優勝して異世界へ!
「メーン!!」
7月。
高校剣道全国大会決勝戦。
その決着は一瞬で着いた。
「そこまで!勝者、小林剛!」
審判のその言葉と同時に会場は歓声に溢れた。
だが、しかしその歓声はすぐなくなってしまう。なぜなら試合の舞台に4人目の人物がいたからである。
勝者、敗者、審判、そして少女。その少女の言葉を聞いた瞬間人たちの声が止んだのである。
「見つけました!この世界の英雄!私をあなたのお嫁にしてください!!」
「……え?」
小林剛はとぼけた声を出し、そして会場はたくさんの罵倒が飛びかう。
「おい!ロリコン野郎!優勝したからって調子乗んじゃねえよ!」
「死ね」
「消えろ」
「ハゲ!」
いや、禿げてはいない。そもそも兜を被っててなんでハゲだと思うんだよあいつ。
それより、この少女、年齢は見たところ小学生にしか見えない。
「君ダメだよ。まだ試合中なんだから、ほらお母さんのとこ行ってきな」
「握手」
「え」
「握手してください」
「な、なんだ。ファンなんだ、仕方ないなー」
俺は少し戸惑いながらも少女に握手をして欲しいと頼まれたので仕方なく握手をした…はずなのだが…握手をした…とこまでは覚えてる…うん、握手をしたのかだが、いや、なにこれ?ほんとに…
「なんだよこれー!?」
目の前は握手をした瞬間に会場ではなく洋風の御屋敷の中の雰囲気の場所に変わっていた。
「おいどこだよここ!てか試合は?無敗の名に傷がっ!…ってもう勝ってんのか。じゃあいいやってよくなーい!」
「おっ落ち着いてください!ここは国王のお城ですのでお静―」
「おい!何やってんだそこのお前!侵入者か!どうやってここに!?」
何やら昔の物語に出てきそうな警備員みたいなやつが俺の方を見て何かを言ってくる。あいつがここの管理人なのかもしれない。
「いやー、大人の方ですか?よくわかんないんですけど、気づいたらここにいて。ここって何市ですか?すぐ高校に戻らないといけないんですけど、表彰式がってぐふっ!」
隣にいた迷惑少女が俺の口を抑えてきた。
「すっすいません。この方は私が国王に連れてくるように言われてまして」
「これはこれは。クラハ様では無いですか。これは失礼。ちなみにそこの彼は?見たことも無い格好。新手の鎧?」
その警備員はこの少女クラハ様(?)とやらに深く敬礼をした。
あれ?これはもしかして演劇?ドッキリか。
「なんだなんだ。そんなことか、なら乗ってあげますよ!そうです、これは鎧です。どんな攻撃も通さないんですよ」
多分中世の時代を描いた演劇なのだろう。なら少し楽しんでみるのも悪くない。
「え?剛様それは鎧なのですか?私の知識ですとそれは道着だと思うんですけど…」
クラハ様とやらが俺の鎧に文句を言ってきたが「おい。これは演技だから仕方ないだろ。これは最強の鎧っていう設定なんだよ」
「なるほど、最強の鎧ということはあの魔道具以上の強度なんでしょうか?少し軽い攻撃をしてみていいですか?」
「あ、あぁ、いいよ。じゃあ軽くな」
「あ!ダメで―」
なるほどこの展開だと俺の鎧の硬さにこいつが驚くって言うような感じなのかな。まぁ、少しダメージを受けたフリぐらいはしてや―ッ!
「す!それは鎧なんかではありません!」
クラハ様が叫んだ時は時すでに遅し。俺の体は思いっきり壁にたたきつけられた。
「これが最強の鎧?大したホラ吹きではありませんか。それか、身につけている者が相当弱いかw」
俺は背中を強打して気を失いそうな中、クラハ様のこんな言葉が聞こえた。
「彼は異世界から連れてきた私の夫です!あちゃー、これじゃあ死んじゃいますよ!ほんとに気をつけてください!」
異世界?死んだのか俺?あぁ、なるほど。これはドッキリでもなんでもねぇ。
ただの誘拐殺人だ…。