2話「リョーコが心配だ……!」
リョーコは、ナッセと自ら言っていた子供の銀髪が神々しく見えた。
「リョーコ、こんなんでも十と七だよ」
「ええっ!? うっそ!! ってか、なんであたしの名前知ってんのよっ!!」
そりゃ知ってて当たり前だ。前世でも絡んでくれたからな。
うっとおしかったが、死別してからは狂おしいほど寂しかったぐらいだ。また元気な顔を見られて安心した、とナッセは懐かしそうに微笑んだ。
緩んでいたナッセの表情は急に引き締まり、すごすごと去っていくデブの背中を見据える。
こいつも知っている。その男はアベダ。
強引な誘いで多くの女性を捕まえ、人身売買などを行う犯罪組織のブローカー。今回のように生計が苦しい女性の弱味につけこんで引き込む手口もあるが、大体は目立たぬ小さな村を襲って女子供をさらい、逆らう者は容赦無く殺す。
気に入った女性は盗賊団でヤりまくって、飽きたら商品にして売り出す。
そして彼には大きな力を持った帝国がバックについている。
この小さな大陸に目を付けて、国ごと牛耳って奴隷市場を広げていくつもりだ。今のアベダは裏社会で急成長を遂げている期待の新人犯罪者と言ったところだろう。
最初の頃の前世は手に負えないほど巨大な犯罪組織に育ってしまった。殲滅にかなり時間がかかり、その間に多くの犠牲者を出して国際問題にもなった。
「あの男を追いかけて、やっつけようなどと無謀な事しないでくれ」
「どうして!?」
「いいか! 絶対ムチャするな!! あの男など忘れてくれ、頼む!」
「あ、うん……忘れる」
知ってる。これだけ言って大人しくするリョーコじゃない。正義感に満ちている故、危険な事にも身を投じる。
リョーコの目を見れば分かる。許せないという睨み。その気性は前世でもそうだった。
仕方ないな、とナッセは溜息をつく。
「うん。心配してくれてありがと」
「おう。気を付けてなー」
ナッセはのんびりとした笑顔で手を振る。普通に歩き去って曲がり角へ曲がっていく。
「よし!」
リョーコは昂った闘志を胸に、駆け出した。デブが去った方向へと。
曲がり角で佇むナッセはそんな彼女の様子に、呆れ顔を見せた。やれやれ、と溜息をつく。そして鋭い眼光を見せた。
「……やはり相変わらずだなぞ」
最初の頃の前世では、アベダを怒らして惨殺されてしまう。
もう死なせはしない! 何があってもハッピーエンドへ導いてやる!!
前世での悲しき惨劇を胸に、ナッセは気持ちを熱く昂ぶらせていく。
「とりあえず、倒れている男どもは放っておけないな。あと玉潰しておこ」
レンガで竿と金を叩き潰し「ぎえあああ!!」&回復魔法で去勢を施し、念力のように男数人を浮かせて引き連れていった。
警備兵につき出しておかなきゃ。
周囲の人々の目が気になるが仕方ない。この『浮環力』は、今の時代にない。数十年先の魔法技術だし……。
「周囲数メートル範囲の対象に限られ、重量と数次第で消耗が変動する。まだこれくらい余裕だが……」
警備兵につき出すまで、リョーコ大丈夫かな。
この事件で“金玉潰し銀さん”と恐れられるようになったが、また別の話である。
人気のない山岳。枯れた木々も所々あり、燻んだ荒野が広がる。そして大きな廃墟。
サンライト王国からは随分離れたところだ。
リョーコは柄の長い斧を両手に、単身踏み入れた。毅然とした双眸で顔を引き締めている。
「おやおや。さっきの女戦士じゃねぇか。ようやく俺の女になる気になったか?」
アベダとかいうデブは、廃墟のベランダの上から見下ろしていた。
タバコをふかし、冷徹な目を見せている。
そして廃墟からぞろぞろとならず者の男達が群がってきた。下卑た笑いを見せ、うら若き女性の身体を睨め付けている。
しかしリョーコは「ふん」と鼻を鳴らし、身構える。
「群れてて、かっこ悪! そんなダサい男とは断然お断りよっ!」
「なにぃ……!」
とは言え内心、こんなに多いとは思ってもみなかった。何故人気のない山へいくのか不思議でならなかったが、ごろつき達と群れて追い剥ぎでもしているのだと察した。
妙に白銀の少年が制止してたのは、こういう事だからなのかもしれない。
「どうせコソコソと悪い事やってるんでしょうから、みーんなやっつけてやるわよ!!」
アベダはタバコの煙を吐き、不機嫌そうに眉を潜める。
「もういい! 俺の女になっておけばよかったと後悔させてやるッ!」
滲み出る極悪人の風格にゾッとしたが、こんなにならず者を引き連れているならなおさら厄介だと思った。ここでやっつけておかないと恐ろしい事になりそう。多勢に無勢で苦しいけど、戦士として戦わないといけないと使命感で体を奮い立たせた。
「行くわよッ!!」
森林の影で、何もない空間でヒビが走りガラスのように割れる。散った破片から亀裂の中の虚無が覗く。そこからナッセが飛び出して地面に降り立つ。ザッ!
その後、巻き戻しされたかのように破片が戻っていって虚無は塞がれて元通りになる。
「これぞオレの時空間魔法『空裂転移』だぞ。知っている遠く離れたところへワープできるが、距離に比例して消耗は変動する。大体消耗デカい。疲れっから、あんま使いたかねぇけどな……」
殺さずに倒した男どもを警備兵まで運んでつき出したから、ワープするしか追いつけなかった。
この様子だと間に合ったようだ。
「相変わらず世話焼かせる……ぞ」
木の影で呆れるナッセ。
あとがき
前の話で描写されているがリョーコは巨乳の設定です。
LINE小説では貧乳だったのでリメイクしました。
あと今作のナッセは時空間魔法使えるようです。