3話「炸裂するナッセの大魔法!!」
リョーコは滲み出る極悪人の風格にゾッとしたが、こんなにならず者を引き連れているならなおさら厄介だと思った。ここでやっつけておかないと恐ろしい事になりそう。多勢に無勢で苦しいけど、戦士として戦わないといけないと使命感で体を奮い立たせた。
それを木の影から様子を見るナッセ。
「そいつはくれてやる。ヤれ!!」
アベダは顎をクイと上げ、ならず者は嬉々と叫びながらリョーコへと情欲で貪るかのように襲いかかる。
「行くわよッ! せいやーっ!!」
裂帛の気合いと共にリョーコは気丈に斧を振り回して一人一人斬り倒していく。
しかし一〇〇人倒した頃に、後頭部へ鈍器が振り降ろされ激痛と共に脳震盪が不意に襲った。
「がっ」
揺れる視界と身体。そして下卑た彼らの無数の手が、彼女を劣情の餌にすべき迫りくる。
しかしリョーコはカッと気張って、憤怒の怪力で周囲のごろつきを跳ね除ける。
落としていた斧を手に、奮迅とごろつきどもを打ち倒していった。血まみれになりながらも必死だ。
「こちとら五千人も集まってんだぞォォオ!!」
なんと後方から大勢の盗賊が一斉に湧き出してきたのだ。
圧倒的大勢にもリョーコは奮戦するも疲労は積み重なる。二三〇人倒したあたりで息を切らして突っ立つしかなくなった頃に、苛立ったアベダが剣を手に歩み寄ってきた。
「もういい! こんな野蛮で汚ぇ女はさっさと死ね!!」
為すすべもなく剣を振るわれる自分に愕然と、そして未来を閉ざされた暗き絶望に彼女は悔しさを滲ませる。
「待て!!」
しかし、一縷の光が飛び込んできた。群がっていた近くのごろつきどもは四方に吹っ飛んだ。
思わず剣を止めてアベダは驚愕。
掠れた息をするリョーコの冷え切った体に、温かいぬくもりが触れる。霞んだ目に映るは白銀の少年の顔。雄々しい双眸に安心感を抱いた。
「おやおや、来てたのかよ!? ガキ一匹がヒーロー気取りで助けに来るとはバカなヤツだ。この五千もの数を相手に、よほど死に急ぎたいらしいな」
大勢すぎるごろつき達で、アベダは卑しい笑みを浮かべていく。
それでもナッセは精悍とした顔で歩いてくる。
「来てくれたの……」
「警告してたのに。全く」
「ご、ごめん」
弱り切って憔悴しているリョーコの頭を、ナッセは優しく撫でて回復魔法をかけた。
「リョーコは大事な人だ。死なせはさせんよ」
その言葉にリョーコは思わず頬を赤らめてドキッとする。
「はっ、ははは!! クソガキがいっぱしな口を聞いてんじゃねーよ!」
ナッセは緩んだ呆れ顔を見せ、ふうと溜息をつく。
「なんつーか、大人しく自首してくれない? 手心加えてやるからさ……」
「はぁ!? この五千人もの盗賊団が目に入らねぇかッ!?」
目の前のガキに舐められてアベダは黙っていられない。頭に血が上り、地団駄を踏みながら叫ぶ。
「あのさぁ……。五千人というが、お前一人じゃケンカできねぇの……? ビビリ君?」
「なにを~ッ!! ガキ一匹なぞ俺一人で十分だあァッ!!」
キレたアベダが単騎で突っ込んできて、ナッセはため息つきつつ、内心ほくそ笑む。
「かかったな。不殺版・火炎球」
ナッセは杖から弱めの火炎球を撃ち、アベダを火だるまにした。
燃え盛って「ぎゃああああ!!」と転がって消火したところを、国で買った金属メイスで竿と金を叩き潰し「ぐぎゃああ」&回復魔法で去勢して、ヒモでふん縛って捕獲。
手際よくてリョーコはポカンとした。
「よし、ボスは頂いた。後は数だけの有象無象。大掃除と行くか」
「てめぇ、よくもッ!! 総員必殺技『五千盗賊団・永遠暴虐地獄』を喰らえッ!!」
ボスをやられて、五千ものごろつき達は「うおおおおお!!」と激怒で吠え、大勢でナッセへとなだれ込む。
リョーコは思わず「ダメ逃げて」と悲痛に叫ぼうとした。
「じゃあ特大サービスだ! 無料で本物の地獄へ旅行させてやるよ!」
ナッセは右手で杖を握ったまま胸元で両腕を交差させ、魔法力の粒々がそこへ収束される。凄まじい威圧が膨れ、リョーコの肌にビリビリと伝わった。
少年の小さな体に秘められた、とてつもない魔力が高まっていくのが分かる。
カッと見開いたナッセの双眸はサンライトイエローに輝いた。
「弾け散れっ!! 『無双灼熱爆裂球』ッッ!!!!」
一気に杖を突き出し、膨大な灼熱の嵐を放つ。
「ああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
絶叫する五千ものごろつき達を、獰猛に荒れ狂う灼熱の爆炎が呑み込む。
相乗効果により爆発的に更なる甚大な破壊力を生み出す。
そして劈く爆音と共に大地を揺るがし、燃え盛る大爆発は山岳を覆い、天高く立ち昇って空を赤々と染める。
五千人もの盗賊団は跡形もなく消し飛んだ。
「ただし、片道の旅行だがな……。存分に楽しんでくれ」
絶えず黒煙を噴きながら赤々と燃え滾っている爆心地に向かって、ナッセはそう吐き捨てた。
この日を境に国内の誘拐事件は途絶えたのだった。そして何故かさらわれてた人が無事に帰ってきていた。
────そして三日が経った。
ナッセは目の前の新しい新築に、感涙を覚えずにいられなかった。こうなる事が分かってたとはいえ、再びこの国で家を構えられるのは嬉しい事だった。
「事情聴取とか長くて色々ダルかったが、割と高額かけられてたアベダをつきだしたおかげで、ようやく我が家ゲットだ!! へへっ!」
「あー!! ナッセー来てたー!?」
なんとリョーコが来て、ナッセは優しい笑顔を向ける。
「ああ、これからよろしく頼む!」