6話
沈黙は限界に達していた。
めくれた原稿の断片が、蛍光灯の光に照らされて揺れている。
インクは涙の跡のように滲み、歪んだ線は誰かの心を裁く刃のように見えた。
頭文字の「N」だけが浮かび上がり、苗字の断片のように見えた。
それは誰かの叫びを封じ込めた痕跡のようで、見る者の心を締め付けた。
外界の音は完全に消え、部室は世界から切り離された孤島のように感じられた。
観覧車の灯りが窓に揺れ、祝祭の残響は消え、ただ沈黙だけが支配していた。
時計の秒針が一瞬だけ響き、外の車のクラクションが遠くで鳴った。
しかしそれらもすぐに沈黙に呑まれ、部室は閉ざされた箱のように孤立した。
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美咲の肩は小刻みに震え、唇を噛みしめていた。
「……これ、読んでもいい?」
声は誠実さを帯びていたが、奥底には恐れが潜んでいた。
罪悪感と好奇心が交錯し、心の中で「読んではいけない」と囁く声を振り切るように手を伸ばした。
結衣の声は鋭く割れ、指は硬直して白くなっていた。
髪を払う仕草で不安を隠しながら、冷ややかに言った。
「隠したって無駄よ。もう見えてる。名前が。」
挑発の裏に、自分が暴かれる恐れが潜んでいた。
彼女の視線は拓真に突き刺さりながらも、心の奥では「もし自分の名前だったら」という恐怖が膨らんでいた。
陽介は缶コーヒーを握り潰し、視線を机から窓へ泳がせていた。
「……誰の名前なんだ?」
声は途切れ途切れに震え、自己防衛の声が頭の中で響き続けていた。
「俺の名前じゃないだろうな」と繰り返しながらも、確信は持てなかった。
指は白く硬直し、缶の金属が軋む音が沈黙に混じった。
直哉は机の木目を追い続け、唇を震わせて短く言葉を吐いた。
「……俺じゃないよな。」
その一言は重く響き、沈黙をさらに深めた。
諦念が心を覆い、未来を拒むように視線を逸らした。
「もし俺だったら、すべてが終わる」と心の奥で呟いていた。
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拓真の額には汗が滲み、呼吸は浅くなっていた。
赤ペンの先が机を突き、乾いた音が残響を響かせた。
その音は沈黙の中で擦れる呼吸と重なり、緊張をさらに濃くした。
彼の心は「読まれたらすべてが崩れる」と防衛の声を叫んでいた。
沈黙が破られそうで破られない瞬間が再び訪れ、時間はさらに引き延ばされた。
誰かが声を出しかけて止まり、沈黙はさらに重くなった。
誰かが他人を疑う視線を投げ、沈黙の中に対立の影が再び芽生えた。
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ついに拓真が深く息を吸い、原稿を押さえる手を離した。
「……もう隠せない。これは、俺の嘘だ。」
紙片に記されていた名前は、確かに拓真自身のものだった。
しかしそれは、彼が他人を装って書いた偽りの記録だった。
真実ではなく、嘘を重ねた痕跡。
その告白は、部室の空気を決定的に揺らした。
結衣が鋭く言い放つ。
「結局、あなたも嘘を抱えていたのね。」
声は鋭く割れ、挑発と恐れが交錯していた。
美咲は唇を噛み、震える声で答えた。
「でも……私たち全員、同じだよ。」
肩は小刻みに震え、罪悪感と共鳴が交錯していた。
陽介は缶を握り潰したまま、低く呟いた。
「……晒されるのは、俺たち全員だ。」
直哉は視線を逸らし、諦念を抱えたまま沈黙に沈んだ。
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原稿の文字は未来を閉ざす扉であると同時に、誰もが心に抱える嘘を裁く法廷のように感じられた。
観覧車の灯りが窓に揺れ、外の世界は遠ざかるように見えた。
沈黙は未来を閉ざす扉であり、誰かの心を裁く法廷のように感じられた。
そして沈黙の中で、誰もが自分の記憶と嘘を見つめ直していた。




