3話
沈黙はまだ続いていた。
蛍光灯の唸りが低く響き、机の上に濃い影を落としている。
窓の外では観覧車が静かに回り続けていた。
灯りは遠い祝祭の残響のように窓に映り、部室の重苦しさを照らしていた。
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結衣のスマホが震えた。
画面には新しい通知が洪水のように押し寄せ、次々と流れ込む。
「炎上」「売名」「嘘つき」――
コメントは群衆の叫びのように押し寄せ、通知音は嵐の雷鳴のように重なった。
画面の光が結衣の頬を斑に染め、瞳孔が揺れていた。
指先の汗がスマホに滲み、熱を帯びた掌が震えていた。
心臓を掴まれるような圧迫感が広がり、呼吸を奪う煙のような不安が漂った。
通知音は耳鳴りのように残り、沈黙を切り裂く騒音となった。
結衣は唇を噛み、画面を机に叩きつけるように置いた。
「……見てよ。私、今、燃えてる。」
その声は乾いていた。
誰もが画面に目を落とし、言葉を失った。
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陽介が顔を上げた。
「俺の嘘より、そっちの方がきついな……」
その言葉は慰めにもならず、ただ空気を濁らせた。
結衣の視線が陽介を射抜く。
「嘘は消せる。でも炎上は消えない。」
一拍置いて、冷たく続けた。
「あなたの嘘はここで終わる。
でも、私の炎上は外の世界で広がり続ける。」
陽介は結衣のスマホ画面を見つめながら、胸を締め付けられるように感じた。
缶コーヒーを握る手が震え、缶が潰れそうになった。
視線は机の木目を追い続け、声はかすれた。
嘘を守りたい気持ちと、崩壊する恐怖が胸の奥でせめぎ合っていた。
「……俺の嘘も、外に出たら炎上するんだろうな。」
その呟きは誰にも届かず、空気に溶けた。
後半になっても彼の視線は泳ぎ続け、声は途切れ途切れに震えていた。
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直哉がスーツの袖を握りしめ、声を途切れ途切れに漏らした。
「……社会って、残酷だよな。履歴書の数字で人を測る。原稿の文字は誰も見ない。」
声が途切れ、手が震え、視線は窓の外を泳ぎ続けていた。
観覧車の灯りが彼の瞳に映り、揺れていた。
「未来が怖い。履歴書も原稿も、どっちも手から落ちそうだ。」
その断片的な吐露が、場の空気をさらに重くした。
彼は机を指で叩きながら、かすれた声を漏らした。
「……俺は、どこにも居場所がない。」
結衣の言葉に直哉は胸を刺されるように感じ、未来から逃げられないと悟った。
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拓真が赤ペンを握り直し、低く言った。
「炎上も嘘も、結局は同じだ。外に見せる顔を飾るためのもの。」
その声は冷静に聞こえたが、赤ペンの先は震えていた。
「俺たちは、真実よりも虚構で競ってる。」
結衣は拓真を見据え、さらに皮肉を重ねた。
「炎上は私だけじゃない。あなたたちも、いつか外の世界に晒される。」
その言葉は部室全体を刺し、誰もが息を詰めた。
拓真は短く吐き出した。
「胸に刃を突き立てられたようだ。」
美咲は制服の袖を握りしめ、かすかに声を出した。
「私も……晒されるのかな。」
沈黙の中で、誰もが自分の嘘を思い返していた。
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美咲は場を和ませようと、かすかに笑みを浮かべて言った。
「でも、きっと次は書ける。」
しかし誰も応じず、言葉は空気に溶けた。
その笑みはすぐに消え、沈黙が戻った。
沈黙を破るように、誰かのペンが机から落ちた。
乾いた音が響き、全員の視線が一瞬揺れた。
誰かの椅子が軋む音が続き、すぐにまた静寂に呑まれた。
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結衣はスマホを再び手に取り、画面を見つめた。
コメントは止まらず、群衆の叫びのように押し寄せ、画面を埋め尽くしていく。
彼女の指が震え、画面を閉じることができなかった。
「……私の夢は、もう燃えて灰になるのかな。」
通知音が一斉に鳴り響き、部室が一瞬、騒音に包まれた。
その後、急に止まり、静寂が戻る。
誰かが小さく笑いかけて失敗し、空気はさらに重くなった。
呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が聞こえるようだった。
直哉の指が机を叩き続け、声にならない震えが空気に混じった。
誰かの視線が窓から机へと揺れた。
誰かの手が震え、スマホの光がふっと消えた。
沈黙の中で誰かの呼吸が荒くなり、重く響いた。
沈黙は重く、誰もが次の言葉を恐れていた。
観覧車の灯りが窓に揺れ、沈黙を見守っていた。
次に暴かれるのは――誰の嘘だろう。




