偽りの夫婦 -夫の証言-
僕が帰宅すると、晩御飯が無いことがあった。
ちょっと具合が悪くて、とさおりは言った。
僕の仕事は18時に終わるし残業は無いから、いつも19時には帰宅する。
朝は元気だったのに、と心の中で少し思ったが、作ってはもらえないようだ。だが、外食する余裕もない。給料前だ。
仕方がなく、家にあった材料でカレーを作った。ご飯は炊けていたので、さおりの分もお皿に分けて、部屋にいるさおりを呼んだ。
彼女は、ベッドに寝転びながらスマホをいじっていた。
カレーを一口食べるなり、
「これ、美味しい。ゆきくん、カレー作れるんだねー。知らなかったぁ。」
と、口にほおばり、バクバク食べた。
あろうことか、おかわりをした。
僕は、これだけ食べられるのであれば安心だと思い込むことにして、仮病については深く考えないことにした。
案の定、彼女は翌朝には元気にしていたし、ちょっと疲れていただけなのかな、なんて思ったりもした。
でも、彼女は、その後も何度も僕に家事を手伝わせた。
彼女は、いつも家にいるのに。
僕は、彼女が晩御飯を作らない日のために、スーパーで安売りのカップラーメンを何個か買い置きして、戸棚にしまっていた。休日に戸棚を開けたら、それらはなくなっていた。彼女が食べたらしい。僕のお小遣いは少ないのに。
腹が立ったので、食べた分は買って補充しておいてね、と言ったら、そんなお金はないと言われた。昨日、ラーメン屋に2人で外食しに行ったからだと言う。安いチェーン店のラーメン屋だ。2人で2千円ちょっとだ。
彼女が2万円もするダイエット器具を買ったりするから、僕の給料はすぐなくなっちゃうんだ。僕は反対したのに。彼女は、離婚の言葉を口にしてまで、それを欲しがった。
「ゆきくんには分からないかもしれないけど、わたしには、必要なものなの。」
と、怒っていた。
専業主婦に休みは無い、友達と旅行に行くお金もないとあれこれ文句を付け嘆いた。
僕は、もう好きにしろと言った。なんでも好きなもの買えばいいだろと言ってやった。
先月僕と喧嘩してまで手に入れたそいつは、毎日使うと言っていたが、今週はまだ一回も使っているところを見ていない。もちろん僕が使うことも無い。邪魔だ。
彼女の口からは、あれが欲しいだとか、これがしたいだとか、節約に協力しろとか、お金の話ばかりが出てくる。それ以外は、韓流アイドルとかテレビドラマのイケメンの話だし。僕は全く興味がもてない。休日には出掛けずに、スマホでマンガを読むことが僕の趣味になった。
喧嘩するたびに、彼女は離婚の言葉を口にした。
でも、僕はさおりとの生活を終わりにするつもりは、無かった。
ある時、彼女がひどい言い方をしてきたので、僕はつい、離婚の言葉を口にした。
彼女は、喧嘩の時、いつも僕に言っているのに、僕が口にしたとたん、ショックを受けたみたいだった。
それでも、喧嘩がなくなるわけではなかったが、僕たち夫婦はそうやって寄り添っていくのだろうと思う。
終わりです。
母性の映画楽しみー。