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第2話 彼女の噂

 そう。確かに30年ほど前、この会社のすぐ近くの都道で、大型バイクとトラックがぶつかる、痛ましい交通事故があった。バイクは大破し、乗っていた女性は病院に運ばれた後、亡くなったという。


 そして、そのバイクは、カワサキのニンジャ、色はライムグリーンで、乗っていた人の名字は佐藤、女性だったという。


 偶然の一致にしては、奇妙なほどに合っている。


 しかし。

「いやいやいや、ありえないですからね、部長。だって、あの人、ちゃんと足あるでしょう」

 大竹が慌てたように否定の言葉を並べ始めたが、表情は曇っていた。


「そうですよ。もし亡くなっていたら、昼間から出てくる幽霊だとでも言うんですか?」

 田井中も同調していた。


「まあ、私もさすがにそれはないとは思うけどな。ただ……」

「じゃあ、30年前から見た目も体格も全然変わってないことを、どう証明するの?」

 吉田が発した一言が全てだった。


 そこで、4人は彼女の特徴を改めて洗い出すことにした。

 仕事と全く関係ないのに、いつの間にか仕事並みに盛り上がっており、ホワイトボードにマーカーで、「謎のフルフェイス女」と書き出されていた。



 特徴その1。


 速い。


 とにかく、彼女の運転は速かった。というより、恐ろしく速い。注文すると、まず間違いなく、指定時間には到着している。一度も遅配も誤配もなかった。


 特徴その2。


 正確。


 これもプロフェッショナルすぎるというか、人間というより機械のように正確だった。ある意味、人間を超越していると言えるかもしれない。


 特徴その3。


 容姿、見た目が変わらない。


 これは、先程、吉田が言ったように、30年も変わっていない。体型はもちろん、髪型や服装も変わらない。そこが最大の謎とも言える。


 特徴その4。


 決して素顔を見せない。


 バイク便ライダーとして、彼女は、指定された場所に「物」を運ぶが、この会社にパーツなどを受け取りにきて、指定した場所まで配達するのに、一度もヘルメットを脱がない。

 ある意味、無礼とも言えるが、彼女が言うには、


「急いでいますので」


 という一言で、すべて済ませてしまう。田井中がよく応対していたが、その声は明らかに女性の物で、手足も細く、肩幅も狭いので、女性で間違いないだろうということだった。


「じゃあ、手っ取り早く、フルフェイスヘルメットを脱いでもらえばいいんじゃないか?」

 藪田が当然のように提案するが。


 渋い表情で首を振ったのは、ベテランの吉田だった。


「それが出来れば、苦労してないですよ、部長」


「ですよねー。そもそも『素顔を見せて下さい』って言ったところで、ダメだと思いますよ」

「じゃあ、こっそり後をつけてみてはどうでしょう?」

 田井中が応じ、大竹が口を開くが。


 部長の藪田は、苦い表情で大竹に問うた。

「あのとんでもないスピードに追いつけると思うか?」

 大竹が閉口する。


 結局、彼女の正体はわからず終い。


 そして、不意に外から爆音のようなエンジン音が聞こえてきた。

 昼休憩はとっくに終わっていた。

「すみません」

 噂の彼女が今日もやって来たのだ。


「はい」

 応対に応じたのは、いつものように田井中だったが、今日だけは藪田と大竹、そして吉田もこっそりと物陰から覗くことになった。

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