狐
静かに故人が眠る場所ここに俺の兄がいる。
兄と言っても血は繋がっていないどちらかと言うと近所のお兄さん的な立ち位置の人だった。
親の仕事がら一緒にいる事が多かった為気軽に話せる仲だった。
高校生になった事や祖父が元気にしている事を一輪の花と一緒に伝えに来…
「…あ」「………ん?…おぅ若久しぶり。」
祖父の仕事で用心棒をやっている男だ…と言っても娘が産まれた為今は争い事には手を出さないように命令され今は子育て優先で組を離れている。
彼は兄の師匠だし今日は彼の命日の為あってもおかしくはない。
「久しぶり…あんたも兄貴の墓参りに?」
「おぅ…そんなとこ。」
軽く話し花を花瓶にさして合掌する。
兄貴…俺高校生になった…周りともしっかり馴染んでます。
じいちゃんも元気です…まだそっちには行きそうにありません。
………合掌をやめる。
「もう四年になるのか…兄貴がガキ庇ったのも。」
「そうだな、何処かの回し者の仕業かもって組が荒れた荒れた…」
実際はただの交通事故だった兄は、ベビーカーをつかもうと必死になってしまって車にきがつかなかった。
子供は無事だったが兄は打撲と出血多量で酷い有様だったらしい不幸の連鎖により起こった事故だが当時の俺は納得していなかったのをよく覚えている。
暗い雰囲気はだめだと思い話を切り替える。
「そういえばあんたの娘最近どうだ?」
「…ん?あぁ…自分が女だって自覚し始めたな一様剣術も教え続けてるしボチボチだし大丈夫だと思う。」
記憶が確かなら小3あたりだからそんな年頃なのだろう。
「あっ…そういや…」
…?突然何かを思い出したようだ…
「こいつと娘で思い出したんだかな…変な夢見たんだ」
兄とこいつの娘で…どういう組み合わせ?
「多分こいつだと思う小娘とあったんだよ…二ヶ月位前かな…」
兄に似た女の子…性格的な話か?
「そんで出会った時みたいな状態でな目が霞んでたんだよ。
そんで試しにあった時と似た言葉を試しに言ってみたんだ…そしたらアイツみたいなリアクションしたからそこで確信したよこいつだって。」
そう言うと彼の寝床をそっと撫でる…まぁ彼だって未練があるのだろうそういう夢ぐらい見るか。
兄っぽい女の子か…実際あってみたいがあくまでも夢の話だし現実的ではないかな。
とりあえず箱からの脱出はできた。
問題はここからだ…優先事項は、
1食料の確保、2森からの脱出、3剣術のリハビリ
この3つだ…1は、目星を付けているからいいとして。
2は、退路を現在進行系で捜索中。
3は、木刀代わりになる枝があれば嬉しいが…
とりあえず今できる事である1を消化しよう…その前に。
立ち上がり箱の隅に刺さっている12本の針を見る。
ずっと自分を封じてきた抗魔針と呼ばれる釘。
五百円玉ほどの太さをしていて横幅はわからないが現状武装と呼べるのはこの針のみ…引き抜こう。
内側に刺さっていた釘であるためか方向に棘があるが付け根の部分にはわずか5ミリほどではあるが隙間がある。
一度箱を横に向けて右上の一番角の針…その隙間に指を突っ込み力いっぱい引っ張る。
ゆっくりと横の幅が姿を表して手で握れるほどの幅が確保できたので針を握って引き抜いた。
「はぁ…なが」
思わず声が漏れた…約20センチの長い針なのだから当たり前の反応だろう。
「こんなものを子供の入った木箱に刺すって殺す気ですか?」
………いや殺す気だったのだろう木箱の中にいたときなぜこうなったか考察していた。
恐らくだが自分の種族関係しているのだと思う。
ハーフエルフ…ファンタジーではありきたりな種族だが、エルフでも人間でもないため居場所が少ない種族ではある。
それにエルフは作品にもよるが純血を求める誇り高い種族というイメージもある。
その推理が正しければ母方はエルフで父方の人間に犯されて妊娠…おろすことができず出産してこの形を取った。
父方と母方の種族が逆の場合多分自分は、孤児院にいたと思う。
母方が人間の場合純血より母性愛を優先すると思うからだ。
………待てよ仮に街に出たとしよう、それで推理通りならば自分の居場所はあるのか?
………思考の放棄は良くはないがこれは脱出した後で考えよう。
生存を優先するなら一旦人のいる場所にいたほうがいいし。
それより今は食料だナイフの代わりも手に入れたしさっきから腹の虫が鳴り止まない。
とりあえずは、目星を付けている場所に移動しよう。
脱出の必要な為《森林の管理者》を起動させていると稀に鹿やうさぎなど動物を見ることがあるのだが。
木箱の正面からみて左の方向に川がある…そこには実のなる低木があるため動物たちの食料庫となっているのだ。
当然肉食の動物や魔物も現れるが死角が多いため厳重に注意すれば割とあっさり掻い潜れるようなのでそう難しくはないと思う。
………
……
…
割とあっさり取れた…いや気を使い過ぎたのか。
自分でやるのは初めてだから警戒しすぎたのかはわからないが目当ての柑橘類の木の実は1つ入手できた。
実は黄色く熟しているし動物が食べていたし毒はないと思うが念の為に…
「《分析》この木の実についての詳細をおねがいします。」
(了解しました。
しばらくお待ち下さい。)
検索している合間に抜いた針で皮を剥く《水魔法》で洗った為一様は清潔だ。
先程気づいたのだがこの針…切れ味がかなりいい。
鉛筆のような持ち方をすれば簡単に切れる…まる3年野ざらしだったのにだ。
高層建築物ように使われると《分析》が言っていたがあながち嘘ではなさそうだ。
(分析が完了しました。
ヘスペル
柑橘類の一種で人体には無害です。)
よし…一通り皮も剥いた毒もないし熟れてる。
転生から初めての食事だ両手を合わせしっかりと作法をしよう。
「いただきます…」
中身はほぼみかんと変わらない為一部分をちぎって口に入る。
………うん食感はまんまみかんやオレン……
「…かはっ!…けっほ!!けっほ!!うぅ…」
………苦い…酸っぱいきつい初めてグレープフルーツを食べたときと同じ感触だ。
まだ熟してなかったのかそれとも元々こういう味なのか?
(両方です…ヘスペルは元々酸味が強く砂糖漬けにして食べられたり調味料として扱われます。
それと熟れる際は赤くなり黄色い状態だと薬草として使われます。)
「はぁ………はぁ…柑橘類って…薬草…に使えるんだ。」
(可能です…実際みかんの皮は血液に良いとされていて漢方になっています。
ヘスペルの用途もほぼ同じです。)
「へぇ…」
ならばミスったな…赤い実があったのに熟し過ぎと誤解して黄色い実を持ってきてしまった。
赤い実のほうがまだマシだったのか…
とはいえ…一度食べてしまったものは仕方ない貴重な食料だ…残すわけには行かない…いただかなけれ…!
………物音しかも近い…この時間帯なら近寄るのは鳥かうさぎ。
だが今のは重量的に間違いなく別の生物…恐らく捕食者。
即座に判断を下しすぐに木箱の中に隠れ蓋を閉める。
《森林の管理者》を起動して周囲を見渡した。
………やはりか、一匹の狐だ。
彼らは、夜間ここのパトロールをしていて自分の最初に発見した動物でもある。
僕のことは食えないと思ってくれているのか4ヶ月程した頃から無視してくれている…だが今はわけが違う。
外に出れている彼らに高い知性がある場合襲撃される恐れがある。
念には念を入れておいて損は無い…でもなんで昼間からここに…
場所を追いやられた…違うと思う彼らは森の生態系でもトップクラスで熊を食いちぎっていたしゴブリンとは基本争わないから可能性は限りなく0(ゼロ)だ。
獲物を探している…これが一番高い昼間はここに来ないというだけで基本どの時間帯でも狩りをしているから。
………考えたくはないが自分の匂いに気づいてここに来たと考えるのが妥当か。
どうやら後者が当たってしまったようだ…さっきまでみかんもどきを食べていた場所を重点的に鼻を地面に付けている。
ここには来ないでくれと強く祈るが思いは届かずこちらに近寄る…箱の前に近寄るとスン…とため息を吐く。
彼はこれは食べれないと知ってるはず見逃してくれる…
「ボウッ!!」
………!!火球!?そんなものどうやって!?
あぶり出すつもりだろうか…いやそんなことどうでもいい…
即座に箱を横向きにして蓋を蹴飛ばして脱出する。
すぐに針を取り出し蓋を持ち上げて体制を整える。
彼は、薄紫の火球を3つ構えて僕を明確にロックオンしている…逃げたいが逃げ道がない。
戦闘は避けられない…情報が欲しい。
「《分析》彼の解析をおねがいします。」
(了解しました…しばらくお待ち下さい。)
接近戦は恐らくだが筋力数値400の自分が有利だが相手は狩猟の手段を複数持ってる可能性が高い。
どうしたもの……来た火球がこちらに飛ぶ火なら水!
盾代わりの蓋を構えて更に《水魔法 スプラッシュ》を起動する。
ジュウジュウという音と共に衝撃が体に伝わる…威力が高いのか体重が軽すぎるのか体制が維持できない。
すぐに盾を捨てて足元に《風魔法 エアショット》起動して加速…距離を詰める。
針で頭を刺そうとしたが左サイドステップで避けられる。
「チィ…」思わず舌を打つ。
狐は、再び火球を呼ぶ今度は5発…《スプラッシュ》がでは軽減はできるだろうけど完全に防御できない……ならば!!
火球の発射とほぼ同時に《水魔法 アクアスピン》と《風魔法 エアコントロール》を起動させて水を内と外から高速回転させる。
防げないなら軌道を反らせばいい…策は成功し火球はすべて渦で方向がそれて被弾を避けた。
間髪入れずに《エアコントロール》を解除して《アクアスピン》を前に突き飛ばす。
だが読まれていて…ひらりと避けられ牙をむける。
ぎりぎりまで引き寄せ体を左にひねり避ける。
その勢いで針を刺そうとするが火球を盾にされ刺せない。
本能では明確に間に合わないはずの攻撃を防いだ…高い知性と経験則からの行動。
どうすれば…逃げたいが退路がない…それに長期戦は仲間を呼ばれてこっちが不利。
うめきもしないからあっちはまだ余裕なのだろうどうすれば勝てる。
考えた戦闘パターンはまだあるけど通用するか怪しい。
「スゥ…スン…」
……?突然狐が戦闘体制を解いて木箱の中を漁る。
何がしたい?…急に喧嘩を売られ急に冷められてもこちらが困るのだが。
「えっ…ちょ…それ僕のみかん」
狐は先程まで食べていたみかんもどきを加えてその場を去っていった。
「何がしたかったんですか…」
もしかして…じゃれつかれただけ?
(分析が完了しました。
可視化できたステータスを表示します。)
「あっ…はい」
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種族 フォレストフォクス
性別 男性 状態異常 なし
基礎ステータス
魔力数値 306/334
筋力数値 201
耐久数値 151
速度数値 320
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………基礎ステータスの時点でボロ負けしてた。
相手のステータスは全体的に自分より格上で魔力にいたっては約3倍。
…これは完全に遊ばれたと思っていいかもしれない。
………
……
…
それから…狐は、自分を遊び相手と認識したのか週3のペースで飛びかかって来た。
日によって別の個体が襲って来て…飽きたらすぐに帰るその繰返しだ。
こちらとしては溜まったもんじゃない…退路の捜索を中断しないと行けないし採取した食料は奪われるし。
いつ食われるかがとても心配で気が気じゃない。
トレーニングになるが仲間と一緒に遊ばれた時はしんどいの一言に尽きた。
何がしたいんだこの狐達はと常々思う。
そんな日を繰り返していたある日初夏頃だろうか。
今まで見たことのない一匹の狐…他の狐より灰色の目立つ毛並みの個体が現れた。
他の狐とは違い飛びかかって来ず物静かにこちらを覗いている。
どう考えてもボスだろう下手に刺激しないように……
「子よ…貴様は何故ここに留まる…理由はないはずだ。」
…!!喋った?……いや口は動いてない…テレパシーの類いだ。
(スキル《以心伝心》による魔力干渉です。
言語の理解を無視してコミュニケーションが可能です。)
《分析》!?なんで勝手に…
分析が基本発動するのは僕が呼びかけた時だけだそれ以外だと補足説明の為に勝手に動いたり発動中に勝手に説明したりはあるが基本的に自身から出現しない。
(魔力干渉により半強制的に起動しました。)
………嘘をついても意味がないため正直に答える。
「単純ですよ…退路が見つからないからです。」
「貴様の遠視と鑑定ならば近くの村から逆算すればすぐだと思うが?」
スキルがバレてる…手の内がわかっているならば戦闘は避けたい。
「それなら確かに試みましたが魔力量が足りなくて断念しました。」
ボスギツネはこちらににじり寄り口を開く。
「…そうかそれともう一つ…貴様匂いからして混血だな…森人と人間の…貴様らの間では禁忌とされていた記憶がある。
そのような者がなぜここにいる?」
眼前に牙が見える嘘だと思ったのだろうか。
禁忌…僕が捨てられた理由は推理通りだったようだ。
「僕からは何とも…居場所のわからない親に聞いて下さい。」
………牙が引っ込むどうやら信じてもらえたようだ。
「…そうか………来い。」
狐は僕を通り過ぎ反対側へと足を進める。
「どこに?」無意識に声が出た…素朴な質問だ。
「人間で言うところの会議がある…貴様の処遇についてのな。」
キャラクター紹介
ハーフエルフ 女性
転生者で前世では高校2年の男だった。
幼少期から用心棒をやっている男から我流剣術を学んでおりその実力は全国でも指折り。
面倒見がよいがおっかない発言を連発するにも関わらず終始笑顔の為サイコパスと誤認される事が多い。
戦闘では学んだ剣術主体で習得した魔法で補助する中・近距離を得意とした戦いを好む。
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投稿遅れて申し訳ございませんストーリーそのものは自分の中では完成しているのですが文字にすると点と点が線にならず悪戦苦闘しておりました。
知人から細かく「切り分ければ?」というアイデアをもらいましたので今回のストーリーは中途半端ですがここで切り分けさせていただきます。
個人的には最後の会議の内容を載せたいのですが駆け引きが全然思い浮かばんのです。
最悪出ない可能性があるかもなので気になっている方は申し訳ございません。
個人的にも中途半端な代物ですが生存確認も兼ねて投稿いたします。