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みほちゃん

作者: kumi


「助けてほしい」


母の大切にしている娘のみほちゃん


みほちゃん家族の歯車が

もう

どうにもならないほど嚙み合わない。

どうしていいのか分からない。


そう

母は言う。


そして

精神的な助けを私へと求める。



差し出せるものは

いつかの昔

父から 母からされた

私の犠牲の上になりたった もの


どうにかして

やっと

今まで生きてきた


その私を


手のひら返しで

あげるほど私は


もう馬鹿じゃない。



馬鹿な振りをしたまま

いい子でいる私じゃないんだ。


今更

頂戴なんて


私の苦しみは

無いように扱っていたのに


自分が苦しくなると


助けて


なんて。




どうか

家族に入れて


どうか

どうか

仲間に入れて下さい


そう懇願していた

あの心は今

私の中に位置して居ない。


「どうしていいのか分からないの みほちゃんも孫達も皆上手くいかないの」



みほちゃんのためならば

母は私に醜態をさらしてでも


助けを乞う。


みほちゃんのためならば

お金の無心さえも出来る。


その姿は

縫合されていた私の古傷を


生傷にさせる。




「あなたは優しいから」



優しく何でも許す私は

母のごみ箱でしかない。


知っている。



優しさは

差し出せば出すほど

負荷をかけられ


その次を

さらに次を もっと もっとと 求められる。


その負荷を 超えることが出来たなら

負荷前は

忘れられ


出来て当然


それだけが

私を待ち構える。



血のつながった人間は誰一人として私を守らなかった。



他人が

秋の日

私の右腕を掴んで私の死を止めた。




求めさせてもらえなかった

優しさを


一生懸命

私の中に蓄えてきた

他からもらった優しさを


くれ


だなんて


私の胸が小さく泣く。



目の前に居る私は

母の瞳に


どう映っているんだろう。


母は

何故

私を生んだんだろう。



ああ

そうか

簡単な事だ。


一番目の私が生まれなければ

二番目のみほちゃんは

生まれてこないものね。



みほちゃんが

この世界に

母の腕に抱かれるには


どうしたって

一番最初は生まれなければならなかったんだった。



みほちゃん


私はその名を聞こえないような声で

口ずさんでいた。


幼い頃の記憶が滲んで頭の中を流れ出す。


小さい頃

おもちゃ屋で見本として置かれた

動く猫のぬいぐるみを思い出した。


スズランテープで縛られていて


毛玉だらけになっててさ

汚れててさ

顔の形が細長くなっちゃっててさ


にゃーにゃ―ないて

くるくる回って


にゃーにゃ―ないて


ずっと繰り返すその姿が

必死に見えた


必死


たかが

電池仕掛けのおもちゃなのに


精一杯

泣いている様に見えて


そこから出たがっているように見えて


店員のお姉さんに無理言って

その子を売ってもらった。


「こんな子がいいの?新しいのあるよ」


お姉さんは言う。


「この子がいいんです」


スズランテープは切られ

その子を腕に抱けた時


一緒に帰ろう


そう胸が思った。


汚くても

毛玉だらけでも

顔の形が細長くなってても


動けなくても


可愛い子




きっと

私は

どんな私でも


愛されてみたかったのだと思う。


ぼろ雑巾みたいな

娘だって

何もできない

娘だって




いいって


この子が

この娘が


いいんだって

一度だけでも

言われてみたかったんだと思う。



いつだって

誰だって


独りぼっちは嫌なものだ。


人込みで溢れた

雑踏で感じるさみしさと


たった一人でいる

砂漠で感じるさみしさとでは


全く

異なる


さみしさだもの。



母は私の前で

みほちゃんの話をしていた。



汚れた猫のぬいぐるみのことは


もちろん

母は知らない。



「どうにかしてあげないと みほちゃんだめになっちゃう」


母はそう言った。



にゃーにゃ―と鳴く猫のぬいぐるみは

まだ私の胸の中で泣いている。


スズランテープは

切られていなかった。


















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