森人まがい
………故郷からどれだけ離れたのだろう。
鉄の檻の中…聞こえるのは焚き火の音と他の子達の寝息…このままここで一生過ごすのだろうか。
いや…私達を売ると言っていたからそれはないか…
ごめんね…昼間は「大丈夫」なんて言って…そうでも言わないとあなた達は、ずっと泣いてただろうから。
そう言う私は、どうすればいいんだろうって何日も考えて何日も寝ていないし…
もしかしたら「大丈夫」ってか言葉はあなた達じゃなくて自分に言った言葉なのかな…
「はぁ…寝よう」囁くように言葉が漏れる…こんなこと何度も言ってるのに寝れてない。
売られるなら高く売られたいな…この子達より高く…
バサ!………?風が私を乗せた荷馬車の布を捲った。
ザワザワ…ザワザワと森の囁く音…聞き慣れ過ぎて他の音が聞こえたらすぐわかるようになってしまった。
無理もないここに来てもう7年が過ぎる意識せずとも耳が冴える。
「あぁあぁ!!」
襲撃者の足音もだ…腰につけた手作りの木刀を握り背後から棍棒を構えるゴブリンの首元に近づける。
……耳に付けてる黒い葉の飾りがない彼の傘下ではないようだ。
「あなた…ここは豪傑公の住処であることをお忘れで?」
基本…ここのゴブリンは一体の長が率いている…その傘下は必ず黒く染めた葉の耳飾りを身に付けているためすぐわかる。
「知ってるよ…その前に腹ごしらえをしたくてな。
お前は、肉がしまってうまそうだよ…」
微笑みながら述べている…余裕の口ぶり。
そして右親指を立てて何かのサイン。
目視した瞬間バッグステップで距離を取りさっきいた場所に矢が通る。
2体いや音的にもう2体合計4体…分隊だろう最近森を荒らす不届き者がいると会議で出てた…原因はこいつらだな。
(《森林の管理者》経由…豪傑公傘下から連絡……縄張り奪取目的のゴブリン襲来…森荒し可能性あり。)
読み通り…《分析》と《森林の管理者》による連絡網だ。
登録した植物に直接伝えるとそれを《森林の管理者》がキャッチして《分析》が伝えてくれる。
ゴブリンの襲撃者は珍しくない年に2回程の行事で返り討ちにするのがここのセオリーだ。
「言っておきますけど…彼に勝つなら一族全員でかかったほうがいいですよ。
バラバラに動くのは愚行です。」
冗談ではない…彼の実力と彼らの実力では雲泥の差があるからだ。
だが彼らは聞く耳をもたずクスクスと笑っている。
「あっそ…」
手前から突撃…それと後ろから3体目が飛びかかる…サイドステップをして対応し弓を警戒しつつ冷静に1体目のみぞおちを突く。
断末が響くが気にせず3体目の2撃目を上に弾きつつ上に打ち上げた。
残り2体…1体は弓兵もう1体は少し遠…
(伏せろ…森人まがい)
…っあ…《以心伝心》の派生スキルによる伝令だ…しかもこの声…無視したら死ぬ。
直感した僕はすぐに伏せた………2体目のゴブリンはチャンスと言わんばかりに弓を引くがもう遅い。
爆音が遠方から響き2体目は真っ二つになった。
音からして彼が投げたのは敵から奪ったナイフだろう弓ならもう少し高い……どっちにしろ今頃粉々だろうが。
あぁ…こうなったら終わりだな…4体目の音が遠のいて…多分逃げてるし。
まぁ一様聞いておこう…
「豪傑公…聞こえます?掃討が終わったら後で僕か妖炎公に連絡お願いします。」
(……了解した。)
「はぁ…」思わずため息が出た彼は力が物理的にも社会的にもあり過ぎるため下手に手を出せない。
出会った当初《分析》に頼んでステータスをみたら筋力数値約3000とかいう怪物だったのはよく覚えている。
自分の約7、8倍…余裕で粉砕される。
要因を聞いてみた所昔人間の戦争に傭兵として巻き込まれたらしく数多の兵士を下した歴戦の戦士だったらしい。
少し話は遡るがそんな彼らと戦いにならないのは、ある契約のおかげだったりする。
僕は、ボスギツネ…妖炎公に連れられこの森の生態系の幹部達の会議に参加したのだが。
その際自分が生態系の管理を仕事とする森人…エルフの混血だったことや幼体だったことが功を奏したらしく。
一時的な措置ではあるが妖炎公の管理扱いで10才までは森に残る事となった。
ただし連絡役として豪傑公に使われる事が多く彼とは交流が多い。
訓練兵の育成のための剣術指南…資材調達…掃除…などはっきり言って妖炎公よりハードだ。
彼らの場合毛並みの調整…資材調達…小狐のお世話などの為きついがこちらがありがたい。
まぁどちらにせよ剣術のリハビリにはなってるし新しいスキルも何個か習得できている。
生活も安定しているし巣立つまではまだここには居続けるつもり…
(《森林の管理者》経由…豪傑公傘下より連絡……敵ゴブリンの掃討完了…だが侵入したのは数日前と推測…森荒しの可能性は低い。)
………?《分析》からの連絡だ…荒らしたのは彼らではない?
この森では数週間森荒しの報告がある木の大量の伐採…不可解な有毒の死骸…焚火跡などが主だ。
ゴブリンも森の一部を開拓する為前程襲撃した彼らが原因と考えたが違うようだ。
妖炎公と豪傑公の地域に被害が集中しているため他人事ではない…調べる必要がありそうだ。
「《分析》…《森林の管理者》経由で妖炎公と豪傑公に連絡をお願いします。
内容は、夜間探索…人員は僕と各陣営から合計3部隊の探索部隊を提案します。」
(了解しました。)
………
……
…
夕方…提案が許可され僕は、妖炎公傘下の狐2体と組み。
人員は多いに越したことはないとのことで追加で各陣営から追加で2部隊…合計7部隊での捜索となった。
「なぁ森人…記憶に自信ねぇから確認するけど。
オレら側がオレらのナワバリ…ゴブリンたちが自分のナワバリ…そんでオレらがその境目で森荒しを探す。
これであってるか?」
今狐のひとりが確認して来た通り…僕は、その境目での捜索だ。
「はい…何か気付いたら軽く1回吠えて下さい。
見つけても突撃せずそれぞれの陣営に報告する事になってますのでそこも注意してください。」
「わかった」そう言う…いや正確には喋ってないが狐達は頷いた。
今更だが僕も《以心伝心》を習得したため彼らと会話が可能だ…おまけとして《森林の管理者》を使う事で登録した植物から遠隔で通話も可能で各陣営の領地に1つづつ設置し妖炎公が拡張してリモート会議に使われることもある。
もう慣れてしまったが人間以外が使うと割とカオスな光景になっていて…最初は落ち着かなかったことを覚えている。
そんな事より今は探索だ…目眩を起こしづらくする為に一度目を閉じる。
スキル《狐の慈愛》…《ベルソー・ロの加護》同様…同時に複数のスキルを習得するスキルだ。
僕はその中の1つ《暗視》を起動し視界を鮮明にする。
「よし…視界良好…行きましょう。」
「おぅ!」「了解」2体は頷き鼻を地面に当てた。
………
……
…
しばらくして…日が落ち完全に夜となり月明かりが照されている。
捜索時間は時間の概念が薄い為特に設定されていないが妖炎公が合図するらしいので…まだなのだろう。
体感10分事に3人でローテーションをまわしている為あまり苦ではないがそろそろ合図が来てもおかしくな…
足に柔らかい毛の感覚…嗅ぎ分けている狐が立ち止まる。
「どうしました?」
一定の場所を集中的に嗅ぎ分けて「おい」ともう一体の狐に確かめさせる。
もう一体はそこに鼻を当てると「なぁこのあたりってお前あんま来ないよな?」と僕に質問する。
僕は基本…ゴブリンたちとの関わりもあるためこのあたりを回ることは多いが確か最近ここは比較的来た記憶は無い。
即座に首を横に振ると狐達は「あたりだな…」と言って慎重に歩く。
「何か分かりましたか?」
「このあたりだけお前っぽいけど違うにおいがするんだ…
多分人間か森人。」
彼ら曰くエルフは森の管理者だから荒らす事はない…
となると消去法で人間の仕業となる。
理由は、恐らく開拓か?いやならば近くの村を経由する必要があるだが村は賑わっていない…どういう…
「いた」…狐と同じ方向に視線を合わせると焚火の光が見える。
慎重に接近し《森林の管理者》を起動し最も近い木に視点を変えた…
盗賊か?見えたのは20から40ほどの男約7名…全員が弓や剣などを所持しており…共通して顔にターバンのようなものを巻いている。
「多分お前と同じ種族だよな?」狐の一人が質問した。
「恐らくは…ですが同族を襲う野蛮な連中かもしれません。
ここは手はず通りにあなた方は近くの両陣営部隊に報告をお願いします。
僕は見つかっても問題は少ないため監視します。」
「「わかった」」狐達はこういうと両陣営の方向に分散した。
「《分析》…妖炎公と豪傑公に連絡…
内容は、容疑者発見…人間の賊と思われます。
現在監視中です。」
(了解しました。)
よし…念の為とりあえず確認する為接近する。
視界に使った木まで接近し正確な情報を確保する。
ここは崖の近くで木も少ないため野営には相性がいい。
現在は………食事中か焚き火を囲うように2人を除いて座っている。
……?なぜ荷馬車が2つ?あの人数と馬車の大きさがつり合わない。
密輸?…何を…日本の税関密着を参考にするとありえるのは食べ物や薬物か…いやここはファンタジー世界…純粋に高価な武装や書物の可能性もある。
(森人まがい)
……!豪傑公の《思念伝達》だ…遠隔で相手に意思を伝えるスキル…はっきり言って便利な代物だ。
「豪傑公…こちら森人まがいです。
現在…賊とおぼしき人間の男7名を確認…監視中です。」
(知っている…目的はわかるか?)
「推測ですが…密輸かとただ搬送物が不明…今は何とも言えません。
角度を変えて内側を確認します。」
(わかった)
左に回るように移動する………がダメだ裏側を見るが暖簾のような布が邪魔で見えない。
(見えたか?)
「いいえ布が邪魔で風魔法を使えば見えるでしょうけど…怪しまれるかと…」
(………近くに人間は?)
何か策があるのか?
「………見る限り一人です。」
(…使え……そいつだけを誘導しろ。)
なるほど…見るだけならばそれで十分だ。
となると右か左か……予想だが右が一番焚き火に近い為違うと思う。
物を隠したい時は光から無意識に隠すものだと思う…つまり狙うのは…
手元に風を集中させて《エアショット》を起動する。
狙うのは…ひだりが…っわ!!
よし…当たりだ中身は……
檻?鉄の土台が一瞬見えた。
ダメだ布が想像以上に厚く見えたのが局所的だから檻の中身までは見えない。
「はぁ…j:ga?」
…!監視が気付いた…姿勢を低くしてゆっくり身を潜める。
これで中身が見え…っは?
エリア解説
夜月樹海
魔物の多発地帯で夜の月明かりが鮮明な為この名が付いた。
大きく山岳、森(妖炎公領)、川(豪傑公領)で分けられ個々のエリアは、一体の魔物が統率しその魔物達は三公と呼ばれている。
ハーフエルフの目覚めたベルソー・ロの木は森エリアと川エリアの境目にある。