95話「ガンマ皇帝、転生の牢獄にハマる!」
ナッセを介して、リョーコとサンライトセブン(五人)の魂も込められた『鍵』は希望の光で輝く。
まるで彼らが『鍵』を抱えながら突き進んでいるかのようだ。
「そんなもの……叩き落としてくれるわァッ!!」
ガンマ皇帝は星獣の太い腕で振り下ろす。が、鍵に触れた瞬間、その腕は仄かに発光するキューブにパラパラと分解されていった。
「!!!!?」
慌てて片方の手で鍵を掴むも、パラパラとキューブに散った。
「な、なにィィィッ!?」
底知れぬ恐怖で覆われた。
そのまま皇帝竜の胸板へ『運命の鍵』が差し込まれた。
「ぐあああああああああああ!!!!」
風穴を空けるように胸板から螺旋を描くようにキューブへとパラパラと分解されていき、皇帝竜はもがき苦しむ。
手も足も先っぽからキューブにパラパラと崩れていき、皇帝竜は星獣と一緒に地面を転がってのたうち回る。
苦しくてたまらず暴れ回って辺りを破壊し尽くしていくが、分解は止まらない。
「ああああああああ!!!」
どれだけもがいても、どれだけもがいても、逃れ得ぬ分解。
こ、こんなはずじゃなかった!!
まさか、こんな……こんなッ、切り札を隠し持つなど……有り得ないッ!!!
この我が、皇帝竜が屈するなど……あってたまるかァァァァ!!!!
それでも全身がパラパラに飛び散っていくのはもう止められない。ただただ恐怖に抗おうと無駄にのたうち回って叫ぶしかない。
「ああああああぁぁぁ…………!!!!」
キューブの嵐が巻き上がっていき、皇帝竜の断末魔は徐々に弱くなっていった……。
ありがとうな……。そして……みんな……、すまん……………!
ナッセは消え入るともし火のように、妖精王の状態が薄れ、ゆっくりとうつ伏せに地面へと倒れていった…………。ドサ………!
余韻として煙幕が流れた。
皇帝竜は気がつくと、辺りは奇妙な光景に囲まれていた。
数え切れない円が並び、その円には黒い球が粒々と描かれている。万華鏡のようにどこまでもどこまでも円は連なり並び続けていた。
「ここは量子世界。そして並行世界を統括する空間だ」
「き、貴様ァ!?」
皇帝竜は振り向くと、妖精王姿のナッセがいた。悲しげな表情だ。
「『運命の鍵』に差されたモノは自分の思い通りに弄る事ができる神器。一度受けてしまえば誰たりとも抗うことは不可能。どれだけ無敵を誇ろうが抵抗力を持とうが、無力化される。この『鍵』の力でループを繰り返したりした」
「な……、なっ!?」
ここまでの神器とは……予想以上だぞ…………!
もっとも今回はリョーコやサンライトセブンのおかげで上手くいったようなもんだ。
だが、これで……!
「お前を思い通りに弄る事ができる」
ナッセに指差され、ゾクッと皇帝竜は背筋に寒気が走った。
「や……止めろ…………!」
「……ここ量子世界では通常の時間の制限を受けない。そこでお前に「ヒトの人生」を追体験させる」
「な、なんだと……!? どういう事だ!? この我に何をする気だッ!?」
ナッセは淡々と説明を始める。
「無限とも思える並行世界の狭間で、お前は皇帝竜としての本来の力は出せず、もちろん範囲外の行動もできず、自分の人生のように他人の人生を追体験し続けていくんだ。下手すれば延々と繰り返すかもな。それでもここでは一秒も経たない」
ガンマ皇帝はギリッと歯軋りする。
「き……貴様……ッ!!」
「もう自力では抜け出せないよ」
「ぐっ! ゆ、許さんぞ……! この妖精王がッ! 妖精王がァァッ!! この場で引き裂いてやるッ!!」
怒りのままに衝動的に感情を昂らせ、何度も引っ掻こうと腕を振り回すがナッセをすり抜ける。量子世界ではそういう物理法則は存在しないからだ。
「……仮にもお前はオレの父だしな」
神妙にナッセは呟いた。
「………………!?」
「お前が邪悪な意志で以って終焉の炎を燃やし続ける限り、永久に抜け出せない。ただし、本当に心の底から悔い改めたのなら、この効力は消えるようにした」
「フ、フハハハ……! 終焉を呼ぶ皇帝竜にそのような事があるなど……、戯れ言をッ! 思い通りにできるのなら……、我を消し去るか、下僕にするかすれば簡単なものを────ッ!」
ナッセは首を振る。
「いや。洗脳したって意味ないと思う。それにオレはそういうの好きじゃない」
「…………ぬ?」
「自分で気付いて欲しいんだ。そして自分の意志で歩き出さない限り、本当の自分とは言えない……」
ナッセのセリフに怪訝そうに目を細める皇帝竜。
何故だかナッセは悲しげに微笑んだ。
「だってこのまんまじゃ、お父さんって呼べねぇだろ?」
「な、なに……??」
「じゃあな!」
「お、おのれ!! ナッセェェェ────────ッッ!!!!」
恨み篭る怒号も虚しく、万華鏡に映るパラレルワールドへと吸い込まれていった……。
そして皇帝竜は気の遠くなるほど、途方も無い年月分の多くの人間の人生を追体験し続けていった。
ひ弱でできる事が限られたヒト。
愚かで欲望に負けて道を踏み外しやすく、そして自ら破滅に落ちる事もある。
それでも人間は必死に生きている。短い寿命の最中、矮小で限られた力を使って人生を歩む。
友達を作り遊び、好きな異性にときめいたり、目指す夢に心を燃やしたり、とにかく当たり障りのない人間の人生を追体験し続けていった……。
死ぬまで普通に暮らしてた人の人生。親に虐待されてなすすべもなかった人生。金持ちで生まれた故に歪んだ心を持った人生。時にはサンライトセブンの誰かになる事もあった。更にアクラスになって父である自分に処刑される人生も……。
千差万別とも言える人生を追体験し続けて、徐々に皇帝竜の邪念は薄れていった。
皇帝竜は自分の力がいかに優れていて、容易に思い通りにできるものだと知り、これまで野望の為に振るってきた行為が、どれだけ傲慢で幼稚なのかも痛いほど思い知らされた。
一体どれだけ人生を味わったのだろうか?
万、億、兆、京、垓…………。
延々と繰り返す人生の追体験の最中、流石の皇帝竜も観念していった。




