表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
囚われのアゲハ蝶  作者: 蝶々ここあ
第一章 蜘蛛
1/57

01 懇願

この作品は昔、「魔法のiらんど」という携帯小説のサイトで書いていた作品のリメイクになります。

加筆、修正も行っていきますのであの時出会った方も新しく出会ってくれる方も楽しんでいただける作品にしたいと思います。


目標はメディア化、書籍化です。

揚羽達の物語をどうぞお楽しみください。

「頼むッ……!! お願いだ揚羽(あげは)!!! 俺に一千万貸してほしい!!」


 久々の愛する恋人とのデート。待ち合わせは恋人達が集う有名な公園のベンチ。沢山のカップルが愛し合い、幸せそうな声をあげている中、重苦しい表情でずっと俯いていた彼氏の拓也がようやく口を開いたかと思えば、突如、揚羽はこの言葉を突きつけられた。


 彼氏の拓也とは久々に会う。ここ数ヶ月、お互い忙しい日々が続いてて電話でしか声を聞くことができず、ようやく聴いた愛しい恋人の声は記憶にある優しくて力強い音色とは裏腹に、ただひたすら惨めで情けない声で揚羽の鼓膜を刺激した。


「……ねぇ、ちょっと待って……? いっ、一千万……? どういうことなの……?」


 甘く楽しいひと時を想像していたはずなのに……私は今、何故こんなお願いをされているのだろう? そんなことを思いながらも、ようやく絞り出せた疑問の声は驚きと戸惑いを隠しきれず、細く震えた。目の前にいる拓也は顔を伏せたまま、涙交じりの声で言葉を続けた。


「……死んだ親父が……残した借金なんだ……」


 ポツリポツリと拓也は言葉を続けた。


 数年前、他界した拓也のお父さんが作った借金が今頃になって判明し、ここ数ヶ月その取り立てから逃げるように生活をしていること。


 拓也の亡くなった父と母はすでに離婚しており、母は今遠くの田舎で新しい旦那さんと共に幸せに暮らしていること。


 その幸せを壊したくないため、母には一切頼れないということ。

 当然、父方の親戚とは疎遠になっているため誰にも頼れないということ。


 そんな説明を聞かされ続け、私はとにかく頭の中が真っ白になっていた。大好きな人が今、人生最大の危機に直面している……、当然、力になってあげたい……! でも、一千万だなんて、用意できるわけがない……


 どうすれば……どうすればいいの……?


 ぐるぐるぐるぐる頭の中が混乱して知らず知らずに不安な表情が出てしまっていたのだろうか……? じっと顔を見つめられ沈黙が少し続いた後、そっと拓也が口を開いた。


「ごめんッ! ……こんな話……されても困る……よな?」


 目の前の彼はへらっと力なく笑う。すでに茶色の瞳には光を失っているように見えた。


 どこか遠くを見据え、ふらっと力なく座っていたベンチから立ち上がったかと思うと、私の目の前に立ち、そのまま隣に座っていた私の体をぎゅっと抱きしめた。


「こんな話……揚羽にしか相談できなくて……甘えてた、ごめん……ッ」


 拓也に抱きしめられ触れた手がかすかに震えていた。さっき、ここ数ヶ月逃げるような生活をしていたと拓也は言っていた。


 それはただお金がすぐに用意できないから逃げていただけなのか……

 それとも命の危険に晒される恐れがあったからなのか……


 響く怒声、鳴り止まぬインターホン、目も当てられないような嫌がらせの数々……。どれも自分の幼い記憶に刻まれた、決して忘れられないような恐怖を、今、拓也が味わっていたとしたら……?


 そう考えると私自身も体の震えが止まらなかった。


「大丈夫……なんとかするよ。今日はせっかくのデートだったのに、ごめんな……」


 ぽんぽんと優しく頭を撫でられ、そのままスルッと抱きしめられた腕が解かれる。抱きしめられた温もりはあっという間に消えてなくなった。


 このまま……このまま拓也を離してしまったら……二度と会えないような気がした。


「私が……ッ! 私がなんとかするよっ!」


 掠れ切った声、お金を用意する当てなんて全然ないのに、私はそんなことを口走っていた。拓也は思わずその言葉にキョトンと目を丸くする。でもすぐにフッと優しく微笑み、そして力なく歪な笑顔を浮かべた。


「ありがとう……やっぱり……揚羽だけが俺の味方だよ……」


 そう言ってもう一度抱きしめられる。角度的に拓也の顔は見えなかったけれど、きっと少しでも安心した表情を浮かべてるに違いないと思った。


 私が一番苦しかった時に寄り添ってくれたこの人のこの温もりだけは絶対に手放したくない……。そんな淡い気持ちでいっぱいになった揚羽とは裏腹に拓也は怪しい笑みを浮かべていた……。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

貴方にとって、特別な物語になれますように。


少しでも面白い、気に入って頂けましたらご感想やブックマーク

そして広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に評価していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ