1話「妙な白銀少年ナッセ登場!!」
地上は荒れ果てている。かつて建物が立ち並ぶ栄光の都は、もうどこにもない。あるのは瓦礫が散乱し、半壊した建物がいくつか傾いている。
空は暗雲で覆い尽くされ、昼間だというのに薄暗い。そして冷え込んだ大気。もはや人の影すら窺えないほどに人類は地上から姿を消していた。ただ、置いてけぼりにされた文明の残骸が哀愁を誘う。
それでも一人、荒れた地上を歩く人間がいた。その側にサンライトイエロー色の二足歩行のネコがお供している。
「……今回もダメだったか」
「気にする事ないであります……」
黒髪に白髪が入れ混ざったボサボサした髪。破けたマントを羽織り、長い杖で支えながらゆっくりと足を歩ませている。手入れもしていない長い前髪から、鋭い双眸が窺える。
もはや彼一人、唯一の人類。絶望しかない世界。それでも彼の眼はサンライトイエローに輝いていた。
それでも閉ざされた絶望の世界で、彼は年老い天寿を全うするしかなかった。
命尽きた彼の胸元に、銀に輝く『鍵』が先っぽを挿し込んできた。まるで水面に触れたかのように波紋が広がり、深く埋めてくる。そしてガチャリとなにか開く音がした。
すると唐突に暗転し、気付けば床に巨大な時計が現れていた。針の代わりに鍵が一本と、放射状に囲むように等間隔で並ぶ時字まで現れていた。
「また、やり直すしかないのか……」
やがて鍵はチッチッチと反時計回りに刻み始め、次第に加速していく。すると時字は螺旋階段のように下へと続き、鍵もぐるぐると追いかけていく。それに伴い周りの風景が下から上へと流れてゆく。
すると彼の体からキラキラと光飛礫を撒き散らされ、どんどん若く肌が潤っていく。
徐々に身体は子供へと若返っているようだ。
残った黒髪が白銀へと徐々に薄れ、赤ん坊へと収まったところで白光に包まれていった。
澄み切った青空。希望に溢れるかのような眩しい太陽の光が地上を暖かく照らす。
緑生い茂る大草原の最中、一つの王国が悠然と建っていた。それを視界に一人の少年は懐かしげに笑む。魔法使いの漆黒ローブ。短めの鋼鉄の杖を刀のように腰に差している。口元が隠れるか否かのマフラー、その左右の端が風に揺れて舞っている。
「やはりサンライト王国はこうでなくちゃな」
白銀の髪が風に揺れる。幼い瞳には鋭い何かを窺わせる。その眼光は年相応のものではなかった。そして我が家へ帰るかのように少年はサンライト王国へと足を踏み入れた。
「そんなのお断りよっ!!」
聞き慣れた甲高い声に、少年は思わず振り向く。どうやら女戦士と男が揉めているようだ。
女戦士は、金髪のおかっぱに巨乳。体のラインに沿ったレオタードに、肩当て、ブーツ下など狭域の鎧が装備されている。首にはチョーカー。
全体的に女の子なファッションである。
彼女はリョーコ。前世でもよく絡んできた女性の一人だ。
そしてその女の手首を強引に引っ張ろうとする長身の男。黒髪のボサボサした髪型。太った体。心の歪みを表す濁った目を窺わせていた。
「このアベダ様の女にしてやるって言うんだ! ありがたく思え!!」
「そういう男はあたしは嫌いなの!!」
「てめぇ……、役立たずの戦士で生計立てれるのかよ!? 大人しくいく俺の側で奉仕してりゃいいんだよ! すけべな体だけしか能のないお前は、それしかねぇんだからな!」
アベダとかいうデブの後ろには取り巻きの男が数人騒ぐ。
「おお~!! 羨ましいぜ~! 俺らにも回してくれよ~!」
「このアベダ様が先に味わってから、回り回りヤりまくれ」
「いよっ! お頭ァ、優しい! へっへっへ!」
取り巻きの男どもは、ニヤニヤ卑しい笑みを浮かべている。
「さいってい!!」
その言葉にカッとなった女戦士はアベダとかいうデブの頬を引っ叩いた。デブはすぐ激昂し、握った拳を振るう。
が、白銀の少年は掌で拳を受け止めた。驚く女戦士とデブ。
「嫌がる女性を殴って服従なんて、いい趣味じゃない。退け!」
「……このガキ、なんだァ!!」
デブは乱暴に拳を引き、白銀の少年へ睨みつける。
少年はフッと笑う。
「よくぞ、聞いた! 白銀の魔法使いナッセとはオレの事だ!!」
ビシッとポーズを決めて杖をかざす。しばしの白けた間が吹き抜けた。唖然とする女戦士。
イラっとしたデブは「ガキはすっこんでろ!」と吠える。
「ってか、大の男が数人で女ひとりイジめてんのかよ? 恥ずかしくねぇのか?」
「なんだと!?」
「恥ってのを知ってんなら「ゴメンなさい」して尻尾巻いて帰れ。小物集団」
それで激昂したアベダは「あのガキとっ捕まえろ! 死ぬより痛い目に合わせてやる!」と取り巻き数人に命令。
男たちも激怒してて騒ぎながら襲いかかってくる。
リョーコは「あっ!」と萎縮。
「不殺版、爆裂連弾ッ!!」
銀髪の少年が拳を突き出すなり、弾くように掌に開くと高速弾が斉射され、数人の男は爆発に呑まれた。
ボボボボン、爆風で宙を舞った男たちにアベダは絶句。
鋭い目をした少年に「殺してないが、続けるなら容赦はしない」と凄まれ、アベダは「う……ぐ……!」と怯む。威圧してくる“なにか”に震えるしかない。
「お……覚えてろ……!」
アベダは悔しく歯ぎしりして、この場をすごすごと去っていった。
「ふう……」
「大丈夫? まだ子供だし無理しないでよね」
「どの口が……」
息をついた少年に、女戦士は駆け寄る。しかし輝くような白銀の髪は珍しい。いや銀髪の人間など見かけないわけではないが、この子供の白銀には神々しい雰囲気があるように見えた。
あとがき
LINEで書いていた小説を多少リメイクしています。
その頃はいい加減に書いていた。ちっと反省はしてる……。
最初の三話同時掲載から毎日連載です。よろしくお願いします。