェシカはそんなことに憧れていたりもする。
デュークは無言で首を振った。その表情は「絶対に嫌だ」と物語っている。
「デュークは貴族でも何でもないんだぜ? 無理に決まってるじゃん」
カミルの加勢を受けて、デュークは少しだけ安堵の表情を漏らす。だが、最近のジェシカは冴えている。
「じゃあ、カミルでも良いんですわよっ」
そう言ってやると、彼はあっさりと白旗を揚げた。デュークの恨みがましそうな視線にも気付かないふりをして、勝手に椅子に座ってレティシアのクッキーを食べはじめる。
「デュークは貴族じゃありませんれど、私の騎士と言うことで、出席するというのはどうでしょう」
レティシアはどうでもよさげに、カミルはとりあえず知らんぷりな顔をして、それぞれクッキーを啄んでいた。
確かにパーティの席に居合わせているのは貴族が大部分を占めているが、ごくまれに位の高い騎士がいる事もある。それはエスコート役と言うよりは護衛役と言った意味合いが強いのだが。
当のデュークは億劫気な表情を漏らしたまま、結局は首を縦には振らなかった。




