久方の再会
とある夜、とある老婆の下。
不意に小さな妖精が現れた。
「あら」
「こんちは」
掌に収まるようなサイズの妖精を見て老婆は微笑む。
そのまま小さなテーブルを用意して、さらに小さな椅子を用意して、さらには小さな小さなコップまで持ち出した。
「へえ。用意がいいね。まるで私が来るって分かっていたみたい」
妖精はそう言って茶化すが老婆はくすりと笑うばかり。
そのまま器用に小さな小さなコップに蜂蜜を一滴にも満たないほどの量入れる。
「妖精が蜂蜜が好きなのよく知っているわね」
「クッキーが好きなのも覚えているわ」
「……へー、覚えているんだ」
「もちろん」
老婆はそう言って、やはり小さな小さなクッキーを差し出す。
子供の零した破片のようなサイズだが、妖精にとってはやや大きい。
「いただきます」
妖精が美味しそうに食べるのをニコニコと見つめていた老婆は、やがて不意に――。
「あなたに会いたくなかったわ」
ぽつりと夜に消えるような声で言った。
妖精は蜂蜜を飲み干すと寂しそうに笑う。
「私もね」
「なら、会いに来なければ良かったのに」
「んーん。もうボケちゃってるだろうからなって思っていたから」
「失礼ね。あなたのことを忘れるわけないでしょ。親友なんだから」
二人はくすくすと笑いあう。
実のところ、二人はずっと昔に一緒に冒険をしていた仲なのだ。
老婆の言うように二人は親友でもある。
――もう最後に別れてから随分と経っていたけれど。
「……で。あなたが来たってことは」
「そ。あなたの想像通りよ」
老婆の声は穏やかだが笑ってはいなかった。
妖精もまた同じだ。
「新しい魔王が生まれるの。もう直ね」
そう。
この妖精は。
勇者の相棒なのだ。
「そう。そうなのね、やっぱり」
「ええ。私は勇者の使命を持つ者を探すのが役目って、昔、あなたに話したものね」
老婆はあの日のことを昨日のことのように思い出せる。
『戦いが終わったら一緒に暮らしましょうよ』
『ごめんなさいね。私は魔王が死んだなら女神さまのところに戻らないといけないの。もし、またあなたに会うことが出来る日が来るとしたらその時は――』
老婆は記憶を打ち切る。
せっかくの再会なのだ。
寂しい顔は見せたくない。
それに。
このような場面ではどんな風に振る舞えば良いか分かるくらいには歳を重ねている。
「でも、私が戦えるかしら」
「まさか。当代の勇者はあなたではないわ。だって、あなたもうすぐ死んじゃうくらいお婆さんなんだもの」
「あら。失礼ね」
二人の顔に笑みが戻った。
あるいは無理やり戻したと言うべきだろうか。
いずれにせよ、二人は束の間、昔のように話し合った。
過去に戻ったように。
けれど、過去とは違う事を理解しながら――。
「と。そろそろ行かないと」
「ん。わかった」
妖精が椅子から立ち上がる。
背を向けて飛び立とうとする。
刹那。
老婆は。
昔から再会したら伝えようと決めていた言葉をどうにか口に出来た。
「あなたの使命。尊敬するわ。心から」
妖精は振り返り、かつての相棒の目に涙が浮かんでいるの確認すると。
静かに。
同じように。
涙を流しながら答えた。
「ありがとう。救われるわ。その言葉」
妖精は羽ばたいた。
暗くも月明りの照らす夜の中に。
老婆は一つ、ため息をつくと――静かに眠りにつくばかりだ。




