4話
沈黙は重く、誰もが次の言葉を恐れていた。
蛍光灯の唸りは低く続き、机の上に濃い影を落としている。
観覧車の灯りが窓に揺れ、外の世界は遠ざかるように見えた。
その光は祝祭の残響のようでありながら、部室の空気をさらに冷たくしていた。
呼吸の音が擦れるように響き、沈黙の中に微かな残響を刻んでいた。
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美咲の視線が机の端に置かれたノートに吸い寄せられた。
赤ペンの跡がびっしりと走る原稿用紙。
紙のざらつきが蛍光灯の光を受けて浮かび上がり、
インクの匂いが微かに漂い、隠されていた秘密が突然露わになったように見えた。
文字は黒い波のように押し寄せ、紙面から溢れ出す錯覚を与えていた。
「……これ、読んでもいい?」
美咲の声は震えていた。
その震えは期待と恐怖の入り混じったものだった。
誠実な響きの奥に、恐れが潜んでいた。
唇を噛み、指先を机に押し付ける仕草がその揺れを隠しきれなかった。
拓真の手が即座に原稿を押さえた。
「駄目だ。これは……まだ誰にも見せられない。」
指は原稿を押さえながらも、心は誰かに読まれることを望んでいた。
額に汗が滲み、呼吸は浅く、視線は原稿と窓の間を揺れ続けていた。
その葛藤が赤ペンの震えに滲み、机の上に影を落としていた。
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結衣が冷ややかに笑った。
「炎上も嘘も同じだって言ったじゃない。
なら、その原稿も、あなたの嘘なんじゃない?」
その笑みの裏に、わずかな不安が揺れていた。
彼女自身も、自分の言葉がいつか裏返されることを恐れていた。
髪を払う仕草で不安を隠そうとしたが、指先はわずかに震えていた。
沈黙を裂くように、誰かの椅子が軋んだ。
赤ペンが机を突いた音が残響し、空気をさらに重くした。
全員の視線が交錯し、沈黙が破られそうで破られない瞬間が続いた。
陽介が視線を泳がせながら呟いた。
「……俺も、自分の嘘を隠してた。
でも、隠したものはいつか暴かれるんだろうな。」
沈黙の中で、陽介は自分の嘘がいつ暴かれるかを恐れていた。
視線は泳ぎ続け、声は途切れ途切れに震えていた。
缶コーヒーを握る手は汗で滑り、潰れそうに歪んでいた。
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直哉の唇が震え、ただ一言を漏らした。
「……晒される。」
その言葉は短く、しかし重く響いた。
机を叩く指が止まり、呼吸が荒くなった。
結衣の言葉に直哉は胸を刺されるように感じ、未来から逃げられないと悟った。
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美咲は原稿に手を伸ばした。
「拓真、もしこれが嘘なら……私たち全員、同じだよ。」
その声は誠実でありながら、震えを帯びていた。
美咲の指が紙に触れそうになり、拓真の手が寸前で遮った。
赤ペンの先が机を突き、乾いた音が響いた。
拓真の声は低く震えた。
「これは……俺の真実だ。でも、読まれたら嘘になる。」
結衣が鋭く言い放つ。
「嘘は消せる。でも、隠されたものは暴かれる。
あなたの原稿も、炎上と同じ。」
誰もが原稿に触れたい衝動を抱えながら、恐れに縛られて動けなかった。
誰かの手が途中で止まり、視線が交錯した瞬間、沈黙がさらに重くなった。
誰かのため息が漏れ、すぐに静寂に呑まれた。
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観覧車の灯りが遠ざかるように見え、外の世界も沈黙に呑まれていった。
原稿の紙が風で一枚めくれ、文字の断片がちらりと覗いた。
その文字は誰かの名前のように見え、秘密を暴く予兆のように揺れていた。
しかし誰の名前か分からないまま、沈黙だけが深く積もっていった。
呼吸は荒く、心臓の鼓動が重く響いた。
誰もが自分の嘘を思い返し、その暴かれる瞬間を恐れていた。
沈黙は重く、誰もが次の言葉を恐れていた。
観覧車の灯りは遠ざかり、外の世界も沈黙に呑まれていった。
次に暴かれるのは――拓真の原稿か、それとも別の嘘か。




